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恥ずかしい大怪我


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ちー(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
目が覚めた時、自分がどこにいるのか分らなかった。
ベッドに横たわっている。腕が上がらない。
看護師が、せわしなく動いている。
「大丈夫ですか! 聞こえますか!?」
朦朧とする意識の中、自分が犯した過ちを少しずつ思い出していた。
 
 
「明日スノボ行こうぜ!」
LINEが来たのは、私が家で夕食を食べていた時だ。
よく冷える一月のことだった。
「明日!? 急だなあ笑」
相手はアルバイト先の友人のNである。
私は大学生だ。居酒屋でアルバイトをしながら暇な時間を潰している。
「行こうよ! 今度飯おごるからさ笑」
明日は何の予定もない。急な誘いだったが、私はスノーボードに行くことに決めた。
 
 
スノーボードは文字通り、雪の上を板で滑るウインタースポーツだ。
リフトでゆっくり頂上に登り、ものすごいスピードで雪の中を下っていく。
滑りながら横目に眺める冬の山はとても美しい。
また、スノーボードは危険なスポーツでもある。
ミスをしたら怪我をするかもしれない。
だからこそ、スリルと隣り合わせで感じる風はとても爽やかで、心地がいい。
 
 
大学生になってから、私はスノーボードの魅力にとりつかれた。
私は運動神経が飛び抜けていい方ではない。
スノーボードを始めてから滑れるようになるまで、人と比べてもかなり時間がかかった。
はっきり言うと、まだまだ実力はヘタクソだ。
しかし、ゲレンデ通う回数が増えるほど、私はどんどんスノーボードに夢中になっていった。
Nに誘いを受けたのは、スノーボードを愛し始めてちょうど3年が経った頃であった。
 
 
「今日はどんな技にトライする?」
ゲレンデに向かう車の中で、Nはニヤニヤしながら私に聞いてきた。
車はNが運転している。
「いやあ、そろそろ大技決めたいね」
Nは豪雪地帯で育った田舎っ子で、スノーボードがとても得意だ。
実力も私より断然Nが上手だ。
「おまえ、最近めちゃくちゃ上手くなってるもんな」
「まあな! でも、Nには勝てないな」
私は以前に比べてできる技が増えて、自信がついてきた頃であった。
ライバルであるNの前で、今まで達成したことのない大技を決めてやろう、そう意気込んでいた。
しかし、これが慢心であったことをこのときの私は知らなかった。
 
 
「晴れたなー!」
今日も雪山は絶好調だ。
太陽の光を受けて、雪が光を放っている。
真っ白な雪原を目の前にして、私たちの心は高ぶっていた。
“今日も滑れるぞ“
私たちは夢中になってゲレンデを転げ回った。
 
 
事件のきっかけは、Nへの劣等感だった。
Nが大技を決めたのだ。
「やった!!」
ジャンプ台を使った、見事な大技だ。
それは冬空を舞う白鳥のように、美しく、力強かった。
 
「すげえよN! おめでとう!」
「ありがとう。次はおまえの番な!」
頂上に向かうリフトの途中で、Nは達成感に満ちた顔をしていた。
しかし、私は悔しかった。
Nにはできて、自分にできない。その事実が私を焦らした。
リフトが頂上に向かうにつれて、私のやる気がムクムク膨らんでいった。
 
 
頂上に着いた。
“絶対成功させてやる”
私は気持ちをいれて、勢いよく、滑り出した。
ビュウと音を立ててボードはどんどんスピードを上げていく、
「おい、待てよ!」
Nを置き去りにして、私はギアを上げた。
他のスノーボーダーをみんな振り切り、私はグングン加速する。
てっぺんからジャンプ台までノーストップで駆け下りた。
 
勢いをつけてジャンプ台に突っ込んだ。
しかし、その時、ボードがジャンプ台に引っかかった。
「あっ」
体は宙を舞い、コントロールを失った。
ガン。
鈍い音が鳴った。
私の体は右腕からジャンプ台にたたきつけられた。
 
 
 
意識を失いかけながらも、私はNの肩を借りて、なんとかロッジの医務室にたどり着いた。
私の右腕はだらりと垂れ下がり、動かすことができない。歩くだけでも激痛が走る。
急いで大きな病院に向かう必要があるが、雪山では救急車が来ることはできない。
時は一刻を争う。
急いでNが車を飛ばして、私を病院まで運んだ。
 
 
私の怪我は、右腕の脱臼であった。
病院で全身麻酔を施し、右肘の関節を元通りに治した。
ギプスがとれるまで三ヶ月の大けがであっが、命に別状はなかった。
 
 
 
自動車事故をよく起こすのは、免許を取得してから一年くらい経った人が多いという。
つまり、運転に慣れて自信がついてきたときだ。
スノーボードも同じだ。
少し上手くなって、自信がついたときに派手な失敗をする。
 
私は調子に乗っていた。
自信過剰になっていた。
ヘタクソなくせに、できもしないことに無謀にも挑んで敗れた。
当然の結果である。
 
そして何より、Nに迷惑をかけてしまった事を恥じた。
Nは私を3時間もかけて病院まで運んだ。
大切なスノボの時間を犠牲にしたのだ。
 
それなのに、Nは怒ることもなく、一日中付き添ってくれた。
「ほんとバカだよなあ」
Nは笑いながら私の看病をしてくれた。
「N、本当にありがとう」
「全然平気よ、こんなの、今度飯おごってな」
いつもの、ニヤニヤした笑顔でNは言った。
 
 
 
どんなときでも常に謙虚でいなければならない。
私は失敗から学んだ。
人と比べる必要も無い。
私は私のペースで、スノボを楽しめばいいのだ。
 
私は今年もゲレンデに行くだろう。
しかし、無理をして難しい大技に挑んだりはしない。
私は自分の大好きな冬景色を眺めながら、ゆっくり雪山を滑るだろう。
 
もうすぐ冬がやってくる。
今年もNからの急な誘いはあるだろうか。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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