占いを信じてなかった私が占い師になった訳
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記事:鈴木みえ(ライティング・ゼミ4月コース)
「あなた、お金には苦労しないけど、愛人として生きることになりそうね」
薄暗い部屋で中年の女性は言った。
短大に入学して暫く経った頃、私達の話題の中心は勉強のことではなく、恋愛だった。
気になっている人に彼女がいるか、今の彼とは相性が良いか、いつ彼ができるのか……。
夏休みも近かったせいか、みんな妙に浮足立っていた。
「すごく当たる占いのお店があるらしいよ」
昼休みお弁当を食べながら友人のひとりが言った。
「行きたい!」みんな同時に答え、顔を見合わせくすくすと笑う。
早速、その日授業が終わったら行くことになった。
みんな「その彼とうまくいきますよ!」とか「素敵な出会いがありそうね」と言われることを想像してにやにやしている。
そのお店は川沿いの古い雑居ビルの中にあった。
重そうなスチールの扉の前には、通路に沿って女の子達が列をなしていた。
良く当たる、というのはどうやら嘘ではないらしい。
だが、私は占いというものを一切信じていなかった。
なぜなら、私には誕生日も血液型も同じで、生まれた場所も近く、名前も一文字違いの友達がおり、雑誌に載っているどの占いを見ても、彼女と見るページは同じだったが、実際の性格や運気が全く違っていたからだ。
「占いなんて、胡散臭い」そう思っていた。
でも、みんなが盛り上がっている中、自分だけ行かないとは言い出し辛く、とりあえず行って自分の順番が来たら「やっぱり私はいいや」そう言うつもりだった。
列が進み、その重い扉を開けて中に入ると、部屋の中は薄暗くその奥に布で仕切られた小部屋があった。
そして、その布の隙間からぬっと顔を出した中年の女性が私を指さし「あなた」と手招きしたのだ。
ダメだ。一発目じゃないか。断れない……。
そう思ってその小部屋に入ったら、いきなり愛人として生きるかもね、と宣言されたのだった。
なんてことだ。18歳の夢見る少女になんてこと言うのだろう。
だから占いって……。と怪訝な顔をしていると
「あなたね、今、友達に夜の仕事を手伝って、って言われてない?」
びっくりして声が出なかった。
数日前に地元の友達から自分が働いているスナックでアルバイトをしないか? と持ち掛けられていたのだ。
夏休みに友達と旅行に行きたいし、時給も良いからちょっとやってみようかなと軽い気持ちで考えていたのだ。
「それ、断りなさい。そうしないと家庭を持つ事ができないわよ。ま、愛されるしお金には困らないから、それはそれでいいかもしれないけどね」
それから30数年が経った今、家庭を持つこともでき平凡だが幸せに暮らしている。
その時、その占いを信じた訳ではないのだけど、なんとなく友達の誘いは断った。
もちろんそのもうひとつの未来は確かめようがないのだが。
そして、今私は占いを生業としている。20年で延べ5万人以上を鑑定してきた。
占いを信じてなかった私がなぜそうなったのか、の話をしようと思う。
まず、あの時、運命の分岐点だったかもしれない私に、根拠もなくふたつの道を示してくれたことがとても印象的だったことと、生年月日も名前も何も伝えなかったのに状況を言い当てられたことが不思議でならなくて、それが心のどこかに残っていたのだろう。
24年前、私は子育て中のママの癒しの場をつくりたい思いから、自宅の一室でマッサージサロンを始めた。
それは口コミでどんどん広がり、数年でなかなか予約が取れないサロンにまで成長した。
とても忙しく、来る日も来る日もマッサージをしていると、だんだんその人の状況が頭の中に映し出されるようになってきた。
そして恐る恐る「今、もしかしてこんなことで困っていますか? こんなこと言われていませんか?」そう聞くと「え? なんでわかるの?」という答えが返ってくるのだ。
まるであの時手招きしてきた怪しげな女性のようではないか。
だけど、同時に思い出したことがあった。
子供の頃の私は少し変わっており、人が話す言葉と心で感じている言葉の区別がつかなかったのだ。
そのため、話すことが怖くて自分の中の自分と人の中にいる人と会話をする癖があった。
おしゃべりをしない私を祖母はとても心配していたと聞いた。
マッサージをしていると、気がついたらその会話をしているのだ。
心と身体は繋がっているというが本当にそうだと思う。本当に悩んでいることを言葉にできない人はとても多く、そしてそれは徐々に身体に影響していくことがある。
こんがらがった感情や先の見えない不安は身体を強張らせる。癒えない傷や悲しみは身体の冷えに繋がっている気がする。
「占い」というと、怪しいというイメージを持つ人もいるが、私は心のマッサージだと思っている。
ぎゅっと握りしめていた不安や悲しみの手を開いたとき、何かが流れ始めるのだ。
心が整うと身体も元気を取り戻し始める。逆もまた然りで体調も心に影響を与える。
また、誰でも人生に何度か分岐点が訪れる。
時には恐れから立ち止まってしまうこともあるだろう。
自分が何を望んでいるのか、について考えるチャンスでもあるが、暗闇の中で小さな光を見つけることがひとりでは心細い時がある。
私自身もそうだった。
そんな「どうしようもない不安」を救ってくれたのは「占い」という名の「セラピー」だった。優しい言葉がすっと心に沁みて、またがんばろう。そう思えたのだ。
自分もそんな風になれたら良いな、そう思っていたら数年後、本業がマッサージではなく占いになっていた。
占いなんて。と言っていた自分に今の自分を見せたら何て言うだろう。
きっと目を丸くして「信じられない」そう言うだろう。
身体のマッサージを受けるような気持ちで、ちょっと占っていきませんか?
***
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