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ラブレターから学んだ教訓


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記事:ともち(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「大切なことは言葉にして伝える」
 
高校時代に学んだ数少ない僕の教訓だ。
 
 
15歳の4月、高校1年生になった。
僕にとっては世界が広がる大きな一歩のはずだった。
 
というのも、中学まで暮らしていた故郷は瀬戸内海に浮かぶ小さな島。
全校生徒は100人ほどで、親も含めてほとんどが顔見知り。
 
誰がテストでいい点取ったかとか、
誰が走るのが速いとか、
誰がタバコ吸っているとか、
誰と誰が付き合っているとか、
知らないことがなかった。
 
僕が好きだった女の子も、先生を通じて親に伝わる状態だった(今ならあり得ないですよね)。
 
その代わりに、父親からは「S先生はインターネットでエッチなサイトを見ているらしいぞ」なんて極秘情報を教えてもらうこともあった(なんだかうちの父親が問題かもしれませんね)。
 
とにかく、ほとんど隠し事がない世界ですくすくと育った。
 
 
そんな島を離れ、市内に下宿して1,000人規模の高校へ通うことになった。
「みんな知っている」から「誰も知らない」へと環境が180度変化した。
 
未知の世界に期待で胸が膨らむ一方、僕にとってはとてもおっかないものでもあった。そのため、まるで外敵から身を守る小動物のように、目立たないように気配を消して高校生活を送った。
 
なんだか情けないなぁと思いながらも、当時の僕にはそれが精一杯の生き方だった。
 
 
そんな僕にもささやかな楽しみができた。
 
 
隣のクラスのCさんだ。
 
 
僕はCさんを初めて見た瞬間、体中に電気が走った。
比喩ではなく本当に。
昔、昭和のアイドルが言っていた「ビビビ」は正しかった。
 
Cさんは「学年で誰が可愛い?」に選ばれる高嶺の花だった。
背が高く、色白で、透明感のある女性だった。
笑うと周囲5メートルがパッと明るくなった。
 
 
恋のある人生は楽しい。
 
 
僕はCさんのことを毎日考えるようになった。
しかし、話しかけることはできなかった。
 
たまたまCさんが僕の隣の女の子に用事があっても、僕は「1ミリも興味ないですよ」と言わんばかりに教科書を見て過ごした。大抵そんな夜は1人で布団を噛んで大反省会をした。
 
 
恋をすると何もできなくなる人もいるが、僕の場合は逆だった。
 
女性にウブな僕はCさんに直接話しかけることができなかったので、勉強で存在をアピールすることに決めた。
 
当時は、学力テストの順位が教室に掲示されていたため、そこで上位に名を連ねるよう頑張った。
 
恋(もしくはエロ)のエネルギーとは偉大なもので、半年もすれば上位の常連になった。
苦手だろうが嫌いだろうが必死に勉強した。
 
結果が出るにつれて、だんだんと自分に自信がついてきた。
だが、相変わらずCさんに話しかけることはなかった。
 
 
高2になると、周りの友達にポツポツと彼女ができ始めた。
1人成功者が現れると「あいつがイケるなら俺も」と馬鹿な男たちは活気づいた。
 
 
「次はともちだな」
 
約束した覚えはないのに、バッターボックスが急に回ってきた。
 
僕も彼女が死ぬほど欲しかった。
少なくとも僕にとっては、モテることは勉強できることよりもずっと価値があった。
ここまで来たら、誰でもいいというわけにはいかなかった。
 
僕はCさんのことを考えすぎて胃が痛くなり、点滴を打った(親は勉強が大変なのかしらと心配していたが)。
 
 
考えすぎて頭がおかしくなりそうになったところで、腹がくくれた。
 
よし、Cさんに告白しよう。
 
ただ、勢いだけで当たっても砕け散るのは目に見えていた。
おそらく本人を目の前にしたら、顔は真っ赤で、頭は真っ白になる。
 
僕は必死に方法を考えた。
 
 
そうだ、ラブレターを書こう。
 
 
 
しかし、書こうとしても何を書いたらいいのかわからない。
夜に書いて、朝見ては破り捨てた。
とても恥ずかしくて出せたものじゃなかった。
冷静と情熱の間を行き来すること3日、ようやく書き上げた。
 
 
11月のグッと冷え込んだ金曜日の放課後。
僕は駐輪場でCさんを待った。
 
友達から「一緒に帰ろうぜ」と誘われたが「今日は用事があるからごめん」と誤魔化した。
 
なかなかCさんは現れなかった。
1時間が経過し、よし今日は帰ろうと思ったその瞬間、Cさんが現れた。
運悪く、横には女友達も一緒だ。
 
逃げ出しそうな自分を、もう1人の自分がグッと背中を押した。
 
「あ、あの……これ……。う、受け取ってください!」
 
震える手でようやく手紙を渡した。
 
Cさんの顔を見る余裕はない。
逆にCさんの友達からの興味津々の視線を感じた。
僕はそそくさと逃げるように猛スピードで自転車を漕いで帰った。
 
「今なら車にぶつかっても痛くない」
一世一代の勝負を終え、僕は興奮していた。
 
 
 
2日後、手紙に書いたPHSに留守電が入っていた。
 
 
「もしもし。Cです。この前の手紙やけど……ごめんなさい。好きな人がいて……」
 
メッセージは以上です、という音声とともに、PHSはブツリと途切れた。
 
生まれて初めて告白した僕は、あっさりとフラれてしまった。
 
 
 
30歳を超えていれば、昔はそんなこともあったねと笑って話せたかもしれない。
武勇伝の1つとしてネタにできたかもしれない。
 
だが、当時の僕にはショックすぎた。
高校時代の唯一の楽しみを失った。
その現実を受け止めるには幼すぎた。
 
まぁ冷静に考えれば、あの状況で付き合うことなど奇跡なのだが。
 
そんなわけで、高校での僕の恋は終わった。
 
 
 
 
―それから13年後。
僕はCさんと結婚した。
 
僕たちをつなげてくれたのは「あの時の手紙」だった。
 
大人になり、すいも甘いも経験した頃、Cさんはふとあの手紙の存在を思い出した(らしい)。
実家の引き出しに保管してあった手紙をみて、大人になった僕に会ってみたいと思った(らしい)。
 
そして共通の知人を介して、9年ぶりに再会した。
 
 
人生はわからないものだ、とつくづく思う。
行動がすぐに成果につながるとは限らない。
むしろ、計算通りいかないことの方が多い。
 
だけど、大切な思いは人に伝える。
その時は伝わらなくても、後から伝わることもある。
 
そこから人生が大きく変わることもある。
 
僕はラブレターを通して、そのことを学んだ。
 
これが書くことを通じて人生を変えた僕の原体験だ。
 
 
 
 
***
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2024-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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