仕事からも自分からも逃げていた、去年の夏《スタッフ石坂の夏》
大学も前期の授業が終わり、テスト期間に入っております。もうすぐ夏休み。ちょうど1年前の夏休み、ニューヨークに行ってきました。インターンシップとして1ヶ月。
「ニューヨークでインターンシップ」なんていうとカッコイイですが、正直に言うとあまりいい思い出ではありません。仕事からも自分からも逃げた1ヶ月でした。
僕がお世話になったのは、ニューヨークにある日系の新聞社でした。ニューヨークの新聞社といっても、そんなに大きくありません。ビルの一室を借りた、従業員10名程度の小さな新聞社でした。その新聞社は週に1回、無料の新聞を発行しています。週刊・無料の新聞です。購読料を取れませんから、広告欄を売ることが重要。僕を含めたインターン生7名の仕事は、この広告欄を売ることでした。主にレストランに飛び込み営業です。
僕と同時期に参加したインターン生は全部で4人。他の3人は少し前からいる言わば先輩です。
飛び込み営業なんてしたことありません。全く何をしていいか分からない。最初の3日間は先輩と一緒に行動し、いろいろと教えてもらいましたが、それ以降は一人で行くことになります。
先輩の一人に、「電話でアポを取ってから行った方が、オーナーさんに会えるよ」というアドバイスをもらったので、早速中華料理屋に電話しました。この電話が、インターン最後まで続く、トラウマになります。
ニューヨークは国際都市。世界中から人が集まります。ですから多くの人にとって、英語は外国語。母国語ではありません。上手な人もいれば、下手な人もいます。
また、中国人の話す英語と、メキシコ人の話す英語はまったく別物に感じます。それぞれ独特のイントネーションや発音。これまで僕は、教材の英語もしくは母国語としての英語しか聞いていませんでした。ですから外国語として話された英語を聞くことになれていなかったのです。しかも電話の相手の中国人は聞き取りづらい。さらに自分の思っていることが口から出てきません。広告欄を売りたいのに、上手く説明出来ません。聞けないし話せない。しかも電話。相手がイライラしていることがはっきりと伝わります。それに焦って、余計にしどろもどろ。とうとう相手はしびれを切らし、”Oh my GOD!”と吐き捨て、強めに電話を切りました。
もうショックでした。英語が聞けない、話せないということもそうでしたが、なによりこんな扱いをされたことに。もう少し優しく電話を切ってくれてもいいのに。
たった一回、この電話が次のダイヤルをためらわせます。
「また聞き取れなかったらどうしよう。」
「口ごもったらどうしよう。」
ただオーナーにアポを取るだけなのに、それ以前に会話にならない。もう電話が恐怖に鳴ってしまいました。ダイヤルするのが怖くて怖くて。結局それ以降、インターンが終わる直前まで、電話することをやめました。電話から逃げました。
電話でオーナーのアポを取るという選択肢がないため、そのかわりに飛び込み営業に力を入れようと決めました。マンハッタンを、それこそ隅から隅まで歩いて、また歩いて。ニューヨークに来た当初は、右も左も、東西南北さへ分からなかったのですが、日本に帰る頃には地理感覚は完璧になりました。マンハッタンは道路が格子状になっているので、一度感覚を掴むととても簡単な街です。
飛び込み営業はもちろん一人。レストランに次から次へと入っては
「広告はいらない」「高すぎる」なんて言われます。”Fuckin expensive!”なんて言われるんですよ。本場の”Fuckin”には、ちょっとびびりました。
そもそもオーナーが不在という所も多かったです。今考えれば分かりますが、当時の僕には仕事の手応えが全くありませんでした。手応えがないと頑張れなくなります。ちょっとだけ公園で休憩するも気が重く、次のレストランへ行くのに腰が上がりません。長いこと公園で休むことが日に日に増えていきました。
「ここで頑張ってもどうせ、、、」
という気持ちを消せませんでした。その一方で
「ここで頑張れば、契約取れるかもしれない。」
という僕の心の中の天使がささやくのです。でも、悪魔は
「何軒行ったって同じこと。どうせだめだよ。だったらサボっていれば?」
まるで天使と悪魔の戦いです。
結局僕は公園でで休んでいた時間が長かったと思います。
「暑いしたくさん歩いたし、休憩した方がいいよね。」
そんな言い訳に支配されながら、犬と歩くおじさんをぼーっと見ていました。
広告欄も決して安くなく、しかも英語も十分には使えない。そんな状況で契約を取ることは、不可能に思えました。
しかし、インターンの最後の週、先輩のインターン生が契約を取ったのです。
彼女にとっても契約を取ることは簡単ではなかったようで、その分とても喜んでいました。本当に嬉しそうでした。
ここで、「よし、僕も頑張ろう!」
と思えませんでした。またしても逃げたのです。
「まあ、彼女は僕たちよりも一ヶ月ほど長くいるから、その分チャンスがあったんだな。」という言い訳です。しかし、僕は知っていました。彼女が誰よりも電話をしてアポを取っていたことを。誰よりも頑張っていたことを。
そんな事実から目をそらし、言い訳ばかりしていました。
毎日毎日レストランをまわり、でも契約は取れません。一刻も早く帰国したい。一ヶ月間ずっとそんな気持ちでした。こんなに頑張っているのに、契約が取れない。こんなに頑張っているのに、契約が取れない。当時はそう思っていましたが、今ふり返るともっと出来たはずです。公園での休憩時間も長すぎましたし。満足いくくらい頑張ったのは、最後の数日だったと思います。
最後の週。僕の面倒を見てくれた上司が、電話作戦にしようと提案しました。オーナーとアポを取ってから訪問する方が、絶対に契約を取れる確率が高い。そんな考えから電話帳を渡され、
「石坂君はここからここまで、一軒一軒すべて電話してね。」
といって、全部で30軒くらいのリストを渡されました。
あの日以来避けていた電話。もう怖くて怖くて、なんで電話作戦なんていうんだろう、その上司を恨みたくなりました。電話したくない。なかなか勇気が出ませんでした。
しかし、電話はしなければなりません。覚悟を決めてダイヤルします。
一軒目の電話は、意外にもうまくコミュニケーションを取ることが出来ました。一軒、また一軒と電話するうちにこれまでの恐怖心は消えて、むしろ楽しくさえ感じるようになりました。不思議なものです。
たくさん電話をすると、いくつかアポをとることができました。
結局契約には至りませんでしたが、ひとつ、電話を克服できたかなと思います。
当時の僕は毎日一生懸命でしたが、今思うともっと出来たと思います。一日一日が貴重な時間だったのに、いろんなことから逃げたことに、後悔しております。その時にしか出来ない経験がたくさんあったはずです。もっといろんなことができたはずです。その一瞬一瞬を大切にすべきでした。
今、天狼院という、たくさんのことを経験できる場所にいます。もっとできるはず。書籍の販売、イベント、来店していただけるお客様。すべてが大切で、自分次第でなんでも学ぶことができるはず。今のこの一瞬を大切にし、また改めて気を引き締めて営業してまいります。
もっと自分が成長できるように。もっと天狼院が成長できるように。
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