夫婦は、“一如”ですよ
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記事:河野 眞寂(ライティング・ゼミ2月コース)
「夫婦はね、“一如”ですよ」
子どもができず、こじれた夫婦関係に悩んでいた時、ある僧侶に言われた言葉だ。“一如”とは、仏教の言葉で一つという意味。私と、夫が一つだなんてあり得ないと思った。
私には、子どもがいない。なぜ子どもがいないのか。
それは、子どもを持つことに対して、夫との話し合いがうまくいっていなかったからだ。
日本人は、セックスレスの夫婦が多いと言われている。例に漏れず私たち夫婦もセックスレスだった。しかし、結婚したての頃、肉体関係があったかというと、なかった。では、付き合っているころはどうかというと、その時はあった。確かにあった。では、何が原因でセックスレスになったのか。
それは、結婚という節目で、夫の中で何かが、変化したということだ。思うにそれは、私が、「恋人から妻になった」ということだ。
妻になったら何が起こるか。
婚姻届けという一枚の紙で、法律的にも別れるということは、難しくなり、私が夫と別れようとすると、社会的なハードルを一つ越えなければならなくなったということだ。私は、法律という囲いに囲まれた羊のようだった。
男の人で、「釣った魚には餌をやらない」という人がいる。それは、夫のことだ。本当に、結婚したとたんに無くなったセックス。では、その情熱はどこへ注がれているのか。
夫の場合は、仕事だった。
付き合っている頃は、仕事も早く切り上げていたのに、結婚したとたんに帰りが遅くなった。土曜も日曜も仕事へ向かい、私に費やす時間が無くなった。
極端な変化。新婚当初は、この急激すぎてわかりやすい変化を、夫に何とかしてほしいと泣いて訴えた。けれど現実は変わらなかった。
世間を見渡せば、妻や子どものために家庭に時間を費やす男性もいる。そう考えると、悪質物件をつかんだとしか言いようがない。
なぜ今でも夫と一緒にいるのか。それは、経済的にも私の生活を支えているから。そして、時間の経過とともに、“情”が出てきたとしか思えなかった。
しかし、長く一緒に居ることで、“情”だけでは、片づけられない“何か“が、夫婦のなかに発生しているようだ。それに気づかされる事件”が起こった。
3月、夫の職場で移動が発表され、夫は遠い離島への転勤を余儀なくされた。今回の離島は遠く、飛行機でも1時間。船なら11時間である。
遠い。そんなところまで夫について行くのか私。
だが、迷っている私に、夫から意外な言葉が飛び出した。
「あなたも両親の心配があるだろうから、単身で行くよ」
思ってもみない発言だった。今までは、単身赴任などあり得ない。妻は夫についてくるのが当たり前とはっきり言う夫だった。どういう心境の変化なのか。しかし、それ以上に自分の返事に驚いた。
「離れて暮らすのは、嫌」
今まで、セックスレスで、不妊治療にも耳を貸さなかった夫に対して、私の人生を取り上げた犯罪者扱いをし、「死ねばいいのに」とさえ思ったことがあった。そこまで、否定してきたのに、いざ別々に生活するとなると、言いようのないさみしさと悲しさがあふれてきた。
しかも、今回の夫の異動は、制裁人事と言わんばかりの異動だった。夫にとっては、ひどい人事だった。私のこと、家庭のことを垣間見ず、一生懸命働いて成果を出したのにも関わらず、左遷のような人事だった。
一番ショックを受けているのは、夫だ。
それを、考えるといくらひどく否定している夫でも悲しかった。移動を聞いた時は、さすがの私も思わず泣いてしまうほどだった。
夫を、このショック状態で、一人でそんな遠くにやるなんてできない! と思った。
私自身もその心境の変化に本当に驚いた。変化を起こしたものは何なのだろうか。
看護師で働いていた時、終末期(がんなどで死期が近い時期)の人とそのパートナーは、とても仲が良かった。終末期の人の痛み(精神的にも、身体的にも)をまるで分かち合っているような姿だった。その姿に心を動かされた。こんな夫婦になりたいと思った。
どんな夫婦でも、山があり谷がある。時には、けんかや憎みあうことだってあると思う。でも、一緒にいて痛みを分かち合っている。看護師だった私は、それが“情”のなせる業だと思っていた。
でも、今ならわかる気がする。それが、お互いの愛の力だと。
愛は、心の浅いところからではなく、私の中の憎しみや怒りを超えてはるかに深いところから、私の言葉や行動を変えたものだった。
「夫婦はね、“一如”ですよ」
あの時の僧侶の言葉が思い出される。
夫の痛みをまるで自分の痛みのように感じ、悲しいと思った。それは、まるで、一如の世界。一つの世界だと思った。その世界の鍵となるのは、“愛”なのだと実感をもって感じる体験だった。
これからも、夫婦の関係は続いていくのだろう。“情”と“愛”を伴って。“一如”の世界で。
***
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