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おお! ディスレクシア。心の友よ!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:榊原豊晴(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「やっと! やっと念願がかなったー!」
高校2年生の夏休み。
ついに富士山、いや、エベレストを登頂したような幸福感が全身を包んでくれているようだった。
演劇部の友人から借りた1冊の文庫本。世界に名だたる喜劇王チャールズ・チャップリンの、若き日々が書かれた390ページの「チャップリン自伝」を読破したのだ。
 
「生まれて初めて1冊の文庫本を読めた……」
 
この間、夏休みだったので学校に行って読んでいたわけではない。出かけたり、他のことをやっていた訳ではない。夏休みに部屋にこもって集中的に「チャップリン自伝」を読んでおり、気がつけば、2週間も経っていた。
 
嬉しさのあまり、友人にこの興奮を伝えまくる。
 
「2週間かけて、ようやく読めたよ」
「おいおい、江戸時代なら江戸の日本橋から京都まで歩いていく距離だぞ。京都まで歩けちゃうよ」
 
「友人なのに、冷たいひと言だな……」
本はすぐに読めなくても、ちょっとは、空気は読めるので、心にその言葉はしまっておいた。生存戦略として、うわべだけの付き合いも大切である。
 
「本当に悩んでいるのになあ……。でも、読書をたやすくできる人からすれば、もしかしたら理解してもらえないことなのかもしれないな」
子犬の頭を撫でるように、自分の心を優しく撫でることしかできない自分がもどかしい。
 
自分自身が、言語能力が低いと言っている理由は具体的にある。
 
「何度も同じ行を読んでしまう」
「活字だけを読んでも人や情景をイメージしにくい」
「読みたくなくなる」
「他のことをやりたくなってしまう」
「歌の曲は憶えられるのに、何度聞いても歌詞は憶えられない」
「カラオケで何回も歌う十八番であっても、画面に出る歌詞がなければ歌えない」
 
なかなか苦労の連続の人生である。
「自分はバカなんじゃなかろうか」
そう思ったことは数え切れないほどだ。
 
文章もまともに読めないなんて、友人などにもほとんど言えずに過ごしてきた。言っても理解はできないだろう。
 
「なんで、そんなこともできないの?」
こんな言葉は何度となくかけられてきた。嫌でたまらないし、劣等感だらけだった。
 
「文章が読めない理由が説明できれば、こんなに苦労はしないよ」
自分の中の自分が、あきらめ顔で首を横に振りながら、ため息混じりにグチを吐き出す。
 
ところが、そんな私にも転機が訪れる。一つのニュースが入ってきた。
数年前に、ハリウッドスターのトム・クルーズがディスレクシアだということを公表した。
 
ディスレクシアとは、日本語では失読症や識字障害などと言われるものだ。
読む速度が遅かったり、不正確だったり、単語や行などを飛ばして読んでしまったりする。長時間の読書もできないというものだ。
 
「あれ? これって、自分にピッタリ当てはまるんじゃないか」
 
とても衝撃的で信じられなかったほどだ。
そこから色々と調べてみた。オーランド・ブルームやキアヌ・リーブスなど、名だたるハリウッドスターだけでなく、映画監督のスティーブン・スピルバーグなどもディスレクシアで、意外に多かったのには驚かされた。
 
「俳優も映画監督も、言葉を表現する仕事。有名人でも、自分と同じ症状の人がいるんだ!」
 
そう知ったときには、少々興奮したことをハッキリと憶えている。
 
自分自身はディスレクシアとはっきり言うよりも、「ディスレクシア気味」だったとあえて表現したい。今は、ちょっとは緩和されていると感じているからだ。
 
実は訓練をすれば、改善の余地はあると知っている。今まで、悩んでいるだけで、手をこまねいていたわけではない。
 
「なんとかしなければ!」
 
この一心で、自分の頭で色々と考え、実践してみたのだ。
まずは、自分の特徴に気づくことが必要なので、過去を振り返ってみた。
 
「そういえば、活字は憶えられないけど、漫画は細かい描写まで憶えられている!」
 
小さい頃は、ドラえもんが大好きで、単行本を買ってもらっていては、何度も、何度も読んでいた。
 
「小説を読むことと、漫画を読むこと。同じ印刷物で、何がどう違うのかな」
「そりゃあ、絵があることじゃない?」
 
ただ単純に、頭の中で浮かべるイメージというのは苦手だが、「イメージとセリフが書かれている漫画」を見ることで、言語分野についてもカバーしていたのではないかと推測している。
自分自身の頭の中でイメージを作り上げていくのは難しいが、目の前に描かれているものであれば、言葉とイメージで理解しやすいことに気づいてきた。
その甲斐があって、言葉を暗記する漢字テストはできなかったが、文章題は次第に成績が上がって行った。
 
「国語の成績はドラえもんで上げました」
このひと言は数年前まで、私のトレンドワードになっていた。
 
今でも時間があるときは、ノートにイメージを書き起こしている。毛づくろいをするサルのように、一つひとつ丁寧に、できる範囲のことを訓練している。
 
別のアプローチとして、数十年前に速読を習ったことがある。
 
「長時間の読書ができないのであれば、短時間で読んでしまえば良いのではないか」
 
とても単純に考えた結果だった。
 
眼球訓練をはじめ、身体を活性化させる訓練を数え切れないほどする。身体の内面を加速して、自分自身の認知機能をアップさせるというものだった。
この速読訓練は、講座の中だけではなく、普段の生活の中でも見る力などの身体感覚をアップするために訓練を行うので、日々忙しい。
この忙しさの副産物として、タバコを吸う暇もなくなり、気づいたら禁煙できたという良いことも起きた。
 
この「ディスレクシア気味」だったことが一つの力になったことは間違いない。
 
ビジネス書はエッセンスを抜き出すだけなので、容易にできるようになった。今もまだ、小説などの物語を読むのは、まだまだ苦手だ。自分の中の世界を広げるために、もっと読みたいと思っている。
ドラえもんが四次元ポケットから、たくさんの道具を出すように、できるスキルはどんどん出して行きたい。
 
ディスレクシアだとしても、できることは山ほどあるのだと信じよう。
 
私の中のディスレクシアという存在は、ドラえもんのキャラクターでは、のび太だ。ジャイアンとしての私は、これからもずっとこう叫びたい。
「おお! 心の友よ!」
 
 
 
 
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2019-08-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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