週刊READING LIFE vol.212

バツイチの私が離婚記念日に始めたこと《週刊READING LIFE Vol.212 ライターとしての自己紹介文》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/4/10/公開
記事:牧 奈穂 (READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
シングルマザーとして、塾講師をしながら、一人息子を育てている。
離婚してから3年が過ぎたところだ。私は25年間結婚していた。
私が「書く」ことにこだわる理由を語るためには、結婚生活と離婚が切り離せないような気がする。
結婚をしたのは、20歳の時だ。当時人気者だった塾の先生と恋に落ち、友人の誰よりも早い結婚となる。華やかな人生を歩き始めたかのように見えた私だが、結婚生活は思い描いたものとは違っていた。夫とは価値観が少し違っていたようだ。結婚生活は、忍耐が必要で、恋愛とは違う。繰り返し自分に言い聞かせていた記憶がある。私たち夫婦は、いつも2本の平行な道をそれぞれが別々に歩んでいたように思う。互いが決して交わることはない。近くにいるのに、いつも寂しかった。同じ道の上を歩んでいないから、どこか分かり合えない。次第に私は夫に期待することをやめ、自分自身を幸せにするために、仕事にのめり込んでいった。生徒たちへどう教えていけばいいのかを研究し夢中で働いていくと、30歳を過ぎた頃に何か物足りないような気持ちに襲われる。子供が欲しいと思うようになったのだ。結婚して12年で、私は息子を出産した。
 
息子ができて幸せに思っていた時間はそう長くは続かなかった。1歳の誕生日をお祝いした直後に、突然家庭が壊れてしまったからだ。ある日、夫が浮気をしていることを知る。夫とは話し合っても分かり合えないところがあった。でも、絶対に間違ったことはしない人……そう信じきっていた私には、何が起きたのかさえも理解できなかった。心の中に、「現実」が入ってこない。家族会議で出された答えは、息子のために「何もなかったことにする」ということだった。私の傷ついた心はどうなってしまうのだろう? 嵐のように心が乱れたが、息子のために生きる道を決断する。息子が何よりも大切だったからだ。この子のためだけに生きよう。幸せな家庭で暮らす母親を演じながら、嘘の世界の中で生きていくことを決意した。
 
息子は、とても心が優しいが、いつも傷ついてばかりの子だった。
大人と深い話ができるが、学校はいつも窮屈そうだ。一つのことに集中すると、とことんのめり込む。強いこだわりをもつ姿から、発達障害のことについても調べたことがある。該当しているようで少し違う。誰に相談していいのかが分からず、ますます子育てに悩むようになった。
そして息子が12歳の時、たまたました知能検査でIQが146だと分かった。普通の人のIQは100〜110、東大生の平均IQが120だそうだから、相当高いことになる。130以上の子をアメリカでは「ギフティッド」と呼ぶそうだ。IQが高いことは、何でもできることとも違う。ギフティッドに合わせた教育サポートが必要だが、日本ではサポートがほとんどなく、学校嫌いになる子も存在している。
人と違った息子なら、人と同じ価値観で育てなくていい。ありのままの息子を受け入れてあげればいい。IQ検査は、いい意味での開き直りを私に与えてくれた。
 
壊れた家庭生活を送りながら12年が過ぎた頃、私はある男性と出会った。出会いは突然やってきた。よくないことだと分かってはいたが、彼に心が惹かれてどうしようもなかった。きっと、ずっと独身だった彼は、結婚をして子供が欲しかったのだろう。私の心の中の大きな部分を占めていた彼は、半年程度で私から去っていった。
自分の一部がもぎ取られてしまったかのように、心が痛くてたまらなかった。毎日、朝カーテンを開けるたびに、涙が出る。喜びのない朝が始まる瞬間に、心が痛む。苦しい別れが教えてくれたことは、「正直に生きる」ということだった。もう、嘘の世界の中で生きることはやめよう。自分の心に正直でありたい。やっと離婚する決心ができた。
 
離婚して1年が経った頃、一人で「離婚記念日」を祝った。
私の人生の中で、いちばん誇らしいことは、離婚ができたことだと言えるだろう。人の物差しではなく、自分の物差しで人生を歩み始めたからだ。自分の心に正直に生きる道は、何かが秀でることよりもずっと輝いて見えた。この誇らしい離婚記念日に、何か記念となることがしたい。そこで私は、「ギフティッドの息子の子育てブログ」を始めた。美しい自然の風景を写真撮影したくなるように、その瞬間の心の動きを書き残したい。それがブログを書くことのきっかけだった気がする。
大学生の頃、私は分厚い日記帳を持っていた。小学生のように日記の宿題がなかったのに、コツコツと書き続けていたことがある。誰に言われたわけでもないが、4年間の大学生活の中で、4〜5冊書き残した記憶がある。何をしたかというよりは、その瞬間どう思ったか、この先どうしたいか、心の動きを書いていたようだ。
社会人になると、自然にそんな自分を忘れてしまっていたのかもしれない。外に向かうことで、自分らしさを忘れてしまっていたような気がする。
人は、心のままに正直に生きていくと、本来歩むべき自分の道に戻るものなのだろうか。書き始めると、学生の頃の日記を書いていた自分を思い出した。時を経て、忘れていた「自分」にようやく戻ることができた。
 
