メディアグランプリ

茶道は日常を極める道だった!?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:大沼ひかり(ライティング・ゼミ土曜コース)
 
 
「あぁ、今日お茶のお稽古だったわ!」
ふと春休みが始まって曜日感覚がなくなっていた私は、月3回金曜日の午後に行っている茶道の稽古があることをふと思いだして準備をして出かけた。私とお茶との付き合いは長い。中学から高校の部活の延長で大学生になってからも同じ先生のご自宅に通って習っている。
大学生活の忙しい日々の中で、静かな畳の間でお茶をシャカシャカと点てる。私にとってお茶はそんな非日常的な癒しであった。
しかし、大学で経営学を学び、「それは何のためにやるの?」「どんなメリットがあるの?」など実用性があるかどうかという視点で物事を見るようになっていた私は、茶道をやっていて自分にとって役に立つものかと時々疑問に思うようになっていた。
そんな中、先生のご自宅にお稽古に行くと先生が
「来年の3月に1週間、京都の家元(茶道を家伝として継いでいる家系、要は茶道の総本山)で、近くのお寺に寝泊まりしながらお茶三昧の修行ができるわよ~! 行ってきたらどうです?」と笑顔で言ってきた。
 
正直、「絶対行きたい!」というわけではないけれど、だんだん茶道へのプライオリティが低くなってきていた私は、ずっと続けてきた茶道を軽視している自分が嫌で
「よし、自分にとって茶道がなんなのか、見つめ直してきてやろうじゃないの」
「もし、もう私にはいらないってなったらやめよう」そんな気持ちで京都行きを決めた。
 
時は経って、3月。京都のこれから一週間お世話になる宿坊のお寺の門の前に来た。着いてみると、同年代から30歳までのそんなに年齢が離れていなさそうな人たちが30人ほど集まっていて、話してみると「実は茶道そんなにできなくて」みたいな人がいたり、同じ大学生の人がいたりして「なんだみんな普通じゃん」と内心ほっとしていた。
しかし、そう安心していたのも束の間だった。
次の日から家元で本格的にお稽古が始まった。毎日自分がお点前しているのをお稽古してもらえるのではなくて、30人いる仲間がお稽古しているのを見ながら自分の番が回ってくるのを待つのである。
毎日、普段のお稽古のように自分のお点前をマンツーマンで先生が指導してくれるものだと思っていたから、他の人がお稽古をしているのを見ていてちょっと退屈だなぁと思っていた。正座で痛くなってきた足を少し崩しながら横目で同じように見学している仲間をみると自分とは様子が違うのだ。
食い入るようにお稽古中の他の人の所作やお稽古で使っているお道具を見ている。
そしてお稽古が終わるとみんながザワザワして「あのお茶碗は萩焼きよね」とか「今日の掛け軸、途中まではこう読めたんだけど、ここはなにを表しているのかしら」とみんな家元にある本物の道具に目を輝かせていた。
そんな中、私はどうだろう。そんなに一つひとつの道具が気になるとかはなかった。
「あれ、ここ絶対私、来てはいけない人間だったよね。場違い感がすごい……」
こんな調子でみんなと比べて自分のお茶に対する知識のなさ、熱量の低さにすっかり自信を無くしていた。
そんな気持ちに追い打ちをかけるように毎朝5時起き、ごはんは10分で黙々と食べる、稽古では着物で毎日約6時間の正座。こんなTHE 集団行動は超マイペースな私にとって相当なストレスになっていた。かなり精神的にきていた時、私の前に女神が現れた。
私より6つ程年上のCさんが元気のなくなってきた私に声をかけて、話を聞いてくれたのだった。私は少し涙声になりながらCさんに
「みんながお茶の道具とかに対して全部に興味があるみたいだけど、私は知識もみんなよりないし、熱量も低くてお茶の全部に興味を持つことができないんです」と本音を話してみた。Cさんはそれを優しくうなずきながら聞いてくれ、「自分が好きなものからでいいんじゃない。私も全部に興味があるってわけじゃないよ。自信をなくさなくたっていいのよ」
私はその言葉にすごく救われた。こんな人の気持ちを分かってくれる人いるのか。よし、自分が好きなものから頑張ってみよう! そう心に決めることができたのだ。
次の日から、「私は何が好きかな」とじっくり稽古場を見渡してみた。
すると、「あ! 今日は私が好きな楽茶碗だ」とか「今日のお菓子は美味しいな。どこのだろう」こんな風に自分が反応するものに着目してみた。
お稽古が終わった後、お仲間に自分の感じたことを共有してみると、みんな同じ空間に
いても見ているところが様々で面白かった。一緒に修行する仲間から学べることもあったし、昼間、お稽古をしてくれている家元の先生たちが夜にお茶にまつわる大事な知識をレクチャーしてくれてさらに面白く思えた。
稽古をしている時によく家元の先生が言っていたのが「最終的な目的は、お客さんに美味しいお茶を飲んでもらうことだからね。作法はその次」私は自分がお稽古する時に一番美味しいお茶を点てたいなと思っていた。そんなことを考えているうちについに自分がお稽古をする日が来た。メインのお客様になったのはなんとあの私に勇気をくれたCさんだ。
Cさんに感謝の気持ちを伝えたくて、その人が濃いめのお茶が好きだと言っていたから、丁寧にそのお茶を点てた。その人はお稽古が終わった後、私のところに来て笑顔で「美味しかったわよ!」と声をかけてくれた。私は初めて自分の気持ちが伝えられたお点前ができたとじーんとした。
お茶っていいなぁ。こんな素敵な人に出会えた。
長い一週間の修行も終わり、懇親会の時に私たちの先生をしていた方がこう言っていた。
「お茶は本当は日常に一番生かしてほしいものなんですよ。例えば、急須でお茶を入れる時も、先にお茶碗を温めておくとか」
「僕はお茶の好きなところはたくさんありますけど、一番は人と出会えることですかね」
私は先生たちの一言一言に感動した。お茶をやっている人って素敵だな。感謝している人や喜ばせたい人のために美味しいお茶を点てる。ただ、きれいな所作を目指しているわけじゃない。自分が美しいと思う道具や美味しいお茶で相手をもてなしながら一緒に楽しむ。
そういうふうにお茶が相手と自分をつなぐものになっているなと気づいた。
私とCさんのようにお茶は素敵な人との出会いをくれる。お茶ってそこが楽しいのかもしれない。
こんな深い~体験をしてきた私は、京都から帰ってきて、一皮むけたように感じる。
いつか自分も感謝を伝えたい相手のために素敵なお茶会を開けるまでになりたいなと夢見てるのだ。

 
 
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2019-04-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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