私がチェコ、スロヴァキア研究者になるまで
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記事:市川敏之(ライティング・ゼミ特講)
「Cow、pig、bird!」、これが、1990年夏に家族でかつて存在したチェコスロヴァキアの首都プラハ中心部のレストランでウェイトレスから浴びせられた言葉だった。チェコスロヴァキアで初めて利用するレストランであっただけに、この愛想の悪さには面食らった。しかしこれが私のチェコスロヴァキアにおける最初の強烈な記憶になった。
私は父の仕事の都合で中学校1年から高校1年、1989年から1992年までオーストリアの首都ウィーンに住んでいた。ちょうど1989年の後半にベルリンの壁崩壊に象徴される、「東欧革命」が起きていた。共産圏の国民は自由を得て、早速近くの大都市、ウィーンに毎日大挙して押しかけ、これが約2年続いた。彼らは、ポーランド、チェコスロヴァキア、ハンガリー、旧ユーゴスラヴィアの者であり、西欧に比べれば明らかに見劣りするバスに乗り、身なりもかなり控えめな色のものであった。ウィーンを観光するわけでもなく、ただひたすらショッピングをしていた。購入したものは自分の国にない、もしくは入手困難な物ばかりであり、それらはコーヒー、バナナ、最新の家電製品、鮮やかな色の毛糸などであった。今にして思い返すと、これは数年前まで日本でもあった「爆買い」に近いものであった。特に目抜き通りである「マリア・ヒルファー通り」は東欧人のみで埋め尽くされていた。ちょうど父が勤務する事務所はこの通りにあったので、私は父と一緒に8ミリビデオを使用して彼らの様子を撮影したこともある。
元々私は小学校3年生以来、小学館の「まんが少年少女日本の歴史」を読んで以来、歴史に強い関心を持っている。そんな私が「東欧革命」という歴史の転換と東欧を支配していたソ連のトップであったゴルバチョフが進める「ペレストロイカ(「立て直し」の意味)」や「グラスノスチ(「情報公開」の意味)」を見聞きしているうちにソ連や東欧に大いに興味を覚えた。
このように熱い地域ではあったが、ソ連はさすがに遠かったので、私の家族は「東欧を直に見て、体験してみよう」ということで、隣のチェコスロヴァキアの首都プラハへ行った。その際、事前に申請しておいた入国許可証であるヴィザをパスポートと一緒に持参し入国した。そして、冒頭の対応で「東欧の洗礼」を浴びたのである。他にもデパートではモノが全く陳列されていないため、商品よりも店員が遥かに目立っていた。理由は社会主義経済ではどれだけ働こうと給料は同じであるため生産が非常にすくなかったためである。またある国営の店では、米ドルと西ドイツのドイツマルクのみ使えて、現地の通貨チェコスロヴァキアコルナが使えないというのがあった。そのお店での販売品はチェコスロヴァキア土産の定番ガラス製品であったり、最新鋭の西側の家電製品であったりした。これがいわゆる「外貨稼ぎ」であることに後々気づいた。現地の方々はレートが安定しない自国の通貨よりは米ドルを好み、「Exchange?」と観光客に声をかけて外貨と自国通貨を旅行者にかなり有利なレートで両替を持ちかける者もいた。旅行社がこれに応じると、法律違反で刑務所行きになってしまうと「地球の歩き方」に記されていたので、絶対に対応しなかった。これらのカルチャーショックは今でも鮮明に覚えているので、よほど衝撃の度合いが強かったのだと思われる。数カ月前まで社会主義であった国ならではの体験ばかりであり、景勝地を見て愛でる、美術館、博物館をめぐるという一般的な観光とは別の社会勉強であった。使い古された表現だが「百聞は一見にしかず」そのものであった。
それでも印象的であったのは「世界一美しい」、「黄金の」、「百塔の」とされるプラハの街並みはやはりいくら観光していても感動しかもたらさず、ため息物であった。中学校の音楽の授業で学ぶスメタナ作曲「モルダウ」もまさにこのプラハの情景を描いたものであり、私の頭の中でこの曲が何度も流れた。他にも共産党体制から解放された国民の表情が、笑顔にあふれていたことは忘れられない。
このあとも機会があるたびに、いちいちヴィザを申請し家族旅行でプラハを訪問しては、カルチャーショックを受けた。はやりチェコスロヴァキアがとても気になる存在になっていたのである。
帰国後3年間、私は高校時代において、高校の図書館にある「東欧を知る事典」平凡社、1993年という本を見つけた。これを毎日のように読み、隅から隅まで大体覚えた。そして高校3年生の時に東欧のなかでもチェコスロヴァキア事情を学べる大学をためらうことなく第一志望にして選び、受験し、合格した。この時以来、本格的にチェコ語もチェコスロヴァキア事情も学び、大学院、プラハの大学に留学し、現在に至っている。そして今は自身のチェコ、スロヴァキアに関して得た知識を元に折に触れて出版物に解説、説明した記事を発表し、発信し続けている。2018年にはチェコスロヴァキアの美術に関する本を出版し、詳細は述べられないが、来年チェコとスロヴァキアに関する2冊の本を出版する予定である。今後は翻訳も手掛ける予定である。
このようなことはやはり1989年の東欧革命、そして1990年に初めてチェコスロヴァキアに実際に足を踏み入れ体験したことが決定的であったのは間違いない。ここで導き出せるのはつまり、人は非常に大きなイベント、例えばオリンピック、ワールドカップのような巨大スポーツイベント、革命、戦争、大飢饉などを強烈な「事件」を直に経験すると、その人は特定の事柄について精神的に大きく揺さぶられ、かつその事柄について深く考えることになるのではないかと思われる。そしてその人は何かしらの方向へ向かって大きなエネルギーで進む可能性が高いのではないのかということである。つまり自身で積極的に変化を求めるのなら、自分自身で上記のイベントに参加するのも一案ではないだろうか。
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