息子が生まれた頃の写真を見ながら、ブログを書く日々が始まった。
書き始めると、息子への思いがどんどん溢れてくる。もう心の中にはしまいきれないくらい、書くことが止まらない。夢中になって息子との思い出を書いていたある日、私は面識のない方からメールをもらった。
「突然のメールで、大変失礼します……」
丁寧な挨拶文から始まるメールの行間からは、子育てで悩んでいる様子が伝わってくる。
息子は、吃音で言葉がうまく口から出なかったことがある。私と同じように、我が子の吃音で悩んでいた方が、吃音のことを調べていた時に、偶然私のブログに出会ったようだ。私自身も息子の吃音に悩んだ時、なかなか情報が手に入らなかったことがある。情報が少ない中で困り果て、直接私に相談がしたかったようだ。質問に答える形で、何度となくメールを交わしながら、全く面識のない人を励ますことができた。
 
自分が書いたもので、出会ったことのない人と繋がることができる。そして、微力ではあるが、その人の心を受け止め力になることができる。私が経験したことや心の動きを書いて、それを人に伝えることで、誰かの助けになれたことは感動的だった。書くことの奥深さを感じることができたからだ。自分の辛かった経験を語ることは、同時に誰かの心を軽くすることにもつながるのかもしれない。そう思うと、別な視点で書くことに向き合うようになっていった。単なる電子日記のつもりで書いていたブログが、誰かの心に寄り添えるかもしれない日記に変わっていく。同じ悩みを持つ、見知らぬ人を励まし、心を穏やかにさせてあげられたらいい。その人が何かを気づくきっかけになり、何かの癒しになれたら私も書いた甲斐がある。一つのブログの記事で、同じような悩みの人を励ませた時、言葉の持つ力の大きさを実感することができた。書くことは、自分だけのためではなく、人に何かを与えることにも繋がるかもしれないからだ。
 
私自身は、今、2つの新しいことにチャレンジしている。
1つは子離れをしていくことの切なさに向き合うことだ。息子のために生きていた私は、高校生の息子から離れていかなければならない今を過ごしている。愛情をかけ続けていた息子から一歩一歩離れていき手放すことは、簡単なようで難しい。
そして、2つ目は再スタートを切ることの難しさを克服することだ。
マッチングアプリを使い、新しいパートナーと出会うことができた。私は、ずっとパートナーと出会えることを望んでいたが、時間も心も全く余裕がなかったように思う。離婚をし、息子を手放そうとしている今、私はやっと新しいパートナーとの日々を過ごせるチャンスを得たところだ。
もうすぐ50歳になる私を見て、今さら恋愛なんて……と思う人もいるだろう。いい歳をして……と笑う人もいるかもしれない。それでも私は、若かった頃に正直に生きられなかった人生を自分らしく歩み直してみたい。もう一度自分らしく生きてみたい。
 
景色を撮影するように、今、この瞬間の心を「書く」ことで心の写真撮影をする。
心の揺れを文字にして読み手に届けることで、読み手の心に何かを伝えることができれば、それがとても嬉しい。私の経験を読むことで、考えを巡らせ、癒しを得られたり、笑えたり……もしかしたら反面教師となり、こういう生き方は嫌だという気づきを得るかもしれない。自分自身の経験を包み隠さず語ることで、誰かが幸せになれたら、私が書くことの意味を見出せる気がする。読み手が記事を読んだ後に、人生がほんの少し豊かになれるような記事を目指していきたい。
 
私には、数えきれないほどの失敗がある。
私には、数えきれないほどの心の傷がある。
心の傷と向き合いながら、今、自分自身も前を向こうと必死にもがくことがある。傷を忘れるのではなく、傷を受け入れ乗り越えてみたい。失敗ばかり、辛いことばかりの人生を半分過ごしてきたが、これからはどう息子を手放し、どう彼と生きていくかも語ってみたい。生き方が下手な私が、等身大の自分を語ることで、読み手に何か気づきが与えられたら嬉しい。
書くことで人が幸せになれるような、心が温かくなる記事を私は目指していきたい。
 
 

<これまでの記事>


ハイビスカスの似合うお墓の前で

バツイチの私が新たな一歩を踏み出す気持ちになった理由《週刊READING LIFE Vol.197 この「音」が好き!》

我が子に超早期教育をしたことが間違いだった理由《週刊READING LIFE Vol.194 仕事で一番辛かったこと》

人生の勝者は、受験の敗者である《週刊READING LIFE Vol.201 年末年始のルーティン》

息子の原点に戻った先で出会えたもの《週刊READING LIFE Vol.208 美しい朝の風景》


 
 
 
 

□ライターズプロフィール
牧 奈穂(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

茨城県出身。
大学でアメリカ文学を専攻する。卒業後、英会話スクール講師、大学受験予備校講師、塾講師をしながら、26年、英語教育に携わっている。一人息子の成長をブログに綴る中で、ライティングに興味を持ち始める。2021年12月開講のライティング・ゼミ、2022年4月開講のライティング・ゼミNEO、10月開講のライターズ倶楽部を受講。

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2023-04-05 | Posted in 週刊READING LIFE vol.212

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