あまりにも無粋な、おふくろの味
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記事:黒﨑良英(ライティング・ゼミNEO)
「おふくろの味」と聞いて、皆さんが思い浮かべるのは何だろうか?
味噌汁? 肉じゃが? 野菜炒めに煮っころがし? あるいはその地域の独特の料理かもしれない。
決して有名料理店の料理のような素晴らしい味ではない。でもおいしい。何度食べても飽きない。そして、母の優しさを思い起こさせる……そういったものがいわゆる「おふくろの味」である。
ところが、このおふくろの味、往々にして問題点がある。
塩分が多すぎるのである。
そりゃあ、おいしいということは、少なからず塩加減が関係しており、決して少ないということはないだろう。
私なぞは腎臓に持病があるため、塩分制限は必須だし、そうでなくても、日本人は塩分を取りすぎの傾向にある。
栄養士の方に言わせれば、成人男性の一日の塩分摂取量の目安は、7.5g未満、成人女性なら6.5g未満が望ましいという。
だがおふくろの味にありがちなメニューは、往々にして塩分過多の食品ばかりだ。
さて、ここまで読んできて、読者の皆さんの心の叫びを代弁させていただくなら、
「無粋なこと言ってんじゃねぇ!!!!」
あたりではないだろうか。え? そんなに言葉は汚くない? 失礼、
「野暮なことをお言いにならないで、このスカタン!」
あたりだろうか。あー、いや、言い方はどうでもよいのだ。とにかく、あの愛情あふれた母の料理に、健康科学的に言葉をかけるのは、無粋の極みであり、野暮の骨頂であり、空気の読めない愚か者であろう。
いや、本当に不快にしてしまったなら申し訳ない。この通りだ。
しかし、幼い頃から食事制限をしてきた私にとって、おふくろの味は、皆が思っているのとは、少し違うのかと思う。
それは、ただ白米を握っただけのおにぎりだったり、味をつけていない揚げ物だったり……上で言ったところの「無粋の極み」にある料理であった。
当然、家族は物足りない。だから、私だけ別メニューである。カレーなどは別の小鍋で作っていた(普通のカレーは具材のせいでタンパク質やカリウムが多い)。野菜だって水を通したり、レンジで温めて温野菜にしたりしていた(カリウムを抜くため)。
塩気やうまみ成分であるタンパク質が少ないため、劇的なおいしさはない。それでも、その中で、制限がある中で少しでもおいしくしようとの工夫がされていて、私にとっては満足であった。
そんな中で唯一例外であったのが、味噌汁である。
母は、みんなと同じ小鍋で味噌汁を作り、それを私にもくれた。
ただし、「実」だけである。そう、我が家の味噌汁は具材の野菜を食べるものとして作られている。
従って私には汁はない。お椀の中には色とりどりの具材のみがある。
にんじん、たまねぎ、豆腐。季節によっては蕪(かぶ)やジャガイモなんかも入っていた。
そうだ。強いて言うなら、これこそが私にとってのおふくろの味であった。
塩分は摂らせたくないが、それでも野菜の栄養は摂ってもらいたい。そして、今日も一日健康で過ごしてもらいたい。そういう母親の心情がにじみ出た料理だ、というのは考えすぎだろうか。
確かに、この世にはおいしいものがいっぱいある。
しかし、「おいしい」だけが「本当においしい」を表しているわけではない。「本当においしい」ものの中には、おそらく、嬉しいとか愛おしいとか、そういった思いが隠されているはずだから。
ジャンクフードや評判の店、そうでなくとも外食全般。それらはおいしさを追求するために様々な努力と工夫をしている。
そこに、「塩分が多すぎる」とか「タンパク質が多すぎる」とか、そんなことを言ったら店側から一斉に攻撃される。健康に良いというのと料理の味は、必ずしも両立しない。
「健康のために……」というのは間違ったことではないのだが、「無粋だ!」「野暮だ!」と言われるのも当然であり、これも間違ったことではない。
したがって、そこは個人がどちらを重要視するかにかかっている。
私は当然健康を選ぶ。選ぶ、が、それでも時として味をとりたい時もある。
それもよい。体が許されるなら、時と場合によって、重要視する項目を変えるのもよいはずだ。
だが、それでも、自分を形成してきた幼少時の食事が(もちろんこれは手作りとかおふくろの味とかにこだわらなくてよいのだが)自分の中心として心の……いや、舌の奥底に鎮座している。
私にとっては、それが塩気のないおにぎりだったり、塩気のない揚げ物だったり、具だけの味噌汁だったりするのだ。
健康に留意する食事というのは、確かに無粋であり野暮であり、必ずしもおいしさを伴わなかったりする。しかし、その「無粋さ」とは、食べてもらう人の健康を考える、「愛情」の現れである。
もっとも「愛情」でおいしさが変わるものかどうか、甚だ疑問だが、それでも、それがあるのとないのでは、大違いだと思う。
私は無粋ながらも、工夫と愛情のこもった料理で育てられた。
それが私の食の基本であり、いわゆる「おふくろの味」だったのだ。
あなたも、今一度、あなたの「おふくろの味」を思い出してほしい。
そこには、料理としては無粋きわまりない、あなたへの愛情が隠されていたのではないだろうか。
***
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