メディアグランプリ

薬は諸刃の剣であることを、製薬会社で働く私が体験した


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記事:岩田 真治(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「首に蕁麻疹ができているかも……」と妻から言われるまで、私は自分の異変に気付かなかった。 今回の蕁麻疹は、腫れも痒みも無かったからだ。 鏡で自分の首を見ると、赤く日焼けしたような跡がある。 まだ4月上旬であり、日焼けするほど太陽の光も強くない。 翌朝、私はクリニックで診察を受けた。
 
「蕁麻疹ですね。 薬出しておきますから」と医師は、私の首を見るとすぐに病名を告げた。 私は診察を終えると、薬局で2種類の飲み薬をもらい、帰宅した。 薬を飲み始めて2日ほど経つと、蕁麻疹が消えた。 しかし、蕁麻疹は腫れや痒みが治まっても、服用を止めると再発しやすい。 私はたびたび蕁麻疹に悩まされる。 昨年末にも蕁麻疹になり、今回と同じ2種類の薬をもらっていた。
 
前回も直ぐ蕁麻疹が治ったため、この時は安心して薬を飲むのを止めてしまった。 そこから数か月しか経っていないのに、再び私は、蕁麻疹に悩まされることになってしまった。 私の仕事は製薬会社の営業、通称MRである。 私はMRのプライドにかけて蕁麻疹を完治させるために、今回と前回に出してもらった2種類の薬を朝と晩の2回、無くなるまで毎日飲み続けることにした。
 
薬を飲み始めて5日ほど経つと、体の変化に気付いた。 夜中に目が覚めないのだ。 普段の私は、眠りが浅い。 夜中や明け方に目が覚めて、二度寝できず、そのまま朝を迎えることも珍しくない。 営業成績が気になる時は、明け方に目を覚まし、パソコンを立ち上げ、前日の売上高を確認する日もあった。 蕁麻疹の薬を飲み始めてから、朝までグッスリ眠れるのだ。
 
熟睡できるようになった私は、蕁麻疹の薬に感謝した。 「前回分も残しておいて良かった。 このまま毎日飲み続けよう!」と思い始めたころ、次の体の変化に気付いた。 毎日、午後2時ころに、我慢できないくらいの眠気が襲ってくる。 そして、勤務時間中にも関わらず、私は営業車の中で30分、長い日は1時間ほど昼寝をすることになった。 合計すると1日8~9時間の睡眠を取っていることになる。 蕁麻疹の薬を飲む前の睡眠時間は、1日7時間くらいであった。
 
さすがに寝すぎかな、と思いはじめた。 しかし、きっと昨年末もこれくらい寝ていたに違いない、という変な安心感に浸っていた。 そして、飲み始めて10日ほど経ったころ、残っている薬の数が違うことに気づいた。 1つの薬は10日分くらい残っているのに、もう1つの薬は5日分ほどしか残っていなかった。 「あれっ? おかしいぞ!!」と思い、薬局でもらった薬の説明書を見ると、2つの薬は飲み方が違った。 1つは朝・晩の1日2回だが、もう1つは寝る前の1日1回のみだったのだ。
 
寝る前に飲むべき薬の副作用を慌てて調べた。 主な副作用として、「眠気」が最初に記載されていた。 薬を飲みすぎていたから、蕁麻疹が思ったよりも早く治り、眠気が思ったよりも強く出ていた。 年末の蕁麻疹の時は説明書通りに飲んでいたのに、なぜ今回飲み間違いが起こったのだろうか、と考えてみた。
 
年末の蕁麻疹の時は、腫れと痒みで真夜中に目が覚めた。 首から足先まで身体中に蕁麻疹が出来ていた。 慌てて翌朝、日曜日にもかかわらずクリニックへ向かった。 医師、看護師、薬剤師の言葉を聞き漏らさないよう集中していた。 薬は途中で止めてしまったが、受診日の患者としては優等生だった。
 
しかし、今回はどうだっただろうか。 特に腫れておらず、痒みも感じなかった。 首と腕が少し赤いくらいだった。 軽い蕁麻疹だったのだ。 そして、仕事休めてラッキー、と思いクリニックへ行った。 「蕁麻疹ですね」という医師の言葉に「やっぱりね」と思い、看護師や薬剤師の話を適当に聞いていた。 そして、薬剤師が説明する薬の飲み方を聞き洩らしたのだ。 1つの薬の「1日2回飲んでください」の説明だけ聞き、もう1つの薬の説明を全く聞いていなかった。 薬の飲み方を間違えるとは、患者としてだけではなく、MRとしても劣等生である。
 
早く病気を治したいという気持ちが強くなり、薬をたくさん飲んでしまう患者さんもいるだろう。 私のように、薬剤師の話を聞かず、薬をたくさん飲んでしまう患者さんもいる。 確かに、早く病気が治るかもしれないが、強い副作用が出てしまうこともある。 幸い私は、運転中に眠気が襲ってくることはなかった。 万が一、運転中に副作用が出て来て、大きな事故を起こしていいたら、と思うと背筋が凍りつく。
 
私がMRのプライドにかけて行うことは、単に蕁麻疹を治すことではなく、説明書通りに薬を飲んで蕁麻疹を治すことだ。 と薬の効果と副作用という諸刃の剣の切れ味を、自分の身体で嫌というほど味わったからこそ、言い切れることである。
 
 
 
 
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2023-04-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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