歯医者さんに行って「時間がないから少ない回数でお願いします」と言ったら半ギレされたので帰ってきた。《歯医者セカンドオピニオン論》
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天狼院書店店主の三浦でございます。
僕はアイスクリームを毎日のように食べるのですが、1週間ほど前から、アイスクリームを食べるたびに左上の歯が痛むようになりました。
昨日の夜は、ついに「アイスを食べる喜び」と「歯の痛み」の絶対値がついに逆転し、痛みのほうがまさってしまったので、これは精神衛生上もまずいと思い、近いうちに行かなきゃなと思ったんですが、あるいはご存じかと思いますが、何せ、僕には時間がない。本気で時間がない。
それなので、今、歯医者に行く時間が取れないな、なぞと思っていたのですが、ついに今日の昼休み、なんと立ち食いそば屋さんの冷やし狸そばで激痛。アイスでなく、たかが、冷やし狸の冷たさくらいで参ってしまうとは!!
もはや、これまで!歯医者だ。
アポを大急ぎで済ませて、近くの歯医者さんに駆け込みます。
夫婦でやっている歯医者さんらしく、僕の担当になったのは女医さんで、結構、プライドの高そうな、人を圧するような口調で、
「今日はどうなさいましたか」
という。それが、僕には私のテリトリーにようこそ的に聞こえる。
「あ、歯が痛くて、染みて。アイスだけじゃなくて、冷やし狸でさえも染みるようになって」
「じゃあ、診てみます」
と、様々調べてくれるたのですが、どうやら、悪さをしている奴を特定したらしい。
「銀の被せ物をしている歯の中が大きく虫歯になっているんだと思います。じんじんと染みているようだとすれば、神経を取らなければなりませんね」
え? 何ですと? 神経を抜く?
抜くって、まさか、歯をグリグリえぐって、むき出しにされた、波平さんのてっぺんの毛を赤くした感じの、ひょろんとしたあいつを、ペンチで引っこ抜くって、まさか、そんな話じゃないですよね?
「それ以外に手はないですか?」
ないですね、と女医さん、にべもなく言う。
僕の場合、問題は恐怖よりも、時間だ。時間がかかる選択はどうしてもするわけには行かない。
そこで、真摯に相談してみる。
「あの、実は僕、まるで時間が取れない状況でして、あまり時間を取れないんですが」
そういうと、女医さんの目にすっと影が差します。
「最低でもこの一本を治すのに6回は通ってもらうことになります」
「え? 6回ですか? いや、そんな時間はないんです。何とか、早くやってもらうことはできませんか?」
「無理ですね。最低でも6回はかかります」
もう取り付く島もないって感じです。
ここは私のテリトリーであって、歯が痛いあなたは私の指示に従っていればいいのよ、何楯突いてんの!?って感じです。
しかし、僕も引くわけには行きません。
「6回って今日を入れて6回ですか?」
「いえ、次回から6回です」
「それで、今日は進めてもらえないんですか?」
「今日は、レントゲンだけ撮ってお帰りください。痛み止めの薬も出しておきますので」
「え? どうして今日やってもらえないんですか? また時間を取るのは大変なんで進めてもらえませんか?」
そういうと、ちょっとぷっつん気味に女医さんは言います。
「それはあなたの事情でしょう! 今日はレントゲンを取って終わりなんです」
えー? うそー? 歯医者さんってそんなに偉いのー? 患者である僕の事情を言ってはいけないのー?
これは話にならないと思いました。
「あの、今日は帰ります」
僕は、クレーマーになるくらいみっとないことはないという信条を持っているので、終始穏やかに言います。
「ええ、レントゲンを撮って帰ってください」
いえ、と僕は首を横に振ります。
「レントゲンを撮らずに帰ります。薬も大丈夫です。別の歯医者さんに頼んでみようと思います」
きっと、そんな事言われることはないのでしょう。
たいていの人は、歯医者さんやお医者さんに提案することはないと思うので。
その女医さんは、こいつ、何言ってんだ?みたいな顔になってきょとんとしてしまいます。
「すみません、お手数おかけしました」
僕はそう言うと、
「他に行っても同じことを言われますよ?」
「いや、頼んでみます」
「じゃあ、今日は初診料だけいただきます」
そのつもりだったので、初診料だけ払って帰りました。
きっと、そのまま治療してもらうよりも、ここは初診料を犠牲にしても仕切りなおしたほうがいいと思ったのです。
僕は歯医者から道路に出て、頬をさすりながら、僕はしばらく途方にくれました。
試しに「池袋 歯医者 評判」とGoogleで検索してみると、バッっと歯医者名が羅列されます。
歯医者ランキングサイトも多数出てきます。
広告まで混じっている。
見渡せば、どこもかしこも歯医者、歯医者、歯医者…。
これではらちがあかない。
「あ、そうだ!」
と思いつきます。
昔からここに住んでいる地元の人に聞けばいいんだ!
