断捨離するなら、捨てようとしないことだ。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:岩間愛(ライティング・ゼミ2月コース)
「掃除や片付けの前に、まず捨てなさい」
適当に再生していたYoutubeからドキッとする言葉が聞こえてきた。
私はどちらかというとモノが多く、片付けが苦手な部類の人間である。小学生の頃は机に教科書がいつも積み上がっていた。そこにプリントなども適当に重ねていくため、よく雪崩が起きる。ぐちゃっと落ちたそれをその形のまま机に戻すので、また不安定な土台が出来上がる。その様子に親がキレるたび、ゴミ袋の中にすべて詰め込まれ机の上が綺麗になっていた。
「今やろうとしてたのに!」
そんなセリフをよく吐いていたものだが、今思えば親が手を下す前に綺麗でいた記憶があまりなかった。ゴミ袋に入れられたものたちを、今度はちゃんとあるべき場所に戻していく。教科書は本棚に、プリントは見やすくファイルに、細々したものは引き出しへ。それはもう綺麗にぴっちりと収める。
何度も強制的収納作業を課されていたお陰で、それだけはスキルアップしていた。
何故その状態をキープできないのかと疑問を持つ人もいるだろう。
出したものを戻すのが本当に難しい。ズボラで面倒くさがりの性格は、常に出しっぱなしを選択する。毎回倍以上の時間をかけて片付けても変えられない。それが私なのだ。
「8割捨てれば人生が変わる!」
「モノを捨てれば運が良くなる!」
「断捨離すると運命が変わる!」
YouTubeで紹介されていたのは断捨離だった。
知らない言葉ではなかったが、少し前に流行った記憶がある。
調べてみると断捨離ブームは2010年代らしい。日本の整理収納アドバイザーである近藤麻理恵さんが提唱した概念で、物を減らすことで心地よい暮らしを実現するためのメソッドを紹介した本が多くの人に影響を与えた。電車の広告でもよく見た記憶がある。
ミニマリズムの概念が一般的に知られるようになったのもそれくらいからだろう。
断捨離ブームは、物に囲まれた忙しい現代社会において、シンプルで心地よい暮らしを追求する人々の関心を集めた。物の所有にとらわれずに、本質的なものに焦点を当てるという価値観を提案している。Youtubeの動画は、そこに「金運が〜」とか「願いが叶う〜」といったスピリチュアルな要素を取り入れたものだった。
「断捨離して運気をあげる」という根拠のない言葉には妙な魅力があった。
しかし私はものを減らすのが苦手で、思い出を形として保管していたいタイプ。それに「まだ使える」「いつか使う」と、勿体無い精神が湧いてしまう。使わないものであったとしても、綺麗な状態のものを処分するのには抵抗がある。
そこへ、衝撃的な概念を動画は与えてくれた。
「恋人から連絡が来ない日、何日まで耐えられますか?」
いや〜、付き合っているのだとしたら、連絡が来ない日あっちゃダメでしょ……どんなに忙しかったとしても何か反応はできるはず……でもまあワケアリだったとして1ヶ月とかなら……
「その答え、モノがあなたに対して思ってることですよ」
つまりこうだ。私は付き合っていながらも連絡もせず、たくさんの恋人を抱えている。しまいには記憶から抜け落ちて放置、それでも新しい出会いを重ねていく。恋人たちは自分のことを信じてまた会える日をずっと待っているというのに。処分……つまり別れを考えるも「勿体無い」とキープするのだ。
私は人間性を疑うような自分の姿にショックを受けていた。
「本当に使うものを残しなさい」ということである。
2年くらい着ていない洋服もあれば、4年以上前からずっと着ているものもある。
振り返ってみると、案外同じモノを何度も使っているのだ。やはり自分の生活にフィットしたものが活躍しやすいということ。4年に1度が許されるのはオリンピックくらいだ。
1回だけ使ったクレープ焼き器、買って満足した未読本、オンライン化して出番がなくなったDVD。使われることをずっと待っている彼女たちを解放せねばと、ついに私は動き出せたのである。
その流れから行き着いた断捨離法は「人に譲ること」だった。
お金をもらうのでも構わない。これは誰もが思いつくことだろう。しかし私は少し違う。
「もっとあなたを大事にしてくれる人のところへお行き」というスタンスでいるのだ。そこには、散々な扱いをしてごめんねと、新しい環境で幸せになってくれという強い願いが込められている。
人にあげると考えたら不思議と簡単に手放せた。快感に近いものすらある。
特に幸せを感じたのは、対面での手渡しだ。まるで自分の娘を嫁に出すような気持ちになる。貰い手は皆「ありがとう」と感謝して受け取ってくれる。こちらこそありがとうなのに。実際嫁いだ先での扱いはわからないが、少なくとも私よりマシだろう。
この経験で一番良かったことは、断捨離の感覚が根付いた後にある。
ぜひ自分が譲り受ける側、つまり嫁ぎ先になることを体験してみてほしい。
直接受け取ったときの幸福感と、今度は自分がめいいっぱい愛してあげようという気持ちでモノを迎え入れるのだ。本当に必要なものかどうかをしっかり考えた上で手に入れたものであれば、絶対に大事にできるはず。
モノを減らすことは大して重要じゃない。
「本当に使うものを大切にする」ということが、豊かな心に繋がるのだと思う。
だから断捨離は、捨てるより譲った方がいい。
***
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