令和の時代も結構いいよ(と言えたらいいな)
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:Miyuki(ライティング・ライブ東京会場)
「あ、でも、やっぱり、どうしよう……」
そう思って、私は〝はた〟と立ち止まり、振り返った。
夜、仕事帰り、あと10歩も歩けば自分の住むマンションの入り口だ。
それなのにやっぱり気になって、狭くて暗い歩道のうえで立ち止まり、後ろを振り返った。
後から歩いてきた人は、そんな私を邪魔そうに通り過ぎる。
「それ」のことを気にも留めずに。
私は振り返ったまま、辺りを見渡す。
360°辺りをゆっくり見まわす。
それらしい人はいない。端から見たら私はちょっと挙動不審な人だ。
私は「それ」がやっぱり気になって、今来た道を戻る。
なぜならそこには、誰かのスマホが落ちていたのだ。
黒い大きめのスマホ。
そのスマホを探している、というような人は、辺りを見回しても誰もいない。
私は一度、それを見て見ぬふりをして通り過ぎた。
通り過ぎてから、なんだか気になり、振り返った。数人がそこを通ったが、皆なに事もないように通り過ぎて行った。
そこは、ちょっと古いマンションの駐車場の出入り口になっていて、街灯も暗い。
車が通れば、そのスマホはきっと車に踏まれてしまう。
「車が通らない場所に移動させて置いておこうか、落とし主が探しに来るかもしれないし」
「交番に届けようか」
「いや、見なかったことにして家に帰ろうか」
瞬時にいくつもの思考が走り、私は少し考えてから最寄りの交番に届けることにした。
その黒いスマホは背中側を上に、つまりは待ち受け画面が下向きになって落ちていた。
そのまま手に取ると、背中側にはコスプレアイドルかなにかの写真かシールが貼ってある。そしてチラッと待ち受け側を見ると、またコスプレアイドル風の女の子の画像が目に入った。とっさに私は人様のパーソナルな内側をその人の許可なしに覗き見してしまったように感じて、慌てて待ち受け画面を下に戻した。
そしてその瞬間「怖い!」と感じた。
「やばい、どうしよう、誰かがで出てきて、『なんだよ! 俺のスマホ勝手に取りやがって!』とか言われたらどうしよう。新手の詐欺だったらどうしよう。やっぱり、見ぬふりして帰ればよかった……」
突然恐怖にかられた私は、そのスマホを拾ったままの状態で、待ち受け画像を下にしたまま、交番へと猛ダッシュで駆け出した。
「交番に着く前に、私の手の中のスマホに電話がかかってきたら、どうしよう!!!
なんて言おう、『今、交番に向かってます』って言おうか。
いや、電話が鳴ったって、出るわけないじゃん。ああぁ、でも、なんか怖い。
どうか、電話がかかってきませんように!」
そう願いながら、猛ダッシュで交番へと走った。
交番へ入るなり私は
「はぁ、はぁ……。あの、拾って良かったのかどうか、分からなかったのですが、スマホが落ちていたので、届けに来ました。はぁ、はぁ」、と息を切らしながらお巡りさんに伝え、スマホを手渡した。
お巡りさんは「落とし物ですね」といい、落とし物手続きに必要なことを私に聞いてきた。
なんでも、落とし物というのは拾った人にその落とし物の一部か何かを要求する権利があるとかいうことで、どうしますか? 要求されますか? と聞いてきた。
私は両手で大きなバッテンを何度も作って言った。
「いりません! 私、何もいりません! 私の情報も落とし主には伝えないでください!!!」
お巡りさんは、はい、分かりました。では、〝要求しない〟と〝情報を開示しない〟というチェック項目にレ点いれてくださいね、といって書類を差し出した。
私はその書類に記入し、落とし物の届け出は無事終了した。
交番から家までの帰り道。私はまだドキドキしていて、これまた走って家へ帰った。
そのスマホを拾った場所ではもう一度、辺りを見回したが、誰もいなかった。
家についてもまだドキドキは続いていた。
……少し心が落ち着いてくると、私はふと遠い昔のことを思い出した。
あれは私がまだ小学校3~4年生の頃のこと。時は昭和50年代。
ある日、私はクラスメートと一緒に物産展か何かに出かけた。賑わいを見せているその会場を友達と歩いていると、5千円札が落ちているのを見つけた。
昭和50年代の5千円といえば、大金である。
私はそのお札を拾い、何のためらいもなく、係の人を探して「落ちていました」と届け出た。
そんなことがあった数日後、私の家に知らないおじさんがやってきた。
母が玄関を開け「どちらさまでしょう?」と言うと、そのおじさんは言った。
「先日、お宅のお嬢さんにお金を拾ってもらった者です。お金を拾って、きちんと届けるなんて偉いですね。おかげで助かりました」
遠い記憶に、おじさんはそんなようなことを言って、食べきれないほどのみたらし団子を土産に持ってきてくれた。
私はとても驚いた。嬉しかった、とかそんなことではなく、ただ当たり前のことをしただけなのに、わざわざうちを探し当て、大人がお礼にやってきた。
小学生のその行為を、そのおじさんは、とても価値のあること、と私に教えてくれるためにやってきた、そんな風に感じたのだった。
……そんなこともあったな、昭和の思い出。
我に返り、さっきのことを振り返る。
瞬時だったにせよ、どうしてあんなに「怖い」と思ったのだろう。
時代の影響かな……。令和の時代の。
ニュースを見れば、オレオレ詐欺なんてのがあったり、訪問診療のお医者さんが銃で撃たれてしまったり、電車の中で突然切りつけなどの事件が起きたり。
いつからこんな世の中になってしまったのだろう。
いや、待てよ、その出来事を受け止める私が変わったのかな。一人暮らしが長く、自分で自分の身を守るために必要以上に敏感になっているのかな。
いずれにせよ、昭和は良かった、なんてノスタルジックなことは言いたくない。
出来たらこの令和の時代、そしてこの先、生きてゆく時代に、どなたかのために、それが見知らぬ誰かでも、想いを馳せて〝何のためらいもなく〟行動できる社会や自分であるといいなと思う。小学生だったあの頃のように。
そう思えば、今日のことは良し! と、しよう。
「怖い」と思ったあの感情だって、とっさの事だったのだ。それも良し! と、しよう。
もう知る術は全くないにしろ、あのスマホが持ち主さんのところに戻り、その人がもし「良かった。拾ってくれた人がいた。この世もそう悪くない」なんて思ってくれたなら万々歳だ。
「令和の時代もそう悪くない、いやいや、結構いいよ!」
そういえる社会や自分でいられるかどうか。
それはやっぱり日々の自分の小さな行いの積み重ねなんだろうなぁ、きっと。
そう言えるよう、日々精進していこう、と思う令和のある夜の出来事でした。
***
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