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命の駅伝

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ロビンソン安代(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「えっ? あれ? おばあちゃん?」
寝ている私の顔のすぐ近くに20年前に亡くなった祖母の顔があった。
祖母の手は私の手を握っていた。
私はそれを横から見ていた。
 
という夢を先日見た。
 
私はおばあちゃん子だった。父は全国を単身赴任。母は仕事をしていたので、
同居する祖母と一緒にいる時間が長かった。
でも、私が社会人になって間もなく高齢の祖母は亡くなり、夢で会えたら良いなと
思ったことも多々あったが、実は祖母の夢は一度も見たことがなかった。
 
この度、その祖母がとてもリアルな形で私の夢に出てきてくれ、真顔で私を見つめ、
手を握っていた。無表情だったけれど、きっと私を見守っているという事だった
のだろうと、思うことにした。
 
「おばあちゃんが子どものころはね、水道なんかなかったんだよ。つるべで水
を汲んで、薪で火を起こしてね……」
 
が生前の祖母のお決まりの話だった。明治生まれの人だった。
そこから、小学校6年生の時に母親が子ども5人を置いて病気で亡くなったこと、
その後中学へは行かずに家事と妹弟の世話をしたこと、
脚の悪い妹がいて、毎月おんぶしてお医者さんのところに通った話へと続く。
当時は適当に相槌を打って聞き流していた。
 
そんな祖母はお見合い結婚後、飲食業や不動産業で成功した。
自分が苦労人だったからか、自分の経済力でいろんな人を助けた人で、
我が家にはいろんな人がしょっちゅう、祖母に会いに来たりしていた。
私にとって祖母はかっこいい、自慢のおばあちゃんだった。
そんなおばあちゃんと一緒に、夏は駄菓子屋のかき氷を食べるのが好きだった。
 
でもそのうち祖母の老いが目立つようになった。
総入れ歯になって、耳が遠くなって、私たちの誕生日を忘れないようにメモするように
なって、トイレが間に合わないことも出てきた。
毎日着物を着ていた祖母だったが、洋服に代わった。以前から小さな体つきだったが、
どんどん縮んだ。大学時代、東京から帰省した際、一緒に外を歩いたときは、
よろついていたので、手をつないであげたくなった。
 
「ありがとうね。手をつないでくれたら安心だ……」
 
祖母はそう言って、恥ずかしそうに笑顔を見せていた。
私が年長さんで保育園から幼稚園に移動して不安だった時、祖母が園バスの
停車場まで迎えに来てくれて一緒に手をつないで帰った時を私は思い出していた。
 
お互い逆の立場になっていた。
 
どんな人も老いる。
どれほどすごい人も、やがては見た目にもしぼんでいき、できないことも増え
最後には食べることも、心臓や肺や脳を動かすこともできなくなり命を全うする。
祖父母の役割とは、自分が老いていく過程を孫につまびらかに見せる事で
人間の老いや、人がいずれ死すべき存在であるという事実を身をもって教えることだと
以前誰かがTVで言っていた。納得感がある。
 
たいてい、祖父母は孫に激甘だ。だから大体、孫は祖父母が大好きだ。
そんな大好きな祖父母が老いていくのを見ること、そして亡くなることは、
子どもにとってはいろんな意味でショックだ。でも受け入れていくことに
なる。そうせざるを得ないから……
 
そしてある意味免疫をつけた上で、今度は自分の両親の他界に直面することになる。
もちろん順当にいかない場合もあるが……。
そして最後は自分が亡くなっていく。それを若者達が(多分) 見送ってくれる。
 
これは、古代から人間がしてきた「命のたすきつなぎ」 だ。
生物的な遺伝子だけでなく、共に過ごした時間、経験、知恵、記憶、その時の感情を
たすきにして次の世代、そしてまた次の世代へと命をつないでいく。
その時その時の別れはとてつもなく悲しいものではあるが、そうしがらも私たちは
人間という種を絶やさずにここまで来たと思うと、なんだか素敵だなと感じる。
 
そして、今の自分がこの世に存在するために、どれだけ多くの人間が関わって
くれていたんだろうとか、命をくれてありがとうね、とかいう気持ちにもなる。
 
だんだんと老いていく私の両親の姿も、「残念」 な気持ちなんかではなく、
命について、人生について教えてくれてありがとう、という気持ちで
とらえられるし、息子や娘にも、はっきりと口にはしないが私の両親のことを
ずっと、よく覚えていてほしいという気持ちになる。
 
毎年お正月に学生駅伝をみると、私は心がジーンとして、優勝校だけでなく
どんな学校のゴールにも感動をもらうが、それは自分自身が終わりの見えない
「命の駅伝」 の選手のようなものだからかもしれない。
 
早い遅いとか、順位とかタイムなどに私はあまり心が動かない。
むしろ、しんどい中にもきらめきを見つけ、時に涙や鼻水もまじる爽快な汗を流して、
登り坂に下り坂、カーブに直線を精いっぱい走り抜け、へとへとに力尽きながら
たすきを次の走者へ力強く渡す姿に人間の生きざまのようなものを感じ、
心が動かされる。
 
この暑さの中、私は今まで以上に自分に老いを感じ始めている。
当たり前だ、中年だもの。
今まではそれは不快なことだった。でもそれは次の世代へ、たすきを渡す準備が
始まったということだとも考えられるかもしれない。
ならば、また新たな未来へと「たすきつなぎ」 の段階が移っていくことを
喜ばしく思いたい。
 
それと同時に、祖先から引き継いだ自分の命の価値を再認識し、
命のつながりに目を向けたりして、
これからの人生を大切に生きていきたいと思った。
 
まずは今週末実家に帰省するから、亡くなった祖母や先祖のお墓参りを
子どもたちと共に、しよう。
そして何よりも、今回はいつもくだらないことで喧嘩をしてしまう
両親と、楽しく過ごそう。
 
そう思いながら今、私は帰省の荷造りのためにスーツケースを出しにいく。
その傍ら息子と娘に声をかける。
「ほらっ。準備しよう! おじいちゃんもおばあちゃんも待ってるよ!」
 
 
 
 
***
 
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