『エヴァンゲリオン』の聖地で、「時は金なり」以上のものが得られた話。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:大野 敏美智(ライティング・ゼミ9月コース)
11月の第二土曜日。
知人からある取材の仕事を受け、大阪から新幹線で山口市小郡へ。
当初は夕方までかかると言われていたのでその覚悟で行ったのだが、予想より早く12時で終了。
僕にとっては人生で初めての山口県訪問。
午前9時半に着いて12時で帰るのはもったいない。
かと言って、最寄り駅の新山口には観光すべき名所がない。
話が少し逸れるが、僕はアニメーション『エヴァンゲリオン』が好きだ。
1996年ごろに「『エヴァンゲリオン』というアニメが面白いぞ」と言われ始めた頃から見始め、2021年に完結編として劇場公開された『シン・エヴァンゲリオン劇場版』まで全ての作品を見ている。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のラストシーンは、山口県を走るJR宇部線の宇部新川駅が舞台であり、監督の庵野秀明さんの出身地だ。
「聖地巡礼」
この言葉が脳裏に浮かんだ。
新山口から下関方面行の山陽本線に乗り、宇部駅で宇部線に乗り換えると50分で行ける。
それなら行くしかない。
こんなチャンス、そうなかなかないのだから。
新山口から電車に乗る。
宇部駅まで約23分。
その間に知人へ成果物として、撮影した写真をLINEで送ろう。
多くの撮った写真から数枚セレクトして、それをスマートフォンに取り込み、そして送信。
終わった。
さて電車は今、どこのあたりを走っているのだろう?
時計を見る。
時計の針は、新山口を発ってから25分後の時刻を指していた。
「マジかよ!」
電車はすでに宇部駅を発ち、次の停車駅である小野田へ向かっていた。
「やっちまったぁ!」
慌ててスマートフォンのアプリで、小野田駅から折り返す電車を検索する。
結果は1時間後に小野田駅に到着する電車があり、その電車もJR小野田線で直接宇部新川駅へ行くため、30分電車に乗ることになる。
目的地まで合計1時間半。
お腹が空いた。
まずは何か食べよう。
小野田駅の周囲を見る。
コンビニエンスストア1軒すらない。
あるのはこじんまりした駅前うどん店だけ。
うどんを食べていたら、10分ぐらいは時間が過ぎるだろう。
きつねうどんを食べる。
5分で食べきった。
まだ50分もある。
田舎の駅舎で、ただただ退屈な時間を過ごすのか?
そういえばタクシー乗り場があって、タクシーが2台止まっていたな。
小野田駅から宇部新川駅まで、電車賃だと200円。
それほど高くはないから、タクシー代は高くないだろう。
僕は意を決して、タクシーに乗った。
タクシーの運転手さんが行き先を聞いてきた。
「宇部新川駅まで」僕は答えた。
「タクシー代、高くなるけどいいですか?」
予想外の言葉だったが、知らない土地だけに距離がわからないので、それが適正価格かもしれない。
「いいですよ」僕は答えた。
「お客さん、宇部新川へは仕事で?」
「いえ、宇部で乗りかえようと思ったら、乗り過ごしてしまって……。せっかく山口県へ来たのだから、『エヴァンゲリオン』で世界的に有名になった宇部新川駅を見たいと思って」
「今ねぇ、宇部空港も『エヴァンゲリオン』で盛り上げているんですよ。しかしここは観光地が全然なくて、ほとんどが宇部興産の工場なんですよ。来る人はほとんど宇部興産との仕事の関係の人でね」
進行方向の右側には、切れ間なく延々と工場が続いている。
前方に僕たちの進行方向に対して交差した高架道が見えてきた。
運転手さんが説明する。
「あの前に見えるのはね、宇部興産の専用道路なんですよ。会社所有の道路では日本最長で31キロメートル。山から海までずっと続いているんです」
「えっ、そんなにも長いのですか? スゴイですね」
僕は驚いた。
いち民間企業が31キロメートルもの長さの道路を所有しているなんて、頭がついていけん。
だんだんと宇部新川駅に近づいてきた。
「宇部新川駅の周りは飲み屋ばかりで。企業が接待などで利用するからなんですよ」
「いわゆる企業城下町なんですね。今までいろんな企業城下町を見ましたが、こんなに工場が大きいところは初めてです。圧倒されました」
「それからビジネスホテルも多いでしょ。仕事の関係で止まる人が多いんですよ。実は宇部駅よりもこっちの方がまだにぎわっているんです。宇部駅周辺は寂しいですよ」
宇部新川駅は宇部興産あっての地域なんだな。だから『シン・エヴァンゲリオン劇場版』ラストの空撮で、やたらと駅前のビジネスホテルが目立って映ってたんだ。
その事実は、僕にとっておぼろげな疑問を解き明かしてくれたようなそう快感を与えてくれた。
小野田駅から宇部新川駅までのタクシー運賃は、3,410円だった。電車でなら200円で済むところなのだが、電車に乗っていたら絶対に知りえなかったことを、タクシーの運転手さんは観光ガイドさながらに教えてくれた。ただ目的地まで運転するのみならず、ご当地話で乗客を楽しませてくれた。これこそ本当のプロの仕事なんだ。この3,410円は決して高くないどころか、むしろ安く感じた。
宇部新川では新山口行きの直通電車があり、待ち時間が1時間あった。僕はその間に主人公のシンジくんが座ったベンチに腰を掛けたり、デジタルカメラのタイムラプス機能を使って、駅のホームから階段を上って改札口まで駆け抜ける動画を撮影したり、ポスターで使われた構図と同じ構図で線路の写真を撮ったりした。
一時に比べて”聖地巡礼”目的の人がいないせいか、気が済むまで写真を撮ったり、宇部新川駅の”空気”を楽しむことができた。
もし小野田駅でお金を惜しんでタクシーに乗らなかったら、無駄な時間を過ごして、宇部新川駅に着いた頃には疲れ切っていただろう。
運転手さん、ありがとう。
***
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