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虎の尾を踏んでも嚙まれない智恵 ~最高に自己中心的な人間になる事~


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:尹玉(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
「私さ、うつになっちゃった…」
突然訪ねてきた後輩がいきなり打ち明けた。
 
「えぇ~? どうしちゃったのよ」
つい半年前まではとても元気で明るかった。ずいぶんとやせ細ってしまった彼女の変貌ぶりに驚きを隠せない私。
 
「あのね、自分が自分でなくなった気がして…」涙で声にならない声で呟いた。
 
新社会人として今の会社に就職した彼女。希望と不安に燃えながら新しい環境に身を投じた彼女だが、仕事になかなか慣れていけない上に、上司・同僚とうまく人間関係を築くこともできず孤独感を深めたらしい。
それと、いつも誰かが上司に怒鳴られる職場のピリピリした雰囲気中で、身心が追い付いていけず、ついに心療内科で薬をもらうことになり、登社拒否になったそうだ。
 
コロナ禍の就職氷河期で勝ち取った就職先。喜んだのも束の間。学生身分から大人の世界へ足を踏み入れた社会人一年目で、いきなり大人の世界の理不尽さや人間関係の難しさを体験したのである。
 
20年前の社会人一年目の自分の姿を重ねてみた。うつにはならなかったものの、先輩に怒鳴られてトイレに隠れて泣いて、目を腫らして出るに出られなかった時を思い出す。
予算通りの営業成績を上げられず、先輩に頭を下げて数字を借りにいった屈辱的な思い出もある。「お前なんて営業失格だから、やめていけ」と数え切れないほど言われた。
 
虎の尾を踏むような難しさ、危うさを感じながら日々を過ごした社会人一年目。あれから20年立って、今は会社の社長の立場で部下を持つ身になった私。振り返ってみれば、「そんな時もあったのね」と笑い話しになる。
 
人生の中では、時には自身に危機や困難、苦しみを与えてくれる「虎」のような手ごわい存在に出逢うことがあるのだ。
「虎」のいない世界でのびのびと暮らしたいと願うものだが、角度を変えれば人生の中で「虎」は貴重な存在かも知れない。困難なことや、自分を苦しませてくれる「虎」は自身を飛躍的に成長させてくれるありがたい存在、協力者であったことに後に気付く時が来るのである。
 
人生の体験において「虎」は不可避な存在とするならば、そこから逃げずに付き合い方を考えてみるのはどうだろうか。
「虎の尾を履む。人を咥(くら)わず。亨(とお)る」という易経から出てくる言葉があるが、ここから多いに人間関係のヒントを得られたものだ。
 
易経は中国の最古の経典で、自然現象の摂理を人間世界に当てはめて、どうしたら道から外れない人生を送れるのかを示してくれている最高の人生ガイドブックなのだ。
易経64卦は64通りの人生場面を表しているが、「虎の尾を踏む……」は第10卦「天沢履」で出て来る言葉である。「天沢履」では人間関係をうまくいかせる鉄則を説いているのである。
 
「虎の尾を踏む」という言葉の意味は、凶暴な動物である虎の尾を履んで噛まれそうになる危機的な状況を意味する。しかし、たとえ虎の尾を踏んだとしても、噛まれないような智恵があれば、人生がうまく亨(とお)っていくのである。
 
天沢履の「履」の字は契約や法律、義務などを履行する、履歴などで使っている文字だが、その意味としては履(ふ)み行うことである。
履の発音は中国語では礼、理とも似ていて、礼儀、天理の意味も含まれている。
 
契約や法律義務などを履み行う意味だけでなく、踏み行うべき「礼儀」のことを「履」とも言う。履卦は礼儀の卦でもあるのだ。「礼儀」を失う、つまり「失礼」した時、周りの誰もが凶暴な「虎」に変身する可能性があるのだ。
 
論語で孔子がこのような言葉がある。
非礼(ひれい)に 視(み)ること勿(なか)れ、非礼(ひれい)聴(き)くこと勿(なか)れ、非礼(ひれい)言(い)うこと勿(なか)れ、非礼(ひれい)動(うご)くこと勿(なか)れ
 
これが日光東照宮で有名な「見ざる聞かざる言わざる」三猿の語源になっているようである。礼節を規範としていないものは、見ない、聞かない、言わない、行わないのが、実は自身の心身を護る上での行動技術なのかも知れない。
 
「虎」だと明らかにわかるものは、慎重に警戒することもできるが、隠れている虎は気付かないものである。自ら虎の尾を踏まない為にも周りの誰に対しても礼を尽くす必要があるのである。
 
もう一つの角度から見ると、「天」は剛健なもので、能力が高い人を象徴するが、「沢」は少女のような柔らかい、弱いものを意味する。
 
足が速くて強い人の後ろで、足が弱く遅い人がついて行こうと思えば並みの辛さではない。
能力が高い上司の後ろで、能力が弱い人がついて行こうと思えば、それは大変なことである。時には「虎の尾を履む」ような難しさ、危うさも伴うこともあるだろう。
 
だからこそ、能力が高い人についていくには、大変な努力をしなければならない。
しかし、同じく努力をするにしても、どんな心構えで努力しているのかが大事なのだ。沢は「悦(よろこび)」の意味合いもあるのでどんなに難しいことに臨んだとしても、常に和やかで悦びの心をもって励んでいたら、高い地位にある者(虎)も決して危害を加えることはないのである。これが「虎の尾を履む。人を咥わず。亨」という意味なのだ。
 
良い人間関係を作る心構えは「最も自己中心的な人間」になることなのかも知れない。大変な状況の中でも喜(悦)びを見出していくには、あらゆる人間関係を自己の成長に生かしていく事ではないだろうか。
 
もし、自分を困らせる「虎」に出会ったら、「楽しい」とは言えないかも知れないが、まず「面白い」と言ってみよう。そして自分はどう対処していくのか、ある意味ゲーム感覚をもって、ちょっと上からの目線で考えてみると、なんだか楽しささえも覚えるものである。
 
自分を中心として、すべての関係を、自分を発達・進化させる経験として捉えると、常に自己実現の喜びがあるのかも知れない。
他者がいないと自分は何者でもない。あらゆる人間関係はほんとうの自分を経験するためのチャンスを与えてくれる感謝すべき存在なのだ。
 
「最高に自己中心」な人間は誰かを変えさせようとはしない。自らをどんな虎とも平和に付き合える「虎使い」に変身させるのである。
 
 
 
今、虎に泣かされている新社会人よ
 
虎を避けて通る道もあるかも知れないけど、虎を最高の味方にする道もあるのだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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