メディアグランプリ

「断れない人」から「断らない人」へ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:宮脇真礼(ライティング・ゼミ10月)
 
 
「結構です」
 
その一言が言えずに、途方に暮れた帰り道のなんと多いことでしょう。手提げ袋には欲しかったのかもわからない商品X。
そのたびに、自身の買い物を必死に肯定しようとしてきました。
深層心理で必要性を感じていたから買ったんだよね。考えようによってはいずれ必要になるはずのものでもあるしね。こうすればこんなふうにも使えるし、いっそここをちょん切っちゃえば、こんな使い道だってあるかもしれないし――お分かりのとおり私は、悲しいほどに押しに弱い人間なのです。
  
自分が「断れない」人間であることを自覚し始めたのは、大学進学のために上京して一人暮らしを始めた頃でした。
「わかる!」ボタンをポチッとしてくださる仲間を引き寄せたいがために、少しだけ振り返ります。
 
引っ越した際、デジタル放送を受信できるよう、業者さんを呼んでテレビにチューナーをつけてもらったときのこと。節約のためにと無駄にでかくて画素も荒いブラウン管のテレビを実家からわざわざ持ってきたのに、気づいたら地上波の他にいろんなチャンネルが映るオプションにしっかり加入していました。
業者さんが熱弁していたアニメや音楽などの王道チャンネルはもちろんありました。ただ、圧倒的に謎コンテンツばかりのラインナップ。海底をひたすら映し続ける番組、惑星の輪っかを形成する宇宙の塵をひたすら映し続ける番組、いつチャンネルを合わせても全く走らない休憩中のチーターをひたすら(以下略)。
 
「断れない」パターンは対営業にあらず。
バイト帰りのある夜、最寄り駅の出口を抜けると外国人の女性がおもむろに近づいてきました。こちらに向けたのは裸足の子どもたちの映った写真。数秒後、気づけば財布に手をかけている自分がいました。疲れて頭が回っていなかったことも、その状況では悲しき加勢でした。先ほどまでの労働で手にした対価の一部が女性の手に収まるのを見て、ようやく、ちょっと冷静になる。
募金って、こんな時間にこんなところでするものなのかな……?
けれど、時すでに遅し。
 
「あー……、やっちゃったね……。残念だけど、そのお金は子どもたちのところにはいかないよ」
後日、それが地元で最近増えている募金詐欺であることを先輩が教えてくれました。その苦々しい顔は今でも忘れませんし、私はもっと神妙な顔つきをしていただろうと思います。
 
 
「断れない」経験を何度か繰り返すうちに、相手からも私が「断れない人種」であることを一瞬で見透かされてしまうのだろうということがわかってきました。
それでも、そのたびに小さな後悔はすれど、すぐにこの習性をどうにかせねば、と焦るほどでもありませんでした。
首を縦に振った後の相手のうれしそうな表情に、少なからず自分も何らかの安心感を得ていたからです。
相手にとって自分は格好のカモにすぎないこともわかってる。
それでも、その人がその日眠りにつくときに、提案に乗ってくれなかった嫌な客として羊と一緒に思い出されたら。その方がゾッとしてしまう。そんなの単なる自意識過剰だとわかってはいるんだけど。
 
そんな平和ボケな私に、転機の火蓋はまさに戦いのように唐突に切って落とされました。
2022年の初め、通っていた着付け教室が折り返し地点を迎えた頃のことです。
「着物」と聞いて察した方も多いのではないでしょうか。そこは「断れない」人間が絶対に足を踏み入れてはいけない領域かもしれません。
流石の私も、強引な商品の勧誘がないところを入念に調べて上げて教室を決めました。
 
「和装を生活に取り入れる」という目標を掲げて毎週着物と向き合ううちに、教室は充実感を得られる時間になっていました。そんな場所が、ある日戦場と化したのです。その日はカリキュラムで唯一の座学でした。一通り授業を終えた後、おもむろに始まる販売会。
「この子と一緒なら最悪何かあっても大丈夫」と絶大な信頼をおいて一緒に教室に通っていた友人。自他共に認めるサバ子の彼女はいつの間にか遠くへ引き剥がされ、気づけば4人あまりの大人たちにぐるっと囲まれていました。
数十分後。
目の前には36回払いの契約書が、とんでもなくぺらっとした風情で視界いっぱいに映っていました。
 
身の丈に合わないものを買ったらだめなんだ。
そんな当たり前のことをようやく自覚した瞬間でした。
 
友人は財布の紐を緩めることなく生還。
無言のまま歩いていた帰り道、「お気に入りが見つかってよかったね」と彼女は声をかけてくれました。
 
「その場の空気を壊したくない」という思い。「いらない」と言った後、相手のまとう空気が一変するかもしれない恐怖。
気づけば、自分のどうしようもなさを彼女に吐露していました。
そんな独白を最後まで静かに聞いた後、彼女は言いました。
「そっか。マーヤはどうしたって言葉に血を通わせてしまうんだね」
 
「客」としてのなんでもない対応が取れなくて、目の前に人がいたら、どんな状況でも一人の人間として見てしまうこと。そんな私を否定せずに、むしろ個性として尊重してくれたことが、とてもありがたくてうれしかったのです。
 
私のように「断れない」性格に悩んでいる方がもしいたら。
相手の笑顔を見て、自分もちょっとうれしくなる。そんな気持ちは大切にして良いと思います。勧められた商品を「買う」という結果に至らなくても、相手の熱意や誠意を「断らない」対応はできるからです。
売り手も、心から商品に愛着を持っているのなら、本当に欲しいと感じた人に使ってもらうことが一番うれしいはず。一方で望まない押し売りには、勇気を持つことも必要にはなりますが。
あの日友人と話していなかったら、みくびられないようにと、とにかくそっぽを向く人間になっていたかもしれません。傲慢な態度をとる私に舵を切らなくて済んだことを、心からよかったと思っています。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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