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アンチ・チームワーク


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記事:松浦哲夫(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
チームワークが大切だ、という考え方に異を唱える人はほとんどいないだろう。複数人が協力して1つのことを成し遂げる大切さは、学生でも社会人でも実感する人はきっと多いはず。
 
先のWBCおける侍ジャパンの大活躍は、未だ多くの日本人の記憶に新しいことだと思う。数々の逆境をはねのけ、見事に優勝に輝いた選手たちは本当に素晴らしい。結果だけ見るとなんと全勝。ただの1度も負けていない。もちろんメジャーで活躍する大谷をはじめとした選手たちの力量によるところも大きいが、それ以上にチームワークが大いに発揮された。全ての要因が見事に絡み合っての結果と言っていい。
 
私自身もまたこれまで多くの場面でチームワークを経験し、多くのことを成し遂げてきた。チームワークが大切だ、ということは身をもって理解している。
 
しかし、私のこれまでの人生で大きな壁となって立ちはだかり大いなる試練を与えてきたのは、いつもチームワークだったのだ……。
 
今から15年ほど前、私は環境分析を専門とする会社に所属し、そこで検査員として働いていた。要するに、工場から出る水や煙に有害なものが含まれていないかどうかを検査していたわけだ。
 
検査業務は、顧客の工場まで車で出向いて現地で行われる。1人で行なう業務ではない。準備の段階から現地での検査、片付けまでがチームワークの業務となる。私は複数人の検査チームという大きな装置の中の1つの歯車としての役割を果たしていた。
 
最初の数ヶ月間、私はチームの歯車としてうまく振舞うことができた。基本的に検査業務は決められた流れに沿って行われるものであるが、現場ごとの対応力も求められる。私は最初から検査業務の難しさを肌で感じることができたし、その難しさに対応できるように心がけていた。業務に対するある程度の勘は持ち合わせていたのだろう。
 
しかし、そんな私のチーム内での立ち居振る舞いにも次第にほころびが出始めた。準備から片付けまでの一連の業務の中でミスが増え始めたのだ。
 
ある時は、現場で必要な工具を車に積み忘れて、仕方なく近くのホームセンターで購入した。またある時は、煙の採取に失敗し正確な検査ができなかった。他にも現場に工具を置き忘れたり、現場の場所を間違えたりと数々のミスを繰り返した。その度に上司や同僚からひんしゅくを買い、次第にチーム内での私の立場が弱くなっていった。
 
原因はわからない。検査に慣れてきたからでも、気を抜いてしまったからでも、ましてやいい加減な気持ちで検査をしていたわけでもない。検査業務は危険も伴なうため気は抜けない。大怪我にも直結する危険業務なのだ。
 
なんとかしなければならないと、私は独自に対策を講じた。自身の検査業務を見直し、フローチャートを作成し、ミスの原因を徹底的に追求した。それでもダメだった。私は自分に絶望し、一睡もできずに朝を迎えたことも1度や2度ではなかった。ある時ついに、私は心療内科を受診することにした。このままでは本当に精神が病んでしまうと思ったからだ。
 
心療内科で小一時間先生と会話したのち、先生は事務的な口調で私に告げた。
 
「あなた、チーム内で仕事すること苦手でしょ?人に合わせようとするとそれがプレッシャーになっちゃう人だね」
 
先生の言葉で私はハッとした。検査業務だけではない。私のこれまでの人生を振り返ると、多くのことが先生の言葉に当てはまると気がついたのだ。中学、高校ではサッカーやバスケといったチームプレーは苦手、文化祭や体育祭のようなクラスが一丸となって取り組む学校行事は苦痛でしかなかった。大学生の頃のガソリンスタンドでのアルバイトでは、他のアルバイト学生や社員の方々と全く息が合わずに迷惑ばかりかけた。
 
逆に陸上競技やスキー、クライミングのような個人競技は大いに楽しむことができたし、会社業務の中でも単独で行なうものはまったく問題なくこなすことができた。先生は続けた。
 
「もしこのままチームでの仕事を続けると、あなた自身が参っちゃう。会社に言って業務を変えてもらうか、それが無理なら退職っていう手段も考えた方がいいかもね」
 
それから数年後の現在、私は個人事業主としてビジネスを立ち上げ生計を立てている。同業のビジネス仲間はいるが、従業員もいない細々としたビジネスだ。大きな仕事はできないし、毎月の支払いに慌てることもしばしばだ。でも、私は毎日本当に楽しく、プレッシャーも少ない中で生活することができている。
 
心療内科受診の数ヶ月後、私は会社を退職した。その後、再就職するなどいろいろなことがあった後、今の状況に落ち着いた。検査員だったあの頃と比べると精神的に大きく成長できたように思うが、私の本質はチームワークが苦手なあの時のままだ。
 
どんな業界でも社会でもチームワークはきっと大切だ。ビジネスでもスポーツでも、それは変わらない。私はそこから外れた人間なのだ。仕方ない。それが私という人間なのだから。今では誰かと一緒にチームを組んで仕事をしようなどとはまったく思わないが、それでもなんらかの形で人と関わることはある。当然だ。それすら嫌なら人を寄せ付けない山奥にこもるか、無人島で生活するしかない。
 
ただ、チームワークが苦手だという自分の本質を理解していれば、それに対応することはできる。私自身の本質のせいでこれまで散々苦労してきたが、今では検査員だった頃の上司や同僚に感謝しているし、何よりも心療内科の先生に感謝している。
 
改めて思う。チームワークでWBCを制覇した侍ジャパンの選手たちには畏敬の念を禁じ得ない。
 
 
 
 
***
 
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2023-04-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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