超絶歌の苦手な私が歌をうたうのは
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:渡邊真由子(ライティング・ゼミ4月コース)
来週私は歌のレコーディングをする。
「は? このヒト何言ってるの?」
そう思われて当然だ。私はごくフツーの会社員なのだから。でも、それは本当のことなのだ。
実は現在、とあるアパレルの読者モデルをさせて頂いている。このことだって
「え? アナタ自分が何を言ってるかわかってるの?」
という眼差しを向けられても仕方ないことなのだが、これもまた本当のこと。どう見てもプロのモデルになれる容姿ではないのは十二分に承知している。しかし「アナタや周囲がアナタのことをどう見ているか知りませんが、ウチの会社はアナタが良いと思ったから採用したのです」と言ってくださる稀有な企業もあるのだ。十人並みの外見だからこそ様々な努力を重ねてきた。それを認めてくださったことに心から感謝している。
話を戻そう。
そのアパレルブランドでプロモーションビデオ=PVを作成することになった。そこで浮上したのが音源問題だ。PVと音楽は一心同体のようなものだが、世の中にリリースされた音源は著作権の関係等で使用することができない。演奏も歌もすべてカバーしたものを除いて。つまり「自分たちで演奏し、歌えば良いじゃないか」という結論に至ったわけだ。
歌うのは当然私たち読者モデル。
「歌いたい人いますか? 希望者のオーディションをしてからレコーディングをおこないます」
そんなオファーがあった時、迷わず挙手した自分に驚いた。何を隠そう私は歌がヘタなのだ。
子どもの頃から私がのめり込んだものの一つに音楽がある。「オトナになったらかしゅになるー」などと言いながら卓袱台の上でジャイアンばりのリサイタルを開催した幼少期が懐かしい。祖母も両親も目を細めながら「上手だねえ」と喜んでくれたのを真に受けた。それからというもの、心地よい音楽に身を委ねるのも好きになった。演奏も好きだった。音感教育の教室に通わせてもらい、ピアノのレッスンも受け、部活は吹奏楽部に入り、ライブも数百本見に行くまでになった。自分を無理なく表現できるのは音楽なのかもしれないと思ったこともある。それなのに、歌うことだけはどこかに置き去りにしてきてしまった。社会人になった頃の私の歌唱力は「渡邊、マジでソレなの(笑)」と失笑されるレベルにまで衰えていた。
そんな私がレコーディングに堪えられるレベルの歌をうたえるのか……。私が導き出した結論はこうだ。
「置き去りにしてきたものを取り戻したい。やりたかったらやればいい。やらずに後悔する人生はやめるって、あの日あのとき決めたんじゃないの?」
「あの日あのとき」の詳細は長くなるので割愛するが、このような理由で私は苦手な歌に向き合うことにした。
もう一つの理由がある。昨年亡くなった父が、歌のヘタさを隠すためにふざけながら鼻歌を歌う私に言ったひとこと。
「楽しそうだけれどどうしてそうなっちゃうんだい? マユコはちゃんと歌えば上手だと思うよ」
「そ、そうかなあ。よくわからないわ」
驚いた私はそう言って会話を誤魔化した。
ふとその場面が甦る。そして「父がそう言うなら可能性はあるかもしれない。」と思ったのだ。
それからはある意味において楽しくも地獄のような日々が始まった。
曲は某YouTubeで数千万回も再生されている楽曲が選ばれた。音楽プロデューサー作成の音源を聞き込み、ヴォーカル講師の指導を受け、ひたすら反復練習を繰り返す。最低週三回はカラオケに出向き、自宅でも、入浴中も、とにかく常に練習。それでも自撮りした動画を見ては落胆。同時にプロの凄さが痛いほどよくわかった。小ばかにしていたアイドルに対する見方も変わり心からの申し訳なさでいっぱいになった。こともなさげに歌うけれど、こともなさげに素敵に聞かせるのは簡単なことではない。一曲を完璧に仕上げるために一体どれほどの練習を重ねてきたのだろう。プロでさえそうなのだから、素人の私はその倍以上練習しないと一段上には上がれない。
他の読者モデルたちの練習動画を見て更に落胆もした。私より上手で声質も良さそう。どうして私はみんなと違うのだろう。なんかもう、努力なんて報われないかもしれない。泣きそうな心境の私にプロデューサーと講師がこんなことを言ってくださった。
「オーディションの頃に比べたら遥かに上達しています。練習は嘘をつきませんからね。それにあなたの歌声は話すときとは全然違っていて独特です。このメンバーの中では一番アーティストっぽいですね」
同じ人間だとしても同じ身体は一つとしてないように、声もまた唯一無二のものなのか! 「違い」は「間違い」ではないことを私は忘れていた。蝶々が薔薇になれないように、私もまた私でしか在ることができないのだ。
本番まであと一週間。地道に練習を続けてきたけれど未だ理想には到達していない。伸びしろの豊かな私は可能性の塊でしかないはずなのだが、残り僅かな時間でどこまで磨き上げることができるのか。どこまで自分の殻を破ることができるのか。
一つだけ確かなのは、明日の自分を作るのは今日までの自分だということ。天才はそのままでもハイレベルなことができるけれど、凡人の私は違う。わかってる。だからこその練習だ。その地道な行為を積み重ねた者だけがその上に立脚する自信を得ることができる。自分を支えるものは練習を重ねた事実だけ。そして、その練習を代わってくれる人は誰もいない。怠けてもいい。でも練習を怠ったことを自分だけは知っている。歌に限らず、だ。
さてと。今日も刻々と過ぎていく。これを書き上げたら練習に戻ることにしよう。来週の私はきっと「歌は苦手だ」と思っていないと信じて。
***
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