飲み会の幹事をどう捉えるか
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:唐土大毅(ライティング・ゼミ日曜コース)
辞令が出るシーズンに人知れず困る人たちがいる。飲み会の幹事だ。
弊社では2月中旬と3月頭に辞令が出る。別れのシーズンであると同時に、出会いのシーズンである。そして送別会の幹事があくせく働くシーズンでもある。
私は今いる部署で、配属と同時に飲み会の幹事を任された。大学時代は飲み会の幹事などしたことない。サークルの代表ではあったが、面倒くさいことはすべて副代表に押し付けていた。飲み会の幹事など、面倒くさいことの代表格だ。そして社会人になり、そのつけが回ってきた。周りの先輩社員たちは新入社員という弱い立場に飲み会の幹事を押し付けてきたのだ。参った。人にしたことは全て自分に返ってくる。どこかで聞いたことある言葉だが、このときほどこの言葉を身に染みて感じたことはない。
社会人の飲み会は役職とかをやたら気にするから、大学時代よりもやりづらいことこの上ない。とにもかくにも配属から一年間はこの“面倒くさい”幹事の役を務めなければいけなくなった。
と、いいつつも幹事になって2018年6月から約8か月、ほとんど何も仕事をしなかった。一緒に幹事を務めていた先輩が飲み会におけるすべてをこなしてくれていたのだ。
2月中旬、部署内で一番偉い人である支店長に辞令が出た。その時、先輩は出張中。誰も頼る人がいない。店のセッティング、出欠確認、二次会の場所決めなど、なにからなにまで自分で成し遂げなければならなかった。
支店長の送別会で初めての本格的な幹事。
支店長は行きつけの中華料理屋さん「布袋」を送別会の場所として希望した。そこのザンギは支店長の大好物。送別会なのに中華料理屋でいいのか? と不安に思ったが、本人の希望を尊重した。予約の電話を入れるとき、三点の確認事項があった。一点目はコースがあるかどうか。大人数の送別会となるとたいていは会計を簡略するためコースにする。コースがあると聞き、二点目の確認をした。支店長の大好物のザンギがそのコース内容に含まれているか。含まれているそうだ。安心した。三点目は、飲み放題にサッポロクラシックが含まれているか。サッポロクラシックは北海道民が好むビールだ。サッポロクラシックがない飲み放題はウォシュレットのないトイレのようなもので、なくても成り立つが、ある方が好まれる。ないとダメな人もいる。それくらいの存在感だ。そのサッポロクラシックは飲み放題に含まれているそう。お店への確認点はすべていい返事をもらえた。これで安心して当日を迎えられる。そう油断したのがダメだったのか。
当日は事件だらけだった。
サッポロクラシック付きと電話で確認したにもかかわらず、お店に着くとサッポロクラシックはつけられないという。交渉したがこれはまったく取り合ってもらえなかった。まあお酒飲んで酔っ払ったらどうでもよくなるだろう、と思いこれは諦めた。
しかし次の事件は必ず対処しなければいけなかった。
コースに含まれるザンギが一人一個なのだ。十個食べると意気込んでいた支店長は当然
「おかわりはまだか」
とせっついてくる。これはまずい。ザンギが、ではなく状況がまずい。お金はすでに徴収済みでしかたなく自腹で追い飯ならぬ追いザンギを注文。事は収まったが、代償が大きい。
ハプニングはこれだけでは終わらない。店の従業員が足りていない。お酒が運ばれてくるのが遅いので私も手伝っていたら、酔っぱらった社員からは店員と勘違いされ、こき使われて精神がすり減った。散々だった。
もう幹事はしたくない。支店長の送別会のエピソードを電話で友人に聞いてもらった。少しだけでいいから励ましてもらおうと思った。すると予想外の返答が。
「幹事が上手な人ってデートのプランニングが上手って聞くよ」
思いもよらない言葉だ。でも妙に説得力がある。なぜならこの言葉をくれた友人は、大学のサークルで私が飲み会の幹事役を押し付けていたあの副代表なのだ。
この友人は幹事をそつなくこなしていた。そして女性からモテる。何回かのデートで女性の心を射止める自信があるという。デートのプランニングが上手だからだろう。
今回送別会は上手くいかないことだらけだったし、たしかに私はデートのプランニングがどこか上手くいかない。
これを聞いた途端、がぜんやる気が出てきた。早く飲み会を開きたいと思っていた。デートのプランニング能力が上がるなら、率先して飲み会の幹事やってやろう。
3月頭、二人の社員が異動になった。
よし、送別会だ。
送別会が決まった時点の気持ちがもう違っていた。辞令が出た瞬間私はすぐ動き始めた。仕事中だったが、仕事そっちのけで動いた。
出欠確認、お店の手配、店員の数は足りているかの確認、お会計は誰からいくらもらうかまで決めた。完璧にこなした。当日もハプニングはなく、二次会の場所への移動もスムーズで、終電がある時間に解散。
準備を抜け目なくやれば、飲み会の幹事はそつなくこなせた。飲み会の幹事を務めることが、女性とのデートに活きると考えると、自然に飲み会の幹事への意欲が高まった。もう飲み会の幹事が怖くなくなった。
次回デートするときは、完璧なプランニングで女性をエスコートできるかもしれない。それを試せるのはいつになるだろうか。いつまでも来ることはないのでは、と考え込んでしまった。
<終わり>
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