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やっぱり井上雄彦は天才だった!

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記事:串間ひとみ(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
必死だった。一瞬も気を抜くことができない。
 
もうひたすら口を押えて、嗚咽が漏れないように。口から出せなかった感情が、もう一度飲み込まれて体が震えた。両手がふさがっているので、涙はふけない。
 
音のない世界で画面だけが展開していく。飲み物の中の氷のぶつかる音すら伝わってしまうのではないかと思うほどの静けさ。自分のことで必死過ぎて、周りを見る余裕などない。ただ瞬きを忘れたようにスクリーンを凝視した。すべての力が目に集まってしまったのではないかと思う。息をするのも忘れていた。
 
2021年8月、作者井上雄彦さんのTwitterで2022年秋に映画が公開されるとの発表から、待ちに待った2022年12月3日(土)、『SLAM DUNK(スラムダンク)』の映画『THE FIRST SLAM DUNK』の公開日を迎えた。
 
最初は仕事終わりに落ち着いていこうと思っていたのだが、ランチで行きつけのお店で、
 
「うちの旦那はどんなメディアからも、絶対にネタバレされたくないから朝イチに見に行くって言ってた」
 
という話を聞き、それはそうだと思った。
 
もう悲しいかな、このSNSの時代、本人の意思にかかわらず、完璧なネタバレをされずに映画を見ることなど、たとえ公開当日であったとしても不可能ではないかと思う。まして私世代の多くの人のバイブルとなっている漫画の映画化である。
ただ、先日公開1ケ月前に、YouTubeでメンバー全員のキャスト(声優)、主題歌の変更が発表され、世間をざわつかせた。正直、私もざわついた一人である。良きにしろ悪しきにしろざわつくのは仕方がないと思う。だって多くの人が大好きな作品なのだ。そして一人一人にそれぞれの思い入れがあるのだ。
 
そして私もどちらかというと、キャストの変更を残念に思っていた一人だった。YouTubeの元の声優さんと今の声優さんを比べた動画とかを見て、そのしっくり具合に、安定感にやっぱり惜しいと思っていたし、どうにかして元のキャストでやってもらえないものだろうかと思ったりもしていた。キャラクターだけではなく、声にも思い入れがあったのだ。どこまで感情移入ができるか、正直不安だった。
 
結局公開当日の朝6時半過ぎに、私は映画館にいた。
そしてあらためてスラムダンクのすごさを知ることになった。予想はしていたが、映画館にはグッズを買い求める長蛇の列。それにより、私は最初の10分を見逃すという失態を犯したのだ。
 
ちょうどプロローグが終わり、オープニングが始まったあたりから見たので、私的には漫画で見たおなじみの場面からのスタート。違和感なく入り込めた。現在進行形で見ていた子どものころ、大人になってからも何度も読み返したので、話の展開は分かっている。子どもの頃に初めて読んだ時のようなドキドキ感。その時に感じたドキドキ感を、漫画、アニメの終了からほぼ四半世紀たっての映画で、こんな鮮度で感じられるのだということに驚いた。やっぱり井上雄彦は天才だった。
 
感情のやり場に困りはてたまま、私は仕事に行った。帰ってからその日2度目の映画館に行った。
感情をしっかり整理したかったのと、私が朝に見逃した10分ほどを確認するためだ。
 
そして私は不思議な現象を体感した。その日2度目のスラムダンクで私は声を認識したのだ。
 
もちろん朝も声は聴いていた。でもまったく違和感がなかった。でも2回目はそこに1度目になかった声が違うという違和感があった。アニメも何度も見ているので、それはある意味しょうがない。だから私の頭の中で新旧両方の声を二重音声のように流しながら見ている感じ。
 
では1度目はなぜ声が気にならなかったのだろうか?
 
1度目は映画を観るということに対して、『視覚』に自分の力をほぼ全フリしていたのではないかと思う。声については、セリフもほぼ覚えているくらいなので、頭の中で勝手に脳内変換されて理解している。ストーリーを追いかけ、漫画を読んでいた時の気持ちを思い出している時間だったように思う。その結果、知っているはずの展開ですら、冒頭のように息を忘れるほどに感情移入していたのだ。
 
それに対して2度目は、朝も見ているので、冷静に作品として見ていたように思う。1度目のように大きな思い出補正も加わっていない。その結果視覚的な要素だけではなく、聴覚的な要素も多分に含まれた結果、声の違和感が気になったのだろう。
 
同じ日に2度同じ映画を観たことで、こんなにも違う感じ方をするのだということに驚いた。そしてあらためてこんなにも長い時間を経て、世の中に感動を与えられる作品があることにも驚いた。漫画やアニメを最初に読んだり、見たりしていた時に、いろんな感情、勇気をもらい、それぞれの人生を歩いてきた。全然違う人生を歩いてきた人たちが、同じ映画館の中で、同じように涙していることにも何とも言えない感動があった。普段なら隣の席に人がいない方がいいと思ってしまうが、今回に関しては、もはや仲間のような気さえするので、全く気にならなかった。
 
次観に行ったら、どんなことを感じるだろうか。そんなことを考えると、またワクワクしてしまうのである。
そんな作品を生み出す井上雄彦はやっぱり天才だなって思う。
 
 
 
 
***
 
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