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今はもういない、私の大嫌いな親友の話


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記事:かたぎり(ライティング・ゼミ集中コース)
※この記事は実話を基にしたフィクションです。
 
 
私には大嫌いな親友がいた。
 
彼とは、今から10年近く前、大学の野球サークルで知り合った。
学部は違うので授業で会うことはほとんどなかったが、同じ野球好きということもあってかすぐに意気投合し、仲を深めるのにそれほど時間はかからなかった。
大学時代は、ドライブにバーベキューに海外旅行と、いわゆる大学生らしいことを一緒にたくさんした。
そして大学を卒業してからも、連絡すら疎かになっていく友人が多い中で、彼との関係だけは長く続いた。
 
と、ここまでは、いかにもよくある親友の話である。
このまま王道の親友コースをまっすぐ進んでいき、生涯の友になりそうだ。
事実、私もそう思っていた。
 
ただ、彼はただの親友ではない。
私は彼が大嫌いなのである。
 
性格的に合わない相手というのは、誰しもいるだろう。
かくいう私もこれまでそういう人間に何度か出会ってきた。
相性の悪い人間とどう付き合っていくか、その考え方は人それぞれだと思う。
あえて積極的に歩み寄ろうとするタイプもいれば、その逆もいるだろう。
私は極端なまでに後者を選ぶ。
嫌いだなと思った人間とは、しっかりと距離を置き、なるべくかかわらないようにして生きてきた。
 
その唯一の例外といっていいのが、この親友である。
 
なぜ彼のことが嫌いなのか、その理由を挙げようと思うと、際限なく溢れ出してくる。
それを他人に伝えようするときっと、細かいなとあしらわれるかもしれない。
たしかに細かい。
細かいが、それが幾千も積み重なってくるとなると、細かいなでは済まないのだ。
 
私自身、他人のことを偉そうに言えるほどにできた人間なのかと問われれば、決してそうではない。
しかし、別に彼を蔑んでいるわけでもなければ、愚痴を言って共感してもらいたいわけでもないので、私の人間性については、この際どうでもいい。
 
とにかく絶望的にだらしない彼と、馬が合わないことが多いのだ。
そんな彼を象徴するエピソードとして、こんなものがある。
 
社会人になって、彼は地方の配属になった。
地方といっても都心からのアクセスはよかったので、すぐに彼の家に遊びに行こうという話になった。
引っ越ししたばかりということもあって、彼の家にはダンボールがまだ散らばっていた。
テレビ台もダンボール箱で代用していた。
引っ越ししたての一人暮らしの部屋にありがちな景色である。
テレビ台だけではなく、彼の家にはハンドソープやせっけんもなかった。
当時はコロナ全盛期で、特に手洗い・うがいがうるさく言われていた時だ。
テレビ台はまだしも、すぐに用意できるハンドソープがないことに少々違和感を覚えたが、ないのならあげようと、その時買って彼の家に置いてきた。
 
それから彼は4年間その部屋に住んでいたのだが、一度もそのハンドソープを使うことがなかったそうだ。
なぜ使わなかったのかと問うと、多量の水で洗っているから、と彼は答えた。
だったら少量の水とハンドソープで手を洗えばいいと思うのだが、もうこの時にはそんな当たり前のことすら彼に言ってもしょうがないと思えるくらい、彼のことを理解していた。
 
では、そんな彼のことをなぜ親友と思えるのか。
これが実は、正直どうにもうまく自分でも説明できないのである。
 
野球やお笑いといった共通の趣味があり、いつも話題に困らないというのはあるが、それを上回る大量のイライラにいつも困らされる。
お金や時間を自由に使うことをためらわないので、たいていの遊びには付き合ってくれるのだが、時間を守らなかったり物をなくしたりと、いろいろな不自由を背負わされる。
 
それでも一緒にいてしまうのは、離婚しない熟年夫婦、いがみあうライバルのような、腐れ縁といったところか。
 
 
そんな私の唯一無二の親友だが、実はもう存在しない。
昨年の秋、この世を旅立った。
彼が亡くなった時、初めて私はあることに気づいた。
 
私は彼のことが、嫌いだったのではない。
むしろその逆だった。
彼の訃報を聞いた後、私を襲った虚無感がそのことを裏付けていた。
 
大切なものは失って初めて気づくとはよく言うが、まさしくそうである。
彼には欠けているものがたくさんあったが、それ以上に魅力があったのだろう。
それを今さらになって強く思う。
 
今はもう私の大嫌いな親友はいないが、大好きだった親友との思い出はずっと残り続ける。
彼が使わなかったハンドソープは今、私の家にある。
私も一度も使うことはできていない。
もちろん、彼とは違う理由だが。
 
 
 
 
***
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2024-04-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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