メディアグランプリ

仕事人間があえて吉本新喜劇を見たほうがいい理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:植咲えみ(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
 
 
「乳首ドリルすな!!」
コテコテの関西弁が埼玉の土地に響く。
そう、私は今、吉本新喜劇を見に来ている。
 
 
それは耳慣れた小気味のよい音楽とともに、幕を開けた。
 
 
はじめに言っておくが、私は特別お笑いが好きなわけではない。
 
 
「今度のお盆休み、吉本新喜劇見に行こうよ」
 
 
吉本新喜劇を見ることになったのは、夫がいつの間にかチケットを勝手に入手していたためだ。
 
 
「吉本新喜劇?」
 
 
私は思わず口に出してしまった。我が家にとってあまりにも唐突な話だったからだ。
「え、あの、みんなでなんか一斉に転ぶやつだよね?」
私は吉本新喜劇に対する数少ない情報を絞り出す。
「そうそう、その新喜劇」
笑顔で夫が答える。
 
 
夫がお盆に吉本新喜劇を見ようと思ったのはなぜだろうか。
広告業の夫は夜も帰りが遅く、もしかしたら相当仕事のストレスがたまっているのかもしれない。
そんなことをふと考えながら大好きな車でドライブに行けるとはしゃぐ3歳の息子をチャイルドシートに載せる。
 
 
吉本新喜劇は今、60周年の全国ツアーをやっているらしい。
 
 
関西に行かない限り永久に見ることはないだろうと思っていた吉本新喜劇が、まさか向こうからやってくるとは夢にも思わなかった。
 
 
東京生まれ東京育ちの私は、お笑いといえば新宿のルミネtheよしもと、お笑いに関してはそんな程度の知識しかなかった。
 
 
私が住む池袋の近くにはお笑いの小劇場があり、近くの公園では芸人の卵たちが熱心に打ち合わせをしている姿をよく見かける。しかしその劇場にもまだ一度も足を運んだことはない。
 
 
お笑いに関してその程度の私は、当然吉本新喜劇に関しても関西の伝統的なお笑いをやっている団体だというごく浅い認識しかなかったものだから、会場でのあまりの熱狂的な人気ぶりに驚愕した。
 
 
2階まで満員の客席、飛ぶように売れるグッズ、団員のコスプレをしている人や追っかけらしい女性までいた。小さい子供からお年寄り、若い女性まで、とにかく老若男女問わずこぞって吉本新喜劇を見に来ていることが分かった。ロビーはまるでかつての国民的アイドルSMAPのコンサート会場のようだったと言えば分かりやすいかもしれない。初めて見る吉本新喜劇の熱量は、私の想像をはるかに超えていた。
 
 
前座から始まった吉本の舞台は、大きな笑いや拍手とともにステージと客席のボルテージが徐々に上がっていくのを感じる。舞台上で起こっているどんなミスや失敗も、まるで全日本のバレー選手のように誰かが鮮やかにレシーブしてはアドリブで笑いに変える。
もはや、どれが事前に予定されていた笑いなのかどうか見分けがつかない。
 
 
これがライブだ。
 
 
私の膝の上で3歳の息子がゲタゲタと声をあげて笑っている。
笑っている息子の顔を見ているだけで幸せな気持ちになり自然と口元がほころぶ。
 
 
私は聞いてみた。
「なんで突然吉本新喜劇を見ようと思ったの?」
 
 
夫は何気なく答える。
「日常が笑いでいっぱいになったらいいなと思ってさ」
 
 
それを聞いて私はちょっと反省した。
なんでもない日常を楽しく過ごせるかどうかは自分次第だ。
「ミスを笑いに変えるくらいの余裕を持てたほうがいい」
夫がそれを意図していたのかどうかは分からないが、私は自分の日常に笑うゆとりを持てていなかったことに気づかされた。
 
 
子育ても仕事も、失敗を笑いに変える余裕がないと続かない、そんなことを夫は吉本新喜劇を通して伝えたかったのだろうか。
 
 
思えば人生の中で肩の力を抜いていたほうがうまくいった経験がある。
それは私が婚活をしていた時の話だ。
 
 
ある時私はどうしようもなく結婚をしたいと思い立ち、とにかくいろんな出会いの場に出向いては、自分に合いそうな人を紹介してもらった。
婚活パーティーのようなところでは、まるで戦に向かう戦国武将のように戦略を練り、どうしたら自分の求めている人とマッチングできるのかを研究した。
 
 
かれこれ1年くらい活動しただろうか。
 
 
それでも結婚したいと思うほどの人の出会いは皆無で、もはやこれまでか、と兵糧が尽きた兵士のように私の結婚願望はみるみるしぼんでいった。
 
 
婚活に疲れ果て、もうやめようと思っていたにもかかわらず以前申し込んでいた最後の婚活イベントがあった。
 
 
「今からだとキャンセル料がかかってしまうし、とりあえず形だけでも行っておかないと……」
そんな半ば義務的な気持ちで参加したパーティーは、服装も清楚なブラウスではなかったし、無理して高めのパンプスをはくこともなく、婚活パーティーにふさわしいとはとても言えないような普段着で参加した。
 
 
そこで出会ったのが今の夫である。
 
 
結婚はもうどうでもいいと鎧を脱ぎ、いつ抜いてやろうかと脇にさしていた刀を置いたからこそ出会えたのである。
 
 
果たして近頃の私はどうだっただろうか。
 
 
仕事や育児のパフォーマンスを自分で100%にしようとして眉間にしわを寄せて自分の中の何かと戦っていた。
 
 
そもそも自分一人で100%やり切る必要はなかったのだ。
失敗したら誰かが笑いに変えてくれる、そんな肩の力の抜き方を吉本新喜劇が教えてくれた。
 
 
人間は力を抜くほうが難しいと良くいう。
仕事人間こそ、自分の重い鎧と脇に刺した刀を自ら置いて、笑いの力で自分を解放してみてはいかがだろうか。

 
 
 
 
 

***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

http://tenro-in.com/zemi/86808

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2019-08-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事