【女優がいる書店】演劇で心が強くなるって本当ですか?《女優デイズ》
観客の視線が一心に注がれる中、本山由乃は立ち尽くした。
足が竦んで一歩も動くことが出来ずに、ただ立っている。
指先が小刻みに震える。まばたきの仕方すら忘れてしまった。
次のセリフが出てこない。いや、今は何の芝居をしていたのか、それすらも解らない。ただ、棒立ちを晒し続ける。
背筋に冷汗が一筋。浮かぶ汗とは反対に、唇は一層乾いて痛んだ。
言葉を何も発することが出来ずにいると、共演者のため息とともに暗黒の幕
起きてまず確認した日にちだった。まだ本番まで一週間ある。
悪夢だった。いやにリアリティのある、正夢の予感すらさせるほどの夢。
本番前によく見る夢だ。芝居を生業にしてから、頻繁に見る。
本番への不安感なのか、それとも、失敗回避の脳の反芻現象なのか。
起きてからの後味の悪さは何とも言い難かった。
気だるさを脱するために大きく深呼吸をする。
そういえば何時かに先輩に言われた言葉を思い出した。
『本番前に緊張しておけ』
それにしても一週間前から緊張していたんじゃ本番期間の事を思うと気が滅入る。
本番前に緊張しておけば、本番中は緩和される。というのが先輩の持論だった。それでも、と思う。
緊張というのは目に見えない形で現れたりするもので、本番には魔物が住んでいるというし、舞台は生もの、何が起こるかわからない。
悪夢が現実たり得ることもある。
背筋が冷えた。
けれど本番期間の間、新鮮に、心臓を轟かせ、時に激しく、時に穏やかに、初めて起こる現象と対峙するのが仕事なのだ。
戦いだ、と独り言ちる。
それは自分自身との。
本番の迫る度に思い知らされる。芝居というのは戦いなのだ、きっと。
台本と格闘し、役柄と寄り添って、自分と戦う。
それが仕事なのだ。
水を一気に飲み干して、左胸にこぶしを当てた。
「心を強く。」
それが合言葉だった。
そして今日も、稽古場へ向かうのだ。
足取りは軽く、しっかり前を向いて。
拍手喝采を求めて、できる限りを尽くすのだ。
劇団天狼院マネージャーの本山です。
今週末の劇団天狼院ワークショップは「言葉を届ける」という事をピックアップしてシアターゲームをすすめていきます。
シアターゲームにチャレンジする際に一番大切なのは「心を強く!」です!それはどんな大舞台に立つ時にも大切なこと。
それを実感し、ゲームで体感して、演劇の基礎となる要素を学んでいきましょう!
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