「書く」理由
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:海風 凪(ライティング・ゼミ日曜コース)
1月の寒い朝、目覚めると目の前の光景が違って見えた。
心象風景というわけではない。文字通り、目に映る光景が違って見えていたのだ。
まるでぼってりして、厚さの均一でないガラスを通してみているかのような世界が目の前に広がっていた。
それは体の叫びだった。
体が、限界だと告げていた。
違和感を感じ、訪れた近所の眼科では診断がつかず、大学病院で診断された病名が『中心性漿液性脈絡網膜症』。働き盛りの30代から50代の男性に多い病気。原因は過労とストレス。多くは自然治癒する。
当時の私は、いろんな問題を抱えていた。子供の受験、義両親の介護、認知が始まった愛犬の介護、そして仕事。一つ一つを見ればそれほど大きな負荷ではないが、それがすべてわが身一つにのしかかってくると、心身ともに疲れてくる。
仕事は税理士。職員を雇用して会計事務所を営んでいる。1月から3月が一番忙しい。1月は仕事の繁忙期でもあり、毎日の睡眠時間は4時間を切っていた。夫は海外駐在、頼れる親戚も、友人もいなかった。
もともと他人に頼る性格ではない。自分で考え、自分で決めて、自分で行動する。
他人に愚痴をこぼすこともなければ、他人の愚痴を聞くのも好きではない。
そんな生活を何年も続けてきた。
そしてとうとう体が悲鳴を上げた。
あれから3年、目は完治していない。
左目に水がたまり、モノが歪んで小さく見える。
3年の間に変わったことは、義両親と愛犬を見送ったこと。そして当時高校受験に直面していた子供が、今年は大学受験だったこと。
目を悪くしたとき、仕事は2年で辞めようと思った。しかしながら、いろんな事情からまだ辞めずに続けている。
その間に、見たこともないような発疹で大学病院を受診した。明確にはわからないが、たぶんストレスが原因だろうと診断された。そして今年の繁忙期には、のどが詰まるような違和感を覚えた。『咽喉頭異常感症』。やはり原因はストレス。
どうやらストレスの発散が下手らしい。
他人に頼らず、自分で処理しようとする性格ゆえか、日常生活の雑談が苦手だ。
たわいもない会話、それができない。人とのコミュニケーションや、距離の取り方に疲れてしまう。
言いたいことも胸にしまい、やり過ごそうとする。それがストレスの原因か。
記憶にない幼いころから、本を読むことが好きだった。
まだ文字を読めない歳のころから、一人でずっと本を読んでいたらしい。
幼いころの絵本から始まって、私小説、古典文学、哲学書と多読、乱読の学生時代を送った。
主人公に感情移入し、物語の舞台の中に自分が入り込む。本の世界に浸っているのが幸せだった。
トム・ソーヤとともに冒険をし、スカーレット・オハラとともに奔放に生きた。
夕子とともに、遊郭に売られた。
様々な人生を、本とともに生きてきた。
本が好きなのは、いろんなことに縛られた自分ではなくいられるからかもしれない。心のままにいられるから。想うことは自由だから。
学生時代は演劇をしていた。演じることで、自分ではない他者になれた。
自分で自分を縛りながら、自分ではない自分になりたかったのか。
いろんなものを背負って生きてきた。仕事、責任、生活、家族…。
だけど、そろそろ手放してもいいころかもしれない。
人生の折り返しの時期もとうに過ぎ、自分の残された時間を数えると、残された時間の少なさを改めて思い知る。
自分ではない自分。いや、自分の中の本当の自分。
押し込めてきた感情。押し込めてきた想い。そろそろ出口が必要だ。
書くことが得手かといえば、そうではない。
仕事上の記事は書くけれど、自分の想いをうまく吐き出す方法を知らない。
自分の意見を、想いを人に伝える、わかってもらおうと言葉を綴ったことがない。
だけど書く。それが自分自身であるための手段ならば。
自分の人生を、自分で開放する。自分の手で、自分を取り戻す。
そのための手段として「書く」ことを選んだ。
まだまだ思いのたけをうまく綴れない。
言葉が選べない。うまく文章が続かない。
それでもいい。誰かに伝わらなくとも。少なくとも今の時点では。
自分で自分を解放する。
いつか、自分のなりたかった自分になるために。
「ライティング・ゼミ」。書くことを、伝えることを学び、発露できるよう、学んでいけることをうれしく思っている。
私は書く。自分を取り戻すため。自分であるために。
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