自分に〇をつける
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:玉置裕香(ライティング・ライブ福岡会場)
暗闇の中、私は走っていた。どこに向かっているのかわからない。でも何かが追いかけてくる。不安が私の中に渦巻いていた。出口のない迷路のようだと思った。
「ここは、どこ?」
はっとして、目が覚めた。私は自分のベッドにいた。夢を見ていたのだと気づく。
まだ外は暗く、時計は5時10分を指していた。目覚まし時計よりも早く起きてしまったと、また思った。
新しい職場になった。初めての電車通勤。朝から学生や会社員でいっぱいだ。
仕事も初めて尽くし。楽しい、ワクワク、朝から楽しみに起きていた。
でもそれは最初の1週間だけだった。
次の週からは、分からないことだらけなのに、独り立ちを早く促されて軽い放置プレイになった。昼休憩中は同期と食事をしながら一休みをした。でもそれは間違いだったらしい。昼食をすぐに済ませて、先輩の仕事を見に行くのが当たり前、とあとから先輩に指摘されてしまった。それからは昼休憩も心が落ち着かなくなった。
ここでは何が正解なのだろう。
今までできていたこともできなくなった。器用なタイプではない私は、新しい職場に萎縮してしまった。同期は先輩からのプレッシャーに負けまいと、器用にこなしていく。横目でうらやましいと思いながら、できない自分が歯がゆかった。
遅刻してはならないという軽いストレスと、早く新しい職場に慣れることへのプレッシャーで毎日アラームが鳴るよりも早く目が覚める。
通勤の電車で、昨日の復習をする。その日言われたことはメモして、時間があるときに勉強する。朝から晩までずっと仕事のことばかり考える、そんな緊張状態が続いた。
これできない、あれもできない。勉強しなきゃ。
焦りだけが先走る。何も進んでない。何もできないことがつらい。
仕事が終わり、今日もわからなかったところを復習した。隣の部屋では先輩と同期が談笑する声が聞こえていた。復習がようやく終わったころ、もう職場には誰もいなかった。
駅までの帰り道。私はとぼとぼ歩いていた。明日は休みでやっとゆっくりできる、そう思った瞬間。私はぽろぽろと泣いてしまった。
なんで私はできないのだろう。
なんで同期みたいにうまくいかないのだろう。
なんでこんなに自信がないのだろう。
こんな自分、もう嫌だ。
変わりたい。
そんなときだった。近くの書店で本を眺めていると一冊の本が目に留まった。
自己肯定感を高めるには習慣が必要、とあった。
「どういうことだろう?」私は気になって買ってみた。
その本にはこう書いてあった。他人が1褒めたとしても、自分自身が10けなせば9のマイナス。それが積み重なると自分はダメだと思い込む。逆に、他人に9けなされたとしても、自分が10受け止めてあげればいい。そうして1を積み重ねていく。自分を育てるコーチとなって、自分にOKをだしていく。小さな習慣、思い込みが意識にも変化をもたらす、とあった。
「そうか。失敗してはいけない、同期のようにできないといけない、早く慣れないといけない……。いつも〇〇でないといけないと勝手に思い込んで、できないとすぐにだめだと自分にレッテルを貼っていた。不器用な私が新しいことにチャレンジしているのだ。初めからできないのは当然だ。どうしたらできるようになるか考えながら、できることを少しずつ増やしていこう」
ウサギとカメを思い出した。私はカメなのだ。一歩一歩、自分の足で進むしかないのだ。
進むためには、きちんとゴールを定めないといけない。
明確なゴールと、達成するまでに必要なステップを確認していく。
時にはご褒美も設定して、ゲームをクリアしていくように、進んでいく。考えていくと楽しくなった。独創的なアイデアを生むことはできないけど、基礎を忠実にこなすのは得意だ。
私はそうやって、今までいろんな試験をクリアしてきたな、と思い出した。
あとはコツコツ、コツコツこなしていくだけ。
焦る必要はない。人と比較する必要もない。
昨日の自分と比べて、少し進んでいたらそれでいい。
朝、目覚ましの数分前に自然と起きるようになった。不安で責め立てられるようなことはなくなった。
ストレッチをしながら、体の声を聴いていく。
私は日々の習慣を少しだけ変えた。
朝の電車の時間は自分の目標、今週、今日クリアしたい課題を確認する。
帰りの時間は今日の復習として、できたことや次の課題をリストアップする。
のろまなカメは自分が今どこにいるかを忘れない。全体のどの位置にいるのか。必要なものを忘れてないか。自問自答を繰り返す。
ウサギの良いところを見習っていく。切磋琢磨ができる同期がいることはとてもうれしい。
そして、いま、私を必要としてくれる居場所があることに感謝をする。
電車に揺られ、1日を振り返る。
さあ、今日も自分に〇をつけていこう。