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沖縄でお葬式をあげた話


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記事:ペンギン(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「沖縄のお葬式」と聞いて、みなさんはどんなイメージをもたれますか?
 
本土に住む人なら、沖縄だからなにか独特な風習がありそうだな、とか、テレビなどで見た半袖黒シャツの「かりゆしウェア」が喪服として着られている様子を思い浮かべる人もいるのではないでしょうか。
 
かくゆう私は愛知県の名古屋市出身。いまも名古屋に住み、親戚に沖縄出身の人はひとりもいません。
 
けれど8年前、私の母が亡くなったとき、母は沖縄に住んでいたことから、お葬式をそのまま現地であげることになったのです。
 
当時私の母は単身で沖縄県に移住していました。沖縄の大学で、院生生活を送るためです。
 
このときは、沖縄に伝わる伝統的で、本格的なお葬式をとり行ったわけではありませんが、あちこちに沖縄のエッセンスが散りばめられた、「沖縄プチ体験」のような葬儀になったので、そんな思い出話を少しご紹介したいと思います。
 
沖縄でのお葬式。それは例えるならば、夏休みのラジオ体操、のようでした。
 
10月も終わりが近づいていたある日、名古屋に住む私のもとに突然の訃報が入りました。6月頃から大きく体調を崩していた母が、自宅療養中に意識がなくなり、救急搬送されそのまま亡くなったとのことでした。当時母は60歳。私はすぐに那覇行きの航空券を予約し、仕事先や子どもの保育園にお休みの連絡をしました。
 
沖縄といえば旅行先、という考えの人がほとんどだと思いますが、もちろん私も旅行以外の目的で行ったことはありませんでした。旅行に行く時のウキウキな気分とはほど遠い、でも現実感の薄い不思議な感覚のまま、1歳の娘を連れて、2日後には那覇空港行きの飛行機で現地に向かいました。
 
空港には母が沖縄で親しくしていたという、30代くらいの女性が車で迎えに来てくれました。やさしい雰囲気の女性で、「じゃあ向かいましょうか」と特に悲壮感もない様子で車まで案内してくれました。私に気を使って、というよりは、普段通りというか、とても自然な感じでした。
 
先に到着していた姉と、そして母の再婚相手と、母の暮らしていたマンションで合流しました。少し補足をすると、母の再婚相手は普段は東京住まいで、二人は遠距離の結婚生活を送っていたのです。
 
お通夜とお葬式は現地の葬儀会館で行い、東京で懇意にしているお寺と同じ宗派のお寺が近くにあったため、そこのお坊さんを呼ぶとのこと。なので基本的には本土で行うお葬式と変わらないようでした。納骨するお墓も東京のお寺です。葬儀会館に着いたのは午後3時ごろ、しばらくは母の遺体と対面しました。
 
再婚相手の人は控え室で、私に「こういう風になったよ」とその日の地元の新聞を2紙見せてくれました。そこには母の名前と、葬儀の日時や会場が載っていました。沖縄では、特に著名人でなくても亡くなったら荼毘(だび)広告として新聞に訃報を掲載するのが一般的なのです。また、地域によっては町内放送で訃報を流すため、それを見たり聞いたりして近所の人が気軽に参列するのだそうです。
 
夕方、お通夜が始まりました。このお通夜と翌日のお葬式の記憶が混ざってしまっているのですが、母の死が突然のことだったので、本土からの参列に間に合わない親族、知人友人も多く、どちらも人はまばらでした。控室には、沖縄の郷土料理を持ってきてくださる人がいたり、ユタの人がお祈りをしていたり、常に人がいて賑やかだったのを覚えています。母の大学での仲間や先生も参列してくれました。
 
葬儀が終わり、お香典を集計していた母の再婚相手が「えっ」とか「あれ?」と声を出していたので見に行くと、どうやらひとりあたり3千円とか5千円がほとんどで、東京の相場とだいぶ違ったため思わず驚きの声をあげていたようです。沖縄の香典相場はやはり3千円~5千円くらいのようで、再婚相手の人が目を丸くしていたのが面白かったのと同時に、この辺りの沖縄のカジュアルさがとても好ましく感じました。
 
また、火葬場に行ったとき、ほかに亡くなった方の親族も2,3組ほど待機していたのですが、それぞれ名前の下に書かれている享年が、103歳とか、98歳とか、「やっぱり沖縄は長寿の県なんだなあ」と思ったのを覚えています。そこで私たちと同じように火葬を待っている人も、半袖ということもあるのか、とても日常感がありました。本土のお葬式でも年配の方は落ち着いているものですが、もっとカジュアルな雰囲気も感じられたのです。
 
なにも気取ることのない、カジュアルで、日常に近い感じ。これが沖縄での母の葬儀で、一貫して感じられたことです。
 
そのせいか8年経ったいま思い出しても、悲しさで埋めつくされるようなことはなく、不思議と安心感のあるものになっています。沖縄の人にとっては、人が亡くなって、それを見送る、ということは生活のなかで起こる日常の出来事で、「沖縄では死者との距離が近い」などといわれるような、独特の死生観が関係しているのかもしれません。近所の人が集まって、淡々と、平和にとり行う、夏休みのラジオ体操のようなものだと思ったのです。
 
 
 
 
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2022-06-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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