目標の方向性を変えたら、楽しく続けられるようになったこと
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:鈴木 洋子(ライティング・ゼミ4月コース)
「グレード受験を目指そうって、最近言わなくなったの気づいた?」
先生の言葉に私ははっとした。
私はエレクトーンを35年間習っている。
始まりは幼児科、年中のとき。ものごころがつく前である。
おそらく近所に音楽教室があり、近所の友人と誘い合って、親が入会させたのだろう。
私は音楽は好きで、幼稚園のお遊戯会などではりきって歌を歌っている記憶はある。ものごころがつく前からエレクトーンを習っていたおかげか、童謡やアニメソングを自然と耳コピで弾けるようになっていた。テレビから流れてくる曲を自分の手で奏でられることがうれしかった。
幼児科から小学校6年生までは5人のグループレッスンだったが、小学校高学年ごろから、友人がそれぞれの理由によりだんだん辞めていってしまった。
中学に上がると、とうとう1人になった。
私は特にそのときは辞める理由がなく、グループレッスンから個人レッスンに変更になり、何となく続けていた。
その後、続けていく中で、何度か辞めようと思ったことがあったが、踏みとどまったターニングポイントが2つある。
一つは、グレード試験について。もう一つは、発表会について。
私の通っているレッスンでは、年に1回発表会があり、習っているのなら発表会にも出るものだという慣習により、発表会に出ていた。
小中学生、高校生のころは、この曲を弾きたい、という願望があまりなく、先生に勧められた曲の中から選んで弾くことが多かった。曲は、色々なジャンルの曲をやった方が勉強になると思い、J-POP、クラシック、ジャズ、映画音楽など、色々な曲をやった。
発表会に出るときの曲は少しハードルが高かった。練習嫌いな私は、完成度が80%ぐらいの状態で本番を迎え、本番では緊張の波に飲まれて、毎回70%ぐらいの完成度になってしまっていた。本番後は、やっぱりうまくいかなかったな、といたたまれない状態で、先生と顔を合わせるのも気まずかった。
エレクトーンにはグレード試験というものがあり、これも習熟度に応じて暗黙の了解で受けていた。グレード試験は10級からだんだん上がっていき、中学のころの6級までは順調に進級できた。
ここからが問題である。6級から5級への壁が高い。10級から6級までは学習者向け試験で、5級から上は指導者向け試験とされている。練習してきた自由曲の「演奏試験」と、「即興演奏」という試験のその場でコードネームの書いた紙を渡され、3分でそのコードネームを読み取って伴奏を付けて演奏するという試験がある。
私は特に指導者になりたいという夢はなかったが、ステップアップのために、次は5級を目指して勉強していった。
コードネームは、本を見ながら楽譜に音符を描いて覚えていた。
しかし、基本のコードネームの意味は理解できても、応用のコードネームは頭の中で仕組みを考えてから弾くまでに時間がかかってしまう。どうしても3分で即興で弾くまでの達成度には届かなかった。
即興で演奏できる自信がないまま、試験の日が来てしまった。
試験では、自由曲はしっかり演奏できたが、即興演奏は案の定、分からないコードネームが出てくると止まってしまい、ブツ切れの演奏になってしまった。
そんな状態なので、当然のことながら、試験は不合格だった。
即興演奏は難しく、身についていないまま試験を受けるというのは、つらかった。
私は既存の好きな曲を演奏するのが好きなので、即興演奏はできなくてもいいし、このつらさから解消されたい。演奏+試験勉強のレッスンカリキュラムではなく、演奏のみのレッスンカリキュラムへの変更を先生にお願いした。
先生からは、「せっかくここまで勉強したのに、もったいないよ」と言われた。その後2年ぐらいは、「また試験を受けてみたら?」とたびたび先生から言われた。しかし、私は、好きな曲を弾くのに専念したいので、試験への未練はなかった。
発表会も正直、完成度80%で不十分なままステージに立つ緊張感がストレスで、高校生以降は何年間か出演しなかった。
20代後半に、目標がないまま続けるのも、張り合いがないのではないかと先生に言われた。先生から、私がエレクトーンで先生がピアノというデュエットで発表会に出てみないかと提案された。
先生と一緒なら、練習も頑張れるかもしれない。
私は、約10年ぶりに発表会に出る決心をした。
今回は、発売されているデュエット曲集から、ディズニーの曲を選んだ。誰かと一緒に弾くということを久々にしてみると、お互いの息を合わせて演奏することがすごく楽しかった。練習も完成度100%まで努力できた。本番は緊張したが、先生と弾くという心強さも手伝って、気持ちよく演奏することができた。
翌年の発表会は、先生は他の生徒さんと一緒に出るので、私は1人で出るように言われた。その時、先生から
「グレード受験を目指そうって、最近言わなくなったの気づいた?」
と言われた。
たしかに、グレード受験を最近先生から勧められることはなくなっていた。
「洋子さんの最近の様子を見て、グレード受験だけが目標ではなくて、好きな曲を自由に弾いて楽しむということも趣味を長く続けていく上で大切だと気づいたの」
とおっしゃった。
私はまさにそうだと思った。
今まで無理をして、グレード受験を目指したり、色々なジャンルの曲を弾こうとしていた。だんだんと、好きな演奏が苦痛に変わっていた。グレード受験から、好きな曲を演奏することに目標を切り替えたら、演奏が楽しくなってきた。
それまでは、レッスンに通うこと自体を辞めたいと思う時期が何度かあった。しかし、辞めてしまったら、おそらく全く弾かなくなってしまい、演奏技術は落ちるいっぽうである。せめてレッスンに通うことで現状維持は保ちたいという気持ちで、レッスンは続けていた。
発表会に出るという適度な緊張は必要だが、自信を持って舞台に立つ心の準備ができるようにしていきたいと思えるようになった。自分の練習のモチベーションと、本番での緊張度合いと、完成度を理解したうえで、身の丈に合った曲を選ぶということも、経験を重ねて考えるようになった。
1人で演奏するのは、またあの緊張感が心配である。どんな曲を演奏するか、私は思い切って難易度が1段階下の楽譜の曲を探すことにした。今まで発表会で選んできた曲は、ハードルが高く、完成しきれないまま舞台に立つことが多く、本番を楽しめていなかった。今回はハードルを下げて、本番までに完成度が120%にできるような楽譜を探してみようと思った。
好きなJ-POPの曲で、難易度が1段階下の楽譜が見つかった。この楽譜で120%の達成度を目指して練習していった。
演奏会本番、120%の達成度から緊張した部分を引いて、100%の演奏をすることができた。演奏会を自分自身、初めて満足に終えることができた。舞台を降りて先生に顔を合わせるときも、笑顔でうまく演奏できたねと喜びあうことができた。
みなさんも、もし好きなことが、いつしか苦痛になっていることがあったら、目標の方向性を変えてみてはどうだろう。すると、新しい発見があったり、自分というものを知ることができて、細く、長く、楽しく続けられるようになるのではないだろうか。
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