新幹線で出会うおじさんたちは同志
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:川端彩香(ライティング・ゼミ4月コース)
営業職なので、出張が多い。
出張の交通手段として、電車や車を使用することが多いが、最近特に増えたのは新幹線での移動だ。関東方面の担当先が増えたので、今まで月に1~2度だった新幹線の利用頻度が、ざっくり倍になった。それまでは新幹線を使うといってもせいぜい1時間半以内の乗車が多かったのだが、大阪から関東方面となると2時間以上乗ることになる
朝はまだいいのだ。前日にそれなりにたっぷり寝て、翌日の準備をしっかりしていれば、ある程度ギリギリまで寝ていてもなんとかなる。寝不足でなければ、早朝であってもまだ耐えられる。
問題は、1日中働き通してヘロヘロに疲れ切った夜の新幹線なのである。
商談であろうと、取引先の店頭での作業であっても、社外で1日中神経を張り巡らせて働くと、とても疲れる。もちろん社内で事務作業に集中した時も疲れることに変わりはないのだが、アウェイで仕事をするということは、少なからずいつも以上に体力的にも精神的にも疲れやすいのかもしれない。
帰路に就く時の新幹線は、できるだけ駅弁などの食料調達の時間を確保するようにしている。それがどんなに遅い時間であっても、心身両面における1日の消費を考えた時に、もう蛙だけではあるが、ここでのカロリー補給は必要不可欠なのである。アルコールは毎度補給したい衝動に駆られるが、体重も気になるところではあるので「今日はどうしても!」という時に取っている。
関東方面から帰る時は、だいたい崎陽軒のシウマイ弁当が私のお供だ。親戚が川崎に住んでいて、よく実家へ崎陽軒のチルドシウマイを送ってくれるので、私にとってはそんなに珍しくもないのだが、なぜかほぼ毎回手に取ってしまう。もしかしたら、よく知っている味だからこそ、疲れた時に食べて少しホッとしたいのかもしれない。
そして、その日も私は崎陽軒のシウマイ弁当をお供に新横浜から新幹線に乗り込んだ。20時前に出発。金曜日だから、明日は休みだ。
新幹線の指定席は、直前に予約を入れた。のぞみ号では7号車がビジネスマン用の号車になっているので、だいたいはその号車で席を取るのだが、さすがに金曜で、しかも予約も直前だったために満席だった。別に7号車以外が嫌なわけではないのだが、私はめちゃくちゃ疲れてくたびれた状態である。最近は外国人を始めとする観光客の姿も多く見かける。そんな楽しい雰囲気の観光客を今の私が見てしまうと、「あー、いいなー。私も遊びたいなー。働きたくないなー」と僻んで気分も下がってしまうに違いない。だから私はできるだけ7号車以外には乗車しないようにしていた。
だがしかし、7号車は満席である。ここは仕方がないが、楽しそうな観光客と一緒の号車に乗り、2時間半を共に過ごすしかない。夜だから外の景色も見られないし、読書をする元気もないし、ひたすら無の境地で車内の天井を見続けるしかないのだ。
いざ、楽しい雰囲気(であろう)14号車に乗り込む……!
乗り込んでみて驚いた。
観光客ばかりだと私が勝手に思い込んでいた車内は、そのほとんどがスーツを着たおじさんたちだったのだ。
スマホで漫画を読んでいるおじさんもいれば、すでに眠りに就いているおじさんもいれば、私と同じように食料を買い込んで食べているおじさんもいる。そして、ビールの缶をプシュッと開けて1杯やっている人も。
な……、仲間が、同志がいっぱいいる……!
ここにいるおじさんたちも、きっと私と同じように1日中商談したり、取引先で作業したり、何件も取引先をはしごしたり、その間に電話やメール対応をしたり、そうやって1日を過ごしたんだろうなぁ。職種は全員違うけど、みんな社外というアウェイの場で神経を擦り減らして頑張って働いたんだろうなぁ。
そう思うと、会ったこともない、そしてこれから先きっと再会することもないおじさんたちが同志に思えた。なんなら、私も缶ビールを買ってきて、乾杯したくなった。そして言いたくなった。「お疲れ様です! 私たち、今日も頑張りましたよね! 乾杯!」と。
もちろんそんなことはしないし、2つ隣になったおじさんや、前後に座っていたおじさんたちとも一言も交わすことはないまま新大阪へ到着した。しかし、その日の私はよっぽど疲れていたのか、見知らぬおじさんたちと乾杯してお互いを称え合いたい気になった。
来月もそれ以降も、今まで担当していたエリアに加えて関東方面への出張が増える。体力的にしんどくなるのは目に見えているが、見知らぬおじさんたちが、きっとこれからも私と同じように疲れ切った顔をして、同じ新幹線に乗っている。
その度に私は、その見知らぬおじさんたちを身近に感じるだろう。そして、心の中でその同志たちとお疲れ様の乾杯をするだろう。
頑張って働いているのは私だけじゃないんだと思うと、もうちょっと頑張ろうと思えるのだ。
***
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