読書が与えてくれること
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記事:宮嶋周一郎(ライティング・ゼミ木曜コース)
電車通勤をしていると、周りの乗客を観察してしまうことがある。
電車内で楽しく談笑する人、化粧直しをしている人、険しい顔をしている人、朗らかな顔をしている人、読書をしている人など、様々だ。
私もよく通勤時間に読書をする。大体、電車に乗っている時間は20分ほどだ。20分あれば、それなりにページもめくれる。携帯をいじるときもあるが、せっかくなので読書に当てている。
私は小さいときから、本が好きだったわけではない。小学生のときは国語が得意だったし、本を読むことも苦ではなかったが、積極的に読むわけでもなかった。20代になってから、本格的に読むようになっただろうか。それまでは読書が楽しいというよりも、知識を増やしたいために読んでいるような状態であった。
いつ頃からか、答えが出ないときには、本に答えを求めるようになった。
人に相談することもあるが、相談しているときは、その相手の主観や考えに影響されることが多かった。そのことによって助かったこともあるが、失敗したこともあった。読書も影響を受けるが、読書は一人で自分の考えと向き合うことができるのが好きだ。
私にとって本を読むということは、椅子に座ることでもある。
人は立ったままでは疲れてしまい、座ることで休むことができる。それと同じく、本を読むことで、心の置き所を見つけると言えばいいだろうか。
悩んでいるときは、心の置き所をなくしてしまう。知らない場所で、わけもなく、不安で立ち尽くしているようなものだ。
答えがわからないことや、正体がわからないことには、人は恐怖を感じる。
私にとっての読書は、心の椅子を探しているようなものかもしれない。
ふわふわの上質な椅子、平坦な椅子、形がオシャレな椅子、など色々あるが、椅子であることに変わりはない。
私がそう思ったのは、どうしていいかわからないときに、本から必死で答えをさがしたことがあるからかもしれない。その時読んだ本が、三浦綾子の「氷点」だ。
ある時、どうしても理不尽な出来事があり、許せない感情に襲われたことがあった。まさに、心の置き所を探していた。「氷点」のテーマとして、許せない相手に対しての復讐がある。許せない相手をどう許したらいいか、作品とともに学んでいった。結論として、復讐のようなことはしないほうがいいと思った。道徳的にというよりも、人を許さない感情は、自分自身も苦しめ、その感情に支配される。決して、本人も楽ではない。「氷点」を読んで、すぐに落ち着いたわけでもないが、読書という疑似体験を通して、私は心の置き所をなんとか見つけられた経験がある。
楽しい感情もそうだ。現実ではありえないSF小説や、とても暖かな物語など、心を楽しくしたいときは、楽しそうな椅子(本)を見つけて、座ればいい。人が一生を通して、経験できることは、時間が有限のように限られている。
しかし、本ならば数時間もあれば、経験や考え方を簡単にインプットできる。
そう考えるようになってからは、一段と本を読むのが楽しくなった。
考えてみれば、今までの人生は本とともに歩んできた気がする。人生で悩んだときは、哲学書を読み、恋愛で悩めば恋愛小説を読んでみたり、仕事で悩めばビジネス書を読んでみたり、その時その時にテーマが出ては、本を読んできた。
そう言ってしまうと堅苦しさを感じてしまうかもしれないが、いつも真面目に本を読んでいるわけでもなく、漫画も大好きだ。漫画も立派な読書だ。
子供の頃、愛読していた少年ジャンプは、今でも楽しく読んでいる。
電車の中でも、ジャンプを読んでいるサラリーマンもよく見かける。日頃、頑張って働いている社会人にとって、楽しみの一つだろう。
現代社会は恵まれていることもあるが、情報過多で疲れてしまうことも多い。情報が多いぶん、なにが正しいかの判断も難しくなってきているのを感じる。特に人それぞれの価値観も多様化して、自分にあった価値観を見つけるのも難しい。それこそ、好みの椅子は人それぞれだ。
迷ったときは、この椅子に座ろう。そういう本をいくつも見つけられたら、安心するのではないだろうか。
ちなみに、本探しは出会いと一緒で縁もあったりすると思う。あることを考えていたら、そのことに関連する本が目にとまりやすい。だから、私は本を探すときは本屋でぶらぶらとすることにしている。不思議に、そのとき欲しいと思っていた内容の本と出会うことが多いのだ。
そういうときは、迷わず買うようにしている。もちろん、買って読んでみて、しっくりこないものだったりすることもある。
それもまたいい経験である。
さあ、家具屋に行くように、本屋に行こう。
いい本に出会えたら、いい椅子に座って本を読もう。
忙しない環境から抜け出して、ゆっくりと限られた時間を楽しもう。
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