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あまり知られてないけど本当は凄い人がやっていること


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記事::中村健二 (ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「一芸を究めない」というタイトルの本が気になって読んでみると、著者の藤井青銅氏は実は私の憧れの人物で、小説やエンタメの世界にのめり込むきっかけになった人物だと分かった。
今から40年ほど前、1980年代に民放ラジオで「夜のドラマハウス」という番組があった。月曜から金曜まで、のラジオでショートドラマが放送されていた。毎日違う題材でドラマが展開され鮮やかな幕切れにしびれた。
その書き手の一人が藤井青銅氏だったのだ。
完全に記憶の彼方に消えていたのが、ショートショートの魅力を知ったのも「夜のドラマハウス」からで、それがきっかけで、星新一やO・ヘンリーのような短編小説の名手に興味を持つようになったのだ。
これだけ影響を受けたものを忘れてしまうのが、このドラマの作者の名前がのちに小説やドラマの中で知られることがなかったからだろう。
星新一を忘れないのに、それを知るきっかけになった「夜のドラマハウス」を忘れてしまうなんて……
考えてみると、自分が本当に好きだったエンタメ作品は、けして大ヒットしたメジャー作品ばかりではないはずなのに、時代を経るに連れて、マスコミではメジャー作品しか取り上げられないので、無名のものを記憶にかきけされていくようだ。
しかし、藤井氏その経歴を知ると、実は凄い人物であることに、驚かされた。
まず、星新一氏が監修したショートショートコンテストで入賞してデビューに至った星氏の弟子的な存在だった。
ウッチャンナンチャン、伊集院光、オードリーの放送作家でもあり、柳家花緑氏の創作落語の脚本も書いているという。
一芸を究めてないけど、実に様々な一流の人との裏方として、第一級の仕事を残している。
つまり、小説家としては村上春樹とか東野圭吾とか、脚本家としては、宮藤官九郎や三谷幸喜とか、といったような誰もが知っているような作家ではないけど、実は知る人ぞ知る存在なのだった。
そこで、私は大相撲で活躍する小兵力士を連想した。
照強(てるつよし)、炎鵬(えんほう)は、けして幕内上位までに番付が上がることはない、ましてや横綱、大関、のようなトップになる可能性は低い。しかし、毎回の取組みで相撲ファンを喜ばしている。
BS1で放送された「大相撲どすこい研」という番組で「小兵力士」が取り上げられたことがある。解説の二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)は、毎回土俵に上がるときは、自分の相撲を取りきることしか考えていなかったと語った。
一方、炎鵬や照強は、相手が得意な形にならせないことだけを考えていたという。
横綱と小兵力士では、戦いのスタイルも考えていたことも全く真逆だったのだ。
これが野球に置き換えてみると、大谷翔平が対戦相手のピッチャーやバッターにどう対応するか考えてプレイしているとは考えにくい。
どんな状況でも、誰が相手でも大谷は大谷のバッティングやピッチングを貫く。だから、圧倒的な結果を出している。まさしく横綱相撲だ。
現実の世界で、どのジャンルでも横綱相撲がとれる人がどれだけいるだろうか?
自分のポテンシャルをそのまま磨き続ければ結果が出るのは、どの世界でも本の一握りに過ぎないはず。
だからこそ横綱は73人しかいないのだ。
ということで、ほとんどの人は横綱スタイルで努力しても横綱にはなれない。大谷翔平のやったことを真似して努力しても、大谷翔平にはなれない。
圧倒的に能力がある人のやっとことは、凡人にはあまり参考にならないのだ。
凡人が学ぶべきなのは、「一芸を究めない」藤井氏や小兵力士のやり方なのだ。
相手のやり方を知って、それに対応していく、その裏をかいていく。
凡人が生き残る道はそれしかないのではないか。
藤井氏や小兵力士は努力や実力が足りなかったから、超一流になれなかったのか?
そんなことはない、人一倍の努力をしてきたはずだ。
「大相撲どすこい研」では、さらに面白いデータを提示していた。スピードやトリッキーな戦略で勝ち星をあげるイメージの小兵力士だが、実は決まり手は「押し出し」や「よりきり」が一番多いのだという。
つまり、相撲の基本の身体や型づくりを、地道に行って行わないと、長く相撲の世界で活躍するのは難しいのだ。
「一芸を究めない」藤井氏にしても、デビューしてからは、古今東西のショートショートを読み漁り研究し、自分のものにし、そこに新たな色を加えていった。
ショートショートのストーリーテリングが藤井氏のスタイルになって、様々なジャンルに応用されていったのだろう。
凡人が藤井氏に学べる点は2つ。
まず、自分のスタイルを究めるために基礎をしっかり固める。
その上で、いろんなものに興味を持ち、様々なことに柔軟に対応していく。
「一芸を究めない」というタイトルにはなんだかかっこ悪い、情けない印象があるが、実は1つのスタイルを貫き通した男の矜持が込められている。
 
 
 
 
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2022-08-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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