ということで、天狼院の下のお蕎麦屋さんに行きます。ここは天狼院が入っているビルのオーナーでもあって、先代が消防団長とかもやっていたので、この地域を知っています。
それで、
「あの、実は歯が痛くて、歯医者さんに行きたいんですが、いいとこ知ってますか?」
奥さんに聞いてみると、うちは、一家全員、◯◯さんのところに行っているよと有力な証言。
念の為に、いつも弁当を買っている肉屋さんにも聞きます。
すると、
「あ、あるよ! 五軒あるよ! ひとつは」
と、丁寧に説明してくれます。
しかし、五軒を吟味している暇はもちろんありません。
それで、質問を変えてみました。
「じゃあ、肉屋さんが行っている歯医者さんはどこですか?」
「あ、それならここだよー!」
と、教えてくれます。
さて、僕の元には6軒の歯医者さんの情報があります。
Googleだと夥しい数が出てきたので、それでも絞られた方です。
地元の人が使っている歯医者さんに行こうと決めました。
ということは、そば屋さんが紹介してくれた歯医者さんか、肉屋さんが紹介してくれた歯医者さんか。
「そば屋さんか、肉屋さんか、それが問題だ」
と、僕はハムレットばりに悩んだのですが、結局は近いということで、肉屋さんが紹介してくれた歯医者さんに行くことにしました。
すると、今度は男性の先生で、何だか、雰囲気がいい。
「はじめまして院長の◯◯と申します。どうぞよろしくお願いします」
と、生真面目にお辞儀をされます。声も、何だか、真剣そのもの。
僕も、
「三浦と申します。どうぞよろしくお願いします」
と、お辞儀をします。
何だか、剣道の試合でも始まりそうな雰囲気です。
同じように歯が痛くなったことを説明すると、ちょっと診て、痛い歯を特定してくれて、先生はすぐにこう言います。
「レントゲンを撮りますね。おそらく、被せ物をしている下の歯が大きく虫を食っているのだと思います」
ここまでは先程の女医さんと一緒でした。けれども、ここからが違いました。
レントゲンを撮りに行くと、先生はこう言います。
「レントゲンができるまでのおよそ3分。その時間で他の歯も全部調べますね」
おお! 出来る人だ! 患者の時間を無駄にしないというのは重要です!
「おお、綺麗ですね。下の歯並びは綺麗です、歯石もほとんどない」
なぞと言いながら、歯を診てくれます、何番なになにとか☓とか。
小学校から健康診断でやられていたあれです。
「右上の歯もこれは痛くなりますね。これも痛くなる前に処置した方がいいですね」
「そうなんです、右上も染みるんです」
「では、今痛い、左上の歯を治してから、こちらもやることもできます。もちろん、これはご提案です」
おお! ご提案! 歯医者さんがご提案! さっきとはまるで違う。
「なら、お願いします」
そうこうしているうちに、レントゲンができます。
これを一緒に見ながら先生は説明してくれます。
「やはり、この被せ物をしているところの下が、虫歯になっています。これは神経と一緒に取らなければ痛みが残ります」
あ、やっぱり、神経を抜くんだ! あのぺろぺろっていうももいろの神経をぺんちみたいなので引っこ抜くんだ!
やっぱり、最低6回コースなんだ!
「神経を抜くって、やっぱり手間がかかりますよね」
「いいえ、今日、このまま麻酔をかけて虫歯と一緒に神経を削ってみて、薬を入れて詰め物で塞ぎます。そして、来週また来てもらって痛みがないようでしたら、そんなにかかりません。平行して右上の歯の治療もやると効率的です」
おお! 6回かからない? あれ? さっきの女医さんが言ったことって?
こんなに違うのかー! 歯医者さんによって、こんなに違うのかー!
もちろん、まだ僕はまだ治っていないので、最終的な結果はご報告できませんが、少なくとも、同じ歯医者さんでも対応がこんなにも違うというのがわかりました。
ちなみに、どちらも混み具合は一緒くらいです。どちらも、待合室には予約の人が待っていました。
つまり、空いていたからやってくれたというのともちょっと違うようです。
結局、その日のうちに麻酔をしてもらって、虫歯を粉砕してもらい、薬を入れてもらい、念の為に痛み止めももらって歯医者さんを後にしました。
帰り、肉屋さんに言います。
「バッチリでした! ありがとうございました!」
「ね! いい先生だったでしょ!」
「はい!」
やはり、歯医者さんはGoogleではなく、地元の人に聞くのが一番だと思いました。
そして、患者の立場を理解しない歯医者さんに運悪く出会ってしまったなら、
「今日は帰ります。他の歯医者さんを当たってみます」
と言うのも必要なのだと思います。
それによって、お金とそれ以上に重要な時間を節約できる場合もあるのだと思います。
とりあえず、痛みが引いたみたいで、よかった!
ミニストップ行って、ソフトクリーム食べてしみないか試してみます!
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