8月31日、ドリームコーヒーの上で
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:松尾麻里子(ライティング・ゼミ6月コース)
「さあ、みんなでお祭りだ!」
王様のその一言で、一斉に太鼓が鳴り響き、村は一気に祭りばやしに包まれた。
これは、私が小学校4年生の時に演じたジャングル王の最後のセリフであり、
これが、私の人生において、最後の演劇、となるはずだった。
だが、人生とは不思議なものだ。あれから30年、また自分が人前で演技をすることになろうとは、思いもしなかった。
きっかけは、天狼院書店から流れてくるフェイスブックの広告だった。
一夜限りの役者になりませんか?
演劇ワークショップ1DAY! 開催
普段は見過ごすような内容だが、8月24日の私は、この広告が流れてきた瞬間に、ポチ、支払い終了。即決だった。
どうした? わたし••••••。
申し込んだ後で、どうしよう、演技なんかできない! と急に焦りはじめたのだが、もう一度、広告を読みなおすと、自分ではない誰かになりきってみたい方、演技を通して、心も身体も開放したい方、単純に楽しみたい方、初めての方、大歓迎と書いてあるのではないか。よし、これはもう心を決めるしかない。
そう意気込んで、当日を迎えたのだった。
開催場所は、池袋だった。
池袋は、あまり馴染みのない土地であり、池袋駅の地下構内がこんなにも縦横無尽に広がっているとは知らなかったので、入りくねったC3出口までの道のりが更に緊張を助長した。まだ時間があるし、軽めの夕食を済ませようと思いながらも、喫茶店や、飲食店を何軒も見過ごし、かれこれ30分くらい駅構内を歩いた気さえするが、やっと地上に出て、目標のドリームコーヒーが入っているビルを見つけた。
見上げると、その黒い看板はあった。
「スタジオ天狼院」
ふふふ、闇夜には呑まれませんよ、と言わんばかりの黒地の看板。
両サイドからやや控えめなスポットライトに照らされたスタジオ天狼院は、
「ようこそ」
と、短く歓迎の意を示してくれているようだった。
そのビルに一歩足を入れ、まず驚いたのが、エレベーターが手動だったことだ。
ずいぶんと歴史のあるビルだなと思い、エレベーターを待っていたが、可能な方は階段で、と立て看板が目に入ったので、階段で4階まで上がることにした。ビルの階段にしては、めずらしく横幅が広く、圧迫感がなかったので、するすると4階まで上がった。
「ここだ」
ゴクリ、とつばを飲んだ。
重厚なこの木製の扉を開けると、私には、どんな世界が待っているだろう。
いざ、と思い、ドキドキしながら扉を開けると、天狼院書店のゼミでよく見かけるお馴染みの書店員の方が人懐こい笑顔で出迎えてくれた。
「こんばんは。今日はお越しいただき、ありがとうございます!」
外側の感じとはうってかわって、スタジオ内は白を基調とした明るく、開放的な空間だった。簡単な受付を済まし、席に着くと、すでに2名ほど、先に到着された参加者の方が、今日のワークショップの講師をしてくださる先生と和やかに談笑をしていた。
「まりこさん、今日は宜しくお願いします!」
私の手書きのネームシールを見つけて、先生の方から話しかけてくれた。
ああ、人を一瞬にして、フワッと軽くすることができる笑顔を持った方だな、
というのが第一印象だった。
「こちらこそ、宜しくお願いします。実は私、今まで本格的な演劇は、見たことも触れたこともありません。本当に白紙の状態で来ました。だから、少し、緊張しています」
と、今、言える最も正直な自己紹介をした。
すると、先生は変わらずニコニコとしながら、
「それで、いいんです。演劇って本当は、誰でも出来るものなんです。僕は、そうして初めて演劇を知ってもらって、少しでも楽しい、近しいと思ってもらえれば、それが嬉しいんです」
私にまとわりついている緊張という空気を、全て消し去る魔法の言葉だった。
ここの扉を開ける直前の私の頭には、今日の参加者は、私以外、役者の卵や、演出家を目指している方、もしくは芸術系の学生さんで、演劇が三度の飯より好き、とにかく好きでしょうがない、という想いを持った人達と、熱い血が沸騰寸前、たぎり切っている演出家の先生が、汗だくになりながら、真っ向勝負でぶつかる、みたいなものをどうしてもイメージしていたので、正直、めちゃくちゃ安堵した。いくら、初めてでも、興味があるだけでもいいと言われても、やっぱり、少し疑うじゃないですか。
そうして私は、心理的安全性が確保されたこの空間で、人生はじめての即興劇を通し、今日ここで出会った人たちと、自分の39年間の実体験をありのままに、自由に解放してきたのだった。
あっという間の2時間だった。
帰り際、後ろから声をかけてくれた人がいた。
池袋駅まで、ゆっくりと歩きながら、今日の感想などを楽しくおしゃべりした。
彼女は、駅のホームでの別れ際に、おもむろにカバンの中からチョコマシュマロを取り出し、よかったら、と差し出してくれた。
そのチョコマシュマロの美味しいこと、美味しいこと。
甘いものが身体に染みわたるという実感も、これが人生で初めてかもしれない。
天狼院書店と関わって、はや3ヶ月。
毎週欠かさず、心の声を2000文字に詰め込む作業をしていく中で、私の意識は少しずつだが、変わりはじめている。その一つが、今回の演劇ワークショップへの参加だった。想いを文字にして、誰かに読んでもらう感覚を、今度は、演技という形で表現したいと純粋に思ったのだ。その先は、歌うのか、演奏するのか、書くを極めるのか、表現の方法は様々だが、今は、とにかく、私の中にあるものを全て解放していきたいし、そのチャンスを怯まずに掴んでいけたらと思っている。3ヶ月前に、天狼院書店と出会っていなかったら、こんなこと、絶対に思っていなかったと自信を持って言える。
ぜひ、みなさんも、ご興味があれば演劇ワークショップ、参加してみてください。
きっと、あなたにとっての新しい扉がまた一つ、見つけられると思います。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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