10数年ぶりの再会で、彼女が私に気づかせてくれたこと。
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記事:増田弘美(ライティング・ゼミ平日コース)
お寺で行われた桜祭り。
子供連れの家族や年輩のご夫婦など、大勢が賑わう中、彼女は私の前にすっとあらわれた。
満面のやさしい笑顔で私の正面に凛として立っていた。
一瞬の沈黙。
その間、私の頭の中はクルクルと記憶をたどり、知っている女(ひと)に思うけど。
どこで会った女だろう、クルクルと脳の隅々を刺激するように考えた。
でも、やっぱり分からない……。
「○○です。ご無沙汰しています」と彼女から名乗ってくれた。
その名前はもちろん覚えている。10数年ぶりの再会。
私の知っているあの頃の彼女は、洗練された鋭いというか、尖った感じの印象だった。
彼女は、企業デザイナーとしてブランドを任され、数々のヒット商品を手がけていた。
その貢献度の高さから、社長表彰の最優秀賞を受けたり、社内の海外研修制度にてフランスで1年勉強したり、華々しい活躍をしていた。
私も当時は、若さを武器にイケイケで仕事をしていて、漠然としたものだったけど、きらきらした希望が一杯あった。
社長表彰の事務局をしていたこともあって、彼女と話をする機会がたびたびあった。
お決まりの形式で表彰する社長表彰に対して、表彰される側として、彼女は表彰式や祝賀会のスタイルについて意見があって、自分の希望を語ってくれた。
どんなことにも自分の考えを持っていて、堂々と発言する姿が格好よかったし、素敵だなと私は思った。当時は食事をしたり、お茶したり、親しくしていたが、彼女がフランスでもっと勉強をしたいと退職してからは、お互い連絡を取り合うことはなかった。
あれから10数年、キラキラしていた漠然とした私の希望はいつの頃からか消えてなくなり、どんよりした気持ちで日々過ごすことが多くなっていた。
そんなとき、私はいつも活躍しているだろう彼女のことを思い出しては、今の自分を恥ずかしく思ったりしていた。もし、彼女と今ばったり出会ったとしても、恥ずかしくて会えないとか、恥ずかしくない自分にならなきゃとか、漠然とした理想の自分をイメージしては、自分に檄を飛ばすこともあった。
でも、日々の生活に流され、過ごしていた。
彼女との突然の再会は、今の自分が恥ずかしいと思う間もなく、彼女の変化に驚いた。
私の想像とは全く違っていたけれど、彼女はナチュラルなオーラの輝きをまとっているかのようで、私は、その彼女のギャップにまた見とれてしまった。
「増田さんは、お勤め続けてらっしゃるんですか」の質問に、私が口ごもりながらこたえると、彼女は「いいじゃないですか、続けていることがいいんです」と。私は何を恥ずかしがっているのだろうと。そして、その自分の返答にまた恥ずかしくなりつつ、変わらずストレートに発言する彼女が、どうして日本にいるのか、印象が変わったのはなぜかを知りたくて、近況を根掘り葉掘り、質問攻めにしていた。
フランス人と結婚して、娘さんを授かったこと。お年を召されたご両親のもとで暮らすため、家族で日本に帰国したこと。実家の商売を手伝いながら子育てし、今はデザインの仕事はしていないこと。
そして、一度きりの人生を後悔しないためにと、ご主人が夢をかなえるために彼女が後押しして、ご主人を東京へ送り出したことを語ってくれた。
今は、ご主人の夢の実現を応援し、娘さんのために時間を使うことに喜びと使命のようなものを感じている彼女の生きざまを知り、すがすがしい衝撃を受けた。
私が、その桜祭りにいたのは、夫の仕事の手伝いで、去年に続き今年も呼んでいただいたので参加していた。彼女は、去年の桜祭りに夫がいたことを知り、増田さんが支えているんだろうなと思ったこと。
今年は私がいるかもと、探して声をかけてくれたのだと言ってくれた。
そうだ、私の夫も、夢を追い日々奮闘しているし、私もある意味夫を支えるためにお勤めを続けていることになるのかもしれない、誰かに褒められなくても、今の自分に自信を持っていればいいのだと思った。
彼女との突然の再会は、ありのままの自分を受け入れる勇気を与えてくれたように思う。
同時に、一人暮らしの友人が、初期のガンが見つかったときに話してくれた言葉を思い出した。
「人間ドックで引っかかって、再検査して、手術を受けるまでの数日間。一人で家にいるといろんなことを悪い方に考えてしまって、どんどん落ち込んでしまった。誰かとしゃべると、ラクになるし、余計なことを考えないですむ」と。そして、真剣に誰かと同居することを考えるようになったと。
自分が誰かのために尽くすことができること。頼りにしたり、頼られたり、そんな関係を築ける家族がいることの幸せ。他人の目や価値観ではなく、人それぞれ、私は私の目の前にあるやるべきことをやって、それをやり続けて、やりきったときにはじめて新しい景色が見えるのかもしれない。
今年の桜は、すがすがしい景色を私にみせてくれた。
来年の桜は、どんな景色になるのか、今やるべきことをやりきろう。
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