いつかはオンリーワンに《週刊READING LIFE Vol.212 ライターとしての自己紹介文》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2023/4/10/公開
記事:工藤洋子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
私は結構レアな人間だ。
と書くと、
「何か有名な人なんですか?」
と思われるかもしれないが、別にそんなことは全然ない。ただ単に同じ職業に就いている人があまりいない、という意味で「レア度」が高い、というだけだ。
私の本業は日英の同時通訳者。
出産後はさすがに少し休んだりしたが、かれこれ20年以上活動している。全国を見渡しても生息数は圧倒的に少ないので、レアなのだ。片仮名で書くとどうにもいい雰囲気になってしまうので、「希少」と言い換えた方がよいかもしれない。
実は世の中には似た職業として、「翻訳者」という方々もおられる。
翻訳者にしても、通訳者にしても、一般的に世の中にほとんど知られていないのが、この二者は見かけこそ似ていても大きな、大きな違いがある、ということだ。
「トラとライオン? 住んでるところも狩りの仕方も毛皮の模様も何もかも違うじゃないのっ!」
と猫好きの人は思うけど、動物にあまり興味のない人は、
「トラもライオンも同じ大きい猫でしょ?」
で済ませるかもしれない。
でも。
たとえ、世の中のほとんどの人が区別してくれなくても、我々翻訳者と通訳者は全然違う、とお互い思っている。
『通訳 vs. 翻訳』
https://tenro-in.com/reading-life-vol193/280124/
そんな違いなどのニッチな情報を発信できるのも、
「ライターを目指す同時通訳者」
というレアな存在である自分の使命だろう、と勝手に思っている。
今、ChatGPTの登場やその他色々な場面でAIがいれば、翻訳や通訳は将来必要となくなるのではないか、と言われている。先日読んだ『AI翻訳革命』(隅田英一郎、朝日新聞出版、2022)でも、サブタイトルに
「あなたの仕事に英語学習はもういらない」
とある。これから仕事の全部とは言わずとも、一部は確実にAIに食われることになるだろうことを考えると、今から準備しておくのも悪くない。
「歌って踊れる」という訳ではないが、「ライティングもスピーキングもできるマルチ言語エキスパート」を目指すのも一興だ。
そもそも、通訳者という仕事は高度な語学力にプラスして、各方面の専門知識を要求される。浅く広い情報量と、深い専門領域の両方だ。それはまるで果てしない大海原を自在に泳ぎ回るナビゲーション能力と、深海へ潜り続ける集中力、というまったく違う能力を一度に求められるようなもので、常日頃から色々な物事に興味を持ってアンテナを張っておく必要がある。
ある意味、興味の幅と深さはライターに向いているのかもしれない。
『雑学は身を助く』
https://tenro-in.com/reading-life-vol206/296357/
ところが、これだけ頑張っているのに、その存在は常に黒子である。実際の通訳の現場では名前さえ呼んでもらえなかったりする。いつも「通訳さん」と呼ばれるだけだ。
私は通訳という職業に誇りを持っている。
とてもやりがいのある仕事だとも思っている。
でも。
ときどき、自分という人間を個体認識して欲しい、そういう気持ちがあることは否めない。そういう意味でも、ライターとして記事を書くという違う視点が、真逆なことをしているようで、実は親和性も高い、ということに気が付いた。
実は通訳者にとって、英語よりも日本語の方がよっぽど重要なのだ。
もし、日本で通訳者として仕事をするなら、だが。
英語力は当然のこと、高い日本語力がなくてはままならない。
なぜなら、仕事を発注してくるクライアントは、日本人だから。その場に応じた日本語の表現力を磨いておく必要がある。
ライターとしての自分は、また今までと違った面で自己実現を目指せる可能性があるのではないか、そんな風に最近は感じている。
また、通訳者の同僚や諸先輩方を見ていても、通訳という仕事の他に何か自己実現に関わるようなことをしている方が多い。
ワインが趣味でソムリエ資格を取った、とか、週末は社交ダンスに興じている、など、方向性は様々人によって違うが、黒子を強いられる職業であるが故に自分を表現する場が必要なのだろう、と思っている。
ガリ勉ひとすじでつらい受験勉強を乗り切っても、大学に受かったら何をしていいか分からなくなる、という話がある。それと同じで、他に自己実現の場を持ってこそ、通訳者としての訓練も花開くというものだろう。
そんな感じで私自身も本業以外に色々な趣味・興味を持っている。
まず、これは本業にも近いところだが、副業でオンラインの英語コーチングをやっている。英語中上級者を基本的に対象とし、高いレベルでの英語力を身につけるためにクライアントと伴走するプログラムだ。
始めるにあたり、本当に色々な英語参考書を調べまくったのだが、その中でも『英語のハノン』というシリーズがもっともよかった。英語を上達するために必要なことやその本についても記事を書いているので、英語上達のカギを知りたければ読んで欲しい。
『英語習得の決め手とは?』
https://tenro-in.com/reading-life-vol210/299496/
日本人はどうしても英語に過大なコンプレックスを持つ人が多いようだ。やれ発音が悪い、文法が分からない、早口は聞き取れない、とできないことに注目しすぎている。確かに日本の学校での英語教育には難点もあるが、学校英語だけでもやってやれないことはない。
