焼売は餃子に恋をしている話
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記事：派夢世（ライティング・ゼミ平日コース）
昼休みの食堂は、いつもサラリーマンでごった返していました。
午前の仕事を終えた私は、いつも通り同僚と、いつもの食堂に来ていました。
いつもなら迷わず麺類にいく所、ガラスケースを見ると、ふと、定食に目が行きます。
千切りキャベツの盛られた皿に、焼き餃子と海老焼売が乗った、中華定食。
そういえば焼売が食べたかった気もするので、今日は定食を取ることにします。
思うに。
焼売は絶対、餃子よりも色っぽいと思うのです。
中の具材は肉が中心でジューシー。ホタテや玉ねぎの香りを纏わせて、薄い皮をフリルのように巻きつけて。
蒸かしたての、あのかぐわしさ。艶々とした照りに、柔らかな皮。ほんのり透けたもち肌に、瑞々しい具が透けて見える。
熱々に蒸されて、優雅に湯気を纏い、お皿という舞台に上がるのを静かに待つ。
なんだかとても、可愛らしい。
対するに。
餃子は力強くエネルギーに満ちた感じ。
皮は少し厚め。ギュギュッと具を包み込んで、ぷっくりとボリューム満点のお姿。
具材は豊富で、野菜も肉も程よくブレンド。風味づけはにニンニクとニラ。
油を引いたフライパンにぎっしり並んで、さらに熱湯を流し込み、ぎゅうぎゅうに詰まって油と蒸気に熱く焼かれる。
押し合いへし合い、なんだか仲良し。ばちばち音を立てて楽しそう。
焼き上がりはパンチの効いた匂いに魅惑的な焼き色。パリッとした皮には、ぽってりと身が詰まっていて、一口かじれば肉汁が溢れる。
だけど、皮の形で見ると、焼売は四角いけど、以外に餃子は丸いんです。
素顔は素朴な丸い顔。何だか、年頃の高校生男子みたい。
緑色のグリーンピースや赤い海老は、可愛らしい頭飾り。時には細く切った皮をブーケのようにも纏う。
皿に盛られた餃子と焼売。全く方向性のちがう二つの点心。
無骨な餃子と、お洒落な焼売。
なんとなく、これが若い男女なら、恋をしているのは焼売だなと、ちょっと妄想し始めてしまいます。
きっと焼売は、餃子に振り向いて欲しい。
ばちばちと鉄板の中で騒がしい餃子たち。綺麗な焼き色がワイルドな彼ら。割り込む隙もないほど、ぴったりくっついて仲良し。
きっと焼売は、餃子が羨ましい。
つんと澄ましてみんなおめかし。私が一番かわいいのよと、精一杯背伸びする。
蒸し器の中で蒸されながら、騒がしい鉄板の中の餃子たちに思いを馳せる。
同じまな板の上で、餃子と焼売は、同じように小麦の皮を纏って誕生した。
焼売は、自分と違う姿の餃子に恋をする。
自分とは違う厚い皮。様々な味の具材を内に秘めて、自分より一回りもふた回りも大きな体。
何だか頼り甲斐がありそうで、ちょっと近づいて見たくて、でも恥ずかしいから振り向いて欲しくて。
私に注目してもらうには、餃子にはない良い香り、餃子とは違う繊細な皮、餃子よりもはるかに小ぶりな体。
精一杯、精一杯、自分に磨きをかけて、どうか、どうか、こっちを見て欲しいと願う。
だけど彼らは鉄板に行ってしまう。私は蒸し器に連れて行かれてしまう。
「ちょっと、どうしたのよ、食い入るように焼売を見て」
はっと我に返ります。
ここはいつもの食堂で、私は人間の女で、目の前の皿には、焼売と餃子が乗っています。
「あ、うん、何でもない」
仕事の昼休みにはここにきて、私はいつもは麺類を頼んでいます。
今日に限って定食なのは、ちょっと焼売が食べたかったから。
ちょっと、焼売な気分だったから。
食堂の、窓の方に目を向けると、いつも見る、男性社員６人組がいます。
ちょっとたくましい体つきの彼らは、スポーツをする仲間なのでしょうか。
何か話しながら、時々何かジェスチャーしながら、楽しそうに笑いながら。
なんだかいつも楽しそうで、毎日食堂で、ちらちらと見てしまいます。
彼らと仲良くなりたい。
彼らに声をかける勇気のない私は、洋服や靴やネイルに頑張っていますが、気が付いてもらえるわけでもなく。
そして今日も、目の前のご飯を食べ終わったら、自分のフロアに帰るのです。
食堂の、食器を下げる場所は、食事の種類によって違います。
いつもは私は麺類を食べるので、麺を下げるコーナーに行くのですが、今日は定食だったので、定食を下げるコーナーに行きました。
コーナーの列に並ぶと、偶然、先ほどの彼らが私の後ろに並びました。
ふと目があって、なぜか微笑みかけられました。
ぽかんとしていると、話しかけられます。
「あの、どこかでお会いしましたっけ？」
「は？」
「あ、いや、なんかよく見られてる気がして」
あれ、気がつかれた？
動揺して返事ができません。
「あれ、変なこと行ってすいません！」
「あ、いえ、お気になさらず……」
ちょうど順番がきて、そそくさとお膳を片付け、その場を後にします。
エレベーターで合流した同僚が私の顔を見て、不思議な表情をします。
「どうしたの、顔赤いけど」
「いや、なんで今日の定食は、焼売と餃子が一緒だったんだろうと思って」
「何のこと？」
「いや、忘れて」
ほんと、だけど、焼売と餃子のおかげかな。
そう思いながら、午後の仕事に向けて、自分の席に戻って行きます。
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