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自衛隊の爆音がスルメになった日

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記事:yuki(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
あなたは「地元」と聞くと、どんな光景を思い出しますか?
 
「波の音」「お祭り」「ソウルフード」「学校」などだろうか?

私にとって「地元」を思い出すのは、「自衛隊の航空機の爆音」である。
なぜなら、私が育った街は石川県だから、だ。
ここには自衛隊小松基地があり、日中、自衛隊の航空機が「ごぉぉぉぉぉぉぉーっ」という豪快な音とともに定期的に飛ぶ街なのである。
つまり、この土地は、自衛隊がない街に暮らす人からすれば”不思議な音が日常を包む街”なのである。
 
そんな街で育った私の家には、とても教育熱心な母と私の暮らしがあった。
勉強だけでなく、月曜と木曜はそろばん、火曜は習字、水曜は水泳、と、私は毎日何かしらの習い事に通っていた。
 
そんな生活の親子の会話は、「宿題終わった?」「今やろうとしてたのに」、「習い事はちゃんと行った?」「行ったってばっ」とバトルが定番だ。
 
どうしてこんなに厳しいのか、どうしてこんなに束縛するのか。
当時の私にとって母は厳しすぎる存在のように感じて、もはや苦痛でしかなかった。
 
「なぜ、なぜ、なぜ」
優等生のような人生を望む彼女にとって、私は十分でないのか。いや、私は嫌われているんだ、きっと。
そんな思いがぐるぐるしながら、いつしか「どうせ分かってもらえない」という、反抗期アルアルの思いのど真ん中を突っ走っていた。
 
その為か、自衛隊の航空機の音は、私にとっては少なからず「とても心地良い」ものではなかった。
母とバトルしたこと、母に受け入れられないような感覚で体が引き裂けられたような感覚になったこと、冷たくて寂しい感覚とセットだったのだ。
 
そんな思い出とともに、18才の春にその街を去り、東京での生活をスタートさせた。
 
そして30年後の7月。母からの電話を受けた。
「病院に一緒に行ってくれない?」
「かかりつけの病院に行ったら、大きな病院で検査を受けろと言われた」
「検査の結果が出たから、家族に同席してもらってくださいと言われた」と。
 
2週間後、病院に同席した私は意外な宣告を受けることとなる。
優しそうな表情の女医さんが淡々と伝えてくれたのは「あなたのお母様はガン。ステージ4。今年のクリスマスは過ごせると思うけど、来年はどうだろう……」
 
その言葉を整理するとすれぱ、余命一年、ということだ。
いや、ちょっと待って。
元気そうに歩いてるし、食欲もしっかりあるように見えるけど?
 
そんな疑問を抱えながらも、まず癌を摘出する手術が行われた。
がん摘出の手術は大成功だった。なのに、母はなぜか日を追うごとに弱くなっていく。
 
何かを察したのか、ある日、ベッドの上の母が「お墓はこうしてね、家は好きなようにしてね」と淡々と話しだした。
「これって、もしかしたら親子の最後の会話なのかもしれない」と、頭では分かっていた。
けど、認めるのが怖かった。いや、私はそれを認めたくなかった。
 
だから「うん」とただ聞くだけの私に、母は「あなたが聞きたいことは?」と聞いてくる。
私は、心のどこかでずっと引っかかっていた「私は嫌われていましたか?」という質問を言葉にする勇気はなかった。
それを言ってしまったら、母が居なくなることを認めて最後の答え合わせをしてしまうような気がしたからだ。
いや、答えを聞いてしまうことが怖かったというのが正解だ。
 
それからわずか二ヶ月後。彼女は他界した。
その日は偶然にも、石川県に全国から自衛隊ファンが集まる「航空祭」の日だった。
石川の空は自衛隊の飛行機が行き交い、ブルーインパルスが飛んでいた・
 
窓の外でいつものあの音が鳴り響く中、最期を一緒に看取った叔母がぽつりと「あなたの母は、いつもあなたを自慢の娘だって言っとったよ」と言ってくれた。
 
私の疑問が見透かされていたような一言だった。
叔母と交わした、安堵と懺悔が混じったような、なんとも言えない涙とハグの暖かさが全てを溶かしてくれた。
 
あの日以来、航空機の音が「嫌な思い出の副音声」から「母からの愛情の音」になった。
耳をつんざくような音を聞けば聞くほど、あの言葉や笑顔が心にズコーンっと染み込んでくる。
噛めば噛むほど味が分かるスルメのように。
 
これからも、航空機の音を聞く度に、ブルーインパルスを見る度に、スルメのように母の応援をじんわりと感じていくのだろう。
私も飛び続けるんだから、あなたも飛び続けてね、というメッセージと共に。
 
そう、誰にでも地元は存在する。
そこは、地元を離れて暮らす人たちが健やかに生活を営んでゆけるよう、遠くから想い続けている場所だ。
可能性を信じ、突き進み、時には失敗し、また立ち上がるという人生のどのステージでも、あの手この手で応援してくれる”地元”の存在や母の存在は、時間軸を超えて偉大なパワーをくれる存在に違いない。
 
 
 
 
***
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2024-04-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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