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トイレは異文化理解の入り口


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:淵江沙帆(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「海外に住んで、改めて偉大だと思った日系企業は任天堂でもSONYでもなくて、TOTO」
 
ある日、何気なくスマホでTwitterをチェックしていると流れてきた。
フォロワーのフォロワー、友達の友達だろうか。とある海外在住の人の発信したツイートが、多くの「いいね」を獲得して私のタイムラインに現れた。
 
海外在住ゆえの気づきを得たことで生まれた日本在住者へのある種の優越感と、「同じようなことを思っていたよね?」と確信をもって同意を求める海外在住者への仲間意識が、隠しきれないように面白おかしい文面を作り出していた。
 
ツイート主の思惑通りに、例に漏れず私も「確かにな」とほくそ笑みながら「いいね」を押す。そして自分の住むマレーシアのトイレを思った。
 
先進国日本、発展途上国マレーシア。
そう言われるが、マレーシアの首都クアラルンプールその中心地KLCCは銀座と大手町が凝縮したような大都会で、高級ブランドがひしめく巨大なショッピングモールもあれば超有名外資系企業の看板を掲げた高層ビル群がそびえ立っている。住むに必要なものは全て揃えることができ、東京生まれ東京育ちの私が何不自由なく暮らすことができる。
 
だが一方で大きな問題があるとすれば公衆トイレだ。
美しいショッピングモールだろうが、超エリートが働く高層ビルだろうが、その中にあるトイレがどうにもこうにも受け付けない。利用するたびに「いやだな」と思わざるをえない。いったい何がそんなに不快か。
 
びしょびしょに濡れているのだ。便座も床も。
 
いつも「何で濡れているのよ」と思いながら、持参の除菌シートで便座を拭き、できるだけ自身の体が便座につかないようにして用をたす。不衛生に感じるびしょびしょの床に衣服が汚染されることがないようにロング丈のパンツやスカートもなるべく履かないようになった。
 
なぜこんなにもマレーシアのトイレはびしょびしょで不衛生なのだろうか。
KLCCはこんなにも大都会で、モールだってビルだって美しくて立派なのに。トイレの清掃員がいないのか。便座や床をキレイに清掃する人がいないのか。いやそういうわけではない。特にコロナが世間を賑わせてからは、マレーシアのトイレには清掃員が常駐している。
マレーシアは素敵な国だが、あまりにもトイレがびしょびしょなので、ついに私は語学学校で知り合ったマレーシア人の女の子に聞いてみることにした。「どうしてマレーシアのトイレはびしょびしょなの?」って。すると次のような答えが返ってきた。
 
「用を足したら、次に使う人のために便座や床を水でキレイに流しているんだよ」
 
マレーシアに限ったことではないが、この国のトイレには個室一つ一つに蛇口とホースが付いている。小さいシャワーのような形状のものもある。これはウォシュレットの代わりとして用を足した後のお尻をキレイにするために使用されるのだが、その後に便座や床にも水を発射して使用後のトイレの汚れを落とすのだそう。常駐している清掃員も同じようにトイレの掃除をするらしい。
 
つまり、マレーシア人にとって濡れているトイレは、次に利用する人のために清掃されたトイレであり、清潔なトイレである証なのだ。
 
「なるほど」と思った。
街も建物も綺麗で立派なのに、どうしてトイレだけ汚いのか。そう思っていた。でも違うのだ。マレーシア人からすれば、街も建物も、そしてトイレも全て綺麗なのだ。「トイレは乾いているのが衛生的で最適解だ」というのは勝手な私の色眼鏡だった。
 
「日本人は健康に気を使って甘いジュースはあまり飲まないけれど、冷たい飲み物はたくさん飲んでいる。中国人は健康に気を使って絶対に冷たい飲み物は飲まない。でも甘いジュースは好きなだけ飲む」
 
これも以前、Twitterで見かけた文面だ。
マレーシアで外食をしていると、甘いジュースをがぶがぶ飲む中華系の人たちをよく見かける。それを見て、私は冷たいお茶を飲みながら「あんなに糖質を摂取して、肥満になるんじゃないかな。不健康だな」と思っていた。「飲み物は水かお茶に限るだろう」と。でも、きっと彼らからしたら、「あんなに冷たい飲み物を飲んで、内臓を冷やして消化に悪い」と私の方が不健康に映っただろう。「飲み物は常温かホットに限る」と。
 
「ジュースは体に悪いからなるべく飲まない。水やお茶ならば冷たいものでも飲んで良い」というのは私の中の価値観だ。同じく「トイレは乾いているのが衛生的で良い」というのも私の価値観だ。日本に住んでいると、似たような価値観を持つ人が多くいるために自分の価値観が当たり前のように万人にとっても正しいものだと思い、その価値観に当てはめて人を、物を判断してしまっていた。
 
自分の価値観は必ずしも万人にとっての真実ではない。
理解していたつもりだった。フラットに目の前の人やその文化を受け入れたいとそう思っていた。でもそれはまだまだ表面的だったのかもしれない。過信していた私に、マレーシアのトイレ事情が喝を入れてくれた。そんな出来事だった。
 
 
 
 
***
 
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