メディアグランプリ

赤いつぶつぶ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:中野理紗子(ライティング・ゼミ8月コース)
 
 
部屋を散らかしたままにしておくことは、ホラー体験をするようなことである。
 
部屋の中に、赤いつぶつぶが転がっている。
上京とともに一人暮らしを初めて約10年。
引っ越してきて5年ほど経つ自室で、赤くて丸いつぶつぶを妙に見つけるようになった。
 
その赤いつぶつぶは、赤といってもマゼンタカラーに近い色をしていて、乳幼児の小指の爪くらいの小ささで、先の丸くなった色鉛筆の芯が折れたものによく似ている。
初めのうちはごく稀に窓のそばに1つくらい転がっていて、よく分からないままゴミ箱に捨てていた。あまりに色鮮やかなこと、つぶつぶが小さかったこと、転がっているのがごく稀だったことから、窓から入ってきた何か植物のタネみたいなものだと思っていた。(自室の隣には大家の自宅と庭があって、植物が植えられているのも、その推測に影響を与えていた)
 
なんなんだろうなこれ、と時折見かける度に拾い捨てては首を傾げていたが、全くもって心当たりは無い。
1度恐る恐る匂いを嗅いだが無臭だった。ちなみに、ちょっとだけ弾力があるが潰れたりはせず、なにかそういうゴミが出るような心当たりも特になかった。
 
そうして放っておいた赤いつぶつぶが、部屋に転がる頻度が段々と増え始めた。
それまで2週間に1回、ひとつかふたつあるかないかだったものが、毎週のように落ちていて、しかも4、5個固まって落ちていたりする。
窓の近くにばかり落ちていたものが、窓から遠いキッチンや玄関でも時折見つかるようになった。
 
自室以外では全く見かけないのも不思議で薄気味悪かった。
ネット検索をかけたところで「赤いつぶつぶ」では似たようなものなどヒットしないし、SNSで聞くのは、これが住所特定につながりそうな何かだったらどうしようと思うと女性の一人暮らしとしてなかなか怖くできない。ゲリラ豪雨や救急車が近くを通ったことも発信は避けているから、それと同じ感覚でネットにあげるのはほぼ無意識に避けていた。
同僚や知人に聞いてみるか? と思ったこともあるが、不気味とはいえ正直謎の赤いつぶつぶが転がっているだけなので、会社にいる間や外出中などはその存在など普通に忘れ去っており、聞くような機会はなかった。
 
それからまたしばらくして、また更に赤いつぶつぶが見つかる頻度が増えた。
これまで週1で4、5粒まとまって見つかっていたのが、2、3日に一度1、2粒、窓の近くの布団の中から見つかる。
まえから布団の中で見つかることはままあったのだが、この頃は夏用のぐしゃぐしゃに置いたタオルケットのなかから見つかることが増えていた。
 
さすがに、疑問と気味の悪さと、拾っては捨てることの面倒くささが一定値を超えた私は、部屋の中の探索を始めることにした。
同時期に、自室内で見かけたくないランキングでトップランカーだろう黒光りするアイツと、8本足のアイツに出会ってしまったから、もし何かの侵入口があるならなんとかしなければと思ったのもある。ついでに友人宅でネズミが出た話と、家の前の電線の上をハクビシン(多分)が歩いているのを目撃したことも、この重い腰を上げるのに大分影響していることは間違いない。
こうやって羅列してみると、一応大都会東京住みのはずなのだが地元と大して違いがないように思えてきた。そうはいっても地元はもっといろんなものがわんさかいるのだが。
 
サッシの隙間や壁の境目、クローゼットの天井など、何かちょっと怪しそうなところを普段置いている家具や服などを避けつつ見まわるがこれと言って隙間はない。いるかもしれない何かと虫に対してビビりながら部屋中を歩き回った。虫に対してはハッカ油がいいと聞いていたので自作スプレーをぶちまけながら探索を続ける。
 
ここ最近赤いつぶつぶがよく転がっている布団の下の、マットレスを移動させてみた。めちゃくちゃ赤いつぶつぶが転がっていた。想定内である。何かこう、なんらかの死骸とか、つぶれた果実的なものとか、つぶつぶの親玉みたいなものがいなかったことに安堵した。ティッシュで大量のつぶつぶを包み、まとめて捨てた。
 
同様にあちこちの家具を移動させたり、服をどかしたりしながら探索するが、侵入経路もなにも全くわからない。
この日はハッカ油スプレーと、例のアイツが出にくくなるスプレーをして終わった。
 
まるで天啓かのように原因がわかったのはその翌日だった。
何の前触れもなく原因に思い当たった私は窓を開け、そこから出られるベランダを見た。ベランダ用のサンダルが雨ざらしになって置かれている。推測は当たっていた。
そのサンダルはいわゆる健康サンダルのような、足の裏が当たる部分がつぶつぶになっているタイプのもので、そのつぶつぶの一部が根元からとれた形跡があった。
劣化しもろくなり、サンダルを履いた際に足の裏にくっついて部屋の中へと侵入していたのだ。
サンダルを履く際によく見たり、もっとこまめに部屋の掃除やベランダの掃除をしていればこんな気味の悪い思いはする必要などなかったのだろう。
 
今日も部屋の中に赤いつぶつぶが転がっている。
 
 
 
 
***
 
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2023-08-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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