自信をもって英語を使える日本人が増えて欲しい、といつも願っている。
ま、そうなると私の仕事が減っちゃうと思うけど、それはそれ、ということで。
次に今までは仕事に関する話だったが、私はその他のことでもいささか「レア」な点がある。食べることが大好きなのが高じて、「食」の世界にもディープに足を突っ込んでいる。語学、というハードな側面から一転、非常にソフトな世界だ。
ちなみに、通訳者でここまで食や料理にこだわっている人にはついぞお目にかかったことはない。そういう意味では、英語と食の組み合わせは「レア」を通り越して「ユニーク」になっている、と思う。
我ながら「変なヤツ」だ。
もともと食べることは小さい頃から好きだったが、ここまでこだわるようになったのは、やはり結婚して子どもを産んでから、だろう。子どもが小さい時は通訳の仕事を受けられない、ということもあり、食についてはいろんなことを学んだ。
雑穀料理を習ったり、
マクロビオティックという食養理論を学んだり、
米粉スイーツにはまってインストラクター資格まで取ったり、
人の顔から体質を診断する望診法に夢中になったり、
という具合だ。
普段の食へのこだわりは、最近書いているこういったライティングに反映されている。
『女王様には手間がかかる』
https://tenro-in.com/mediagp/299795/
やはり人間、霞を食らって生きてはいけない。
桃源郷に住まう仙人ではないのだから。
となると、人生で重要なことは、何を食べてやりたいことを実現するか、ということになる。
「生きることは食べること」
これが私の人生における座右の銘だ。
食については今まで本当に気の向くまま導かれるままに学んできた。だから、どうやって人に広めていくか、どのように発信するか、という点はまったく考えていなかった。
でも今、ライティングという新たな武器を手にした。
この武器で人生における食の重要性についても発信していきたいと思っている。
子どもが通っていた保育園では、よいご縁に恵まれて食については気持ちを同じくする友人にたくさん巡り会うことができた。今でも交流が続いている。今住んでいるのは大分県だが、地元で頑張っている生産者さん達、カフェや食堂を営む友人達、また特徴ある地元のレストランなどについても紹介して地域を盛り上げていく手伝いをライティングでできないか、と考えているところだ。
そういったお店の食レポも得意なのだが……食べてばかりいないで、ちゃんとレポートとしてまとめないといけないな!
通訳という職業に英語コーチ、読書に食、とそれぞれ掛け合わせると、結構レア度が高くなっただろうか。これだけ希少なものに色々なものを複数組み合わせれば、「ユニーク」へと昇華できただろう。
私が思うに、「レア」とは単に希少性が高いだけのこと、「ユニーク」となれば他と違う特異点が顕在化した状態を意味することだ。この複数の要素の組み合わせすべてにライティングという網をかぶせたら、一体何になれるだろう? どんな新しい自分を発見できるだろうか。
「ユニーク」のユニとは”uni”、つまり「ひとつ」ということだ。ユニコーンの角は一本ぽっきり、ユニフォームは同じひとつの服装のこと。唯一の「ユニーク」になること、それは「オンリーワン」を目指すということと同義だと思っている。
本当の「オンリーワン」になるために人は生まれてから色々な経験を積み重ねていくものだ。
「ヨーロッパへ友達と旅行に行ったときは、本当に楽しかったなぁ」
と思い出しては自分の宝物とするような記憶もあるし、
「あのときのことを思い出すだけで顔から火が出るようだ」
と感じるような体験もあるだろう。
中には本当につらい経験や悲しい体験もある。
私にとっては、息子が生まれる前に母を病で亡くしてしまったことは、思い出すだけでも涙腺が決壊しそうになるつらい記憶だ。子ども好きの母に孫を抱かせてあげられなかったことは、私の人生のおける最大の親不孝となってしまった。
『終わりが始まった一日』
https://tenro-in.com/reading-life-vol195/282602/
そんな母が病気になる前に言っていたことが、
「わたしゃ、百歳まで生きて意地悪ばあさんになる」
という夢だ。イジワルばあさんになって孫を可愛がってやると宣言する母に、その時は乾いた笑いしか返せなかったものだが、当の本人は百歳どころか、六十を少し過ぎたぐらいであの世へ行ってしまった。
これは、やるしかない。
娘の私が意志を継ぐしかない。
だから私は少なくとも百歳までは生きて、立派な意地悪ばあさんにならなくてはならない。
その時までには、「オンリーワン」として自分のやりたいことをやりきってしまわなくては……果てしない夢、とはひとつの夢が叶うことでは、ない。次から次へと新しい夢が現れる人生をやりきること、生ききること。
それが大切なことではないか、最近そのように思う。
さて。
立派な意地悪ばあさんになるために『意地悪ばあさん』(長谷川町子)でも読み込んでおこうかな。ウフフ、楽しみだ。
□ライターズプロフィール
工藤洋子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
20年以上のキャリアを持つ日英同時通訳者。
本を読むことは昔から大好きでマンガから小説、実用書まで何でも読む乱読者。
食にも並々ならぬ興味と好奇心を持ち、日々食養理論に基づいた食事とおやつを家族に作っている。福岡県出身、大分県在住。
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