メディアグランプリ

河川敷で失くしたボール


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:宮藤紳(ライティング・ゼミ3月コース)
 
 
「バシッ!」
速球がキャッチャーミットに収まる乾いた音
「カキーン!」
球を打ち返す力強い打球音
「ベキッ…」
バットが折れる鈍い音
晴れた空の下、迫力の音が間近で聞こえる。
「アウト」「セーフ」「ストライク」「ボール」
審判団の声も聞き取れます。
これは今年3月完成の阪神タイガース二軍球場で行われた対中日ドラゴンズ二軍との試合風景です。
甲子園と違いタイガース私設応援団のトランペットや太鼓の音が無く、観客が一緒になって歌う応援歌も聞こえないので、グラウンド内の音だけが耳に届きます。
カクテルライトに照らされた遠い所にいる選手を見るだけの甲子園では味わえないものです。
球場全体がお祭りの様な凄まじいエネルギーで満ち溢れる甲子園は他に代えがたい魅力がありますが、この二軍球場には違う魅力を感じます。
応援歌も鳴り物も聞こえない中、たまに球場直ぐ側を走る阪神電車の走行音を耳にします。
プレイのスピードや技術は比較になりませんが、河川敷で見られる草野球、少年野球を思い起こす牧歌的な空気が残っています。
一軍昇格目前で必死に球に喰らいつくここの選手達は、昔どんな野球少年でどんなきっかけで野球を始めたのか、そんな想像を誘います。
 
日本のプロ野球は、サッカー、バスケットボール、バレーボールなど他プロスポーツの台頭、テレビ中継の少なさ、国内人口減少の中で人気と競技人口のパイ争奪戦に直面しています。
人気ナンバーワンプロスポーツの座をいつまでも維持していくのは難しいでしょう。
プロ野球というより野球そのものを残していく事が一番大きな課題かもしれません。
10年20年の期間での観客動員数や競技人口増を目指すだけなら、更なるエンターテインメント性の向上やスター選手の輩出が打ち手になると思います。
しかし更に遠い未来に目を向けた時に、野球がまだ人気スポーツとして存在する為に必要な打ち手は少し違うと思います。
子供たちが野球をやる動機付けの一役を長年担ってきた阪神タイガースには、やるべき事があると思います。
その答えのひとつが、創立90年を迎えた今年新しい二軍球場を作ったことです。
子供達があこがれる選手を育成する施設が大切なのは当然です。
それだけでは無く、今回の二軍球場は『ゼロカーボンボールパーク』というコンセプトがあります。
使用電力についての「省エネルギー化徹底、再生可能エネルギー活用」が主な施策の様です。
他にも使用電気量の見える化や地域自治体との環境取り組み推進など、これまでの球団運営と一線を画しています。
未来でも青空の下で野球が出来る環境を守るという宣言です。
「そんなカッコエエ事ばかり言うてんと、早いこと一軍で活躍する選手を作れ!」と口にするファンも沢山いますし、最近流行りのSDGsに乗っかっているだけと言う批判もあると思います。
しかし最近の阪神タイガース関係者の発言の中に「次の百年に向けて」と言う発言を耳にする事が増えました。
もちろん人気球団ですから関係者の発言を指導している背景もあると思います。
只その発言に加え、持続可能性を具現化したこの球場を見ると親会社である『阪急阪神ホールディングス』の将来に対する本気度がグループ末端まで伝わっている事を感じます。
 
ビジネスの世界では持続可能性という言葉が当たり前になりました。
この言葉が広まったのは、ビジネスを長期的に継続する為に必要な「環境」「社会」「企業統治」に対応している企業に投資しようという考えが主流になってきたからです。
その三つの言葉の英語頭文字をとってESG投資と言います。
そして今やそれが直接収益や成績に結びつかないスポーツ界でもタイガースの様な取り組みが増えています。
100年先にそのスポーツが残っているのかは、誰にも分りません。
でも残したい、残っていて欲しいと本気で思う関係者が変えてはいけないものと、変えていくべきものを選びながら、その将来を信じて行動しています。
そのスポーツが辿ってきた道を振り返り、この先の道を手探りで進んでいる様なものでしょう。
誰かの手から投げられたボールをキャッチして、次の誰かに投げていく。
多くの手でこの永遠のキャッチボールが続けられればそのスポーツは残っていくのかもしれません。
 
昔河川敷キャッチボールで失くしたボール。
あの時は肩を落として家に帰りました。
そのボールを拾った誰かが自分の子供と遊んだかもしれない。
その子供も成人して自分の子供とキャッチボーをする様になり、そのまた子供がと続いて行って、この二軍球場にいる選手になっていたかもしれない。
そんな想像が膨らみました。
 
 
 
 
***

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2025-06-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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