月下美人の咲く頃に
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:黒崎良英(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
「月下美人(げっかびじん)」という嘘のような本当の名前の花があります。
サボテンの仲間なのですが、夏の夜に一輪の花を咲かせ、数時間でしぼんでしまうという、何とも不思議で儚い花です。
店頭で売られているのは稀だと思いますが、そんな貴重な植物を一鉢、父が友人から貰い受けてきました。
月下美人がどういうものか、父の受け売りの知識を聞いて感心する家族一同。
ではその評判の花、いかほどのものか、とコブシほどもある蕾をマジマジと眺める家族一同。
まさにマンガに出てくるようなマヌケな絵面ですが、私含めて、みんな興味津々でした。
結局、開花は一週間後ということだったので、その姿を想像しながら一週間待つことになりました。
一週間後、私が仕事から帰ると、家族は庭に出ていて、例の鉢を囲んでいます。
頃は午後8時。日も長く伸びきり、まだ空もうっすら藍色を残す時間帯でした。
その藍色の空の下、庭の裸電球に照らされ、白い花弁が開きかけの蕾の間から覗いていました。
花はゆっくり、ゆっくりと、時間をかけて蕾を広げていきます。見つめていると、その動きは分かりにくいのですが、ふと目を離すと、明らかに広がりが大きくなっています。
くしゃくしゃな雌しべ雄しべとそれを囲む花びら。黄色く細い花芯と、扇のように広がっていく白い花弁のコントラストが印象的でした。
ハスの花を上から吊るしたような形で、家中が注目する中、花は、一枚一枚、雛が翼を広げるように開いていきました。
その様に私は生命の神秘を見た気分でした。自然の造形物はかくも美しく、妖艶で心踊るものか、と。
まさにそれは一大エンターテインメントでした。
闇夜に浮かび上がるサーカス小屋でした。
夜に開かれる演奏会でした。
その姿はまさに「月下の美人」
ぜひ満開となった姿を見たいと思いつつも、残念ながらそれを待つと深夜になってしまうので、7分咲きの形が見られた時点で諦め、家の中に入りました。
ただ、その日は興奮して、なかなか寝つけませんでした。
翌日、花は完全にしぼんでいました。
あれほどまでに感動した姿は見る影もありません。
私は惜しむように、昨夜のめくるめくスペクタクルを思い出します。
ゆっくりと開く花を、時間を惜しまずに家族とともに見る。
とても贅沢な時間でした。
そう、家族で、一つの花を一緒に見るというとても満たされた時間。今の慌ただしい世の中にあって、これほどまでに贅沢で、それでいて大切な時間はないのではないでしょうか。
そもそも誰かと意図的に花を見ること自体、あまり多くはありませんよね。
せいぜい春のお花見か、秋の紅葉狩り程度だと思います。あるいは公園の花壇を見に行く、などでしょうか。
もう少し、花を見ることを身近にしても良いと思うのです。
例えば花瓶に生けられた生花とか、園芸センターで売っている小さなミニチュア鉢植えだとか、あるいは道路脇の雑草の花の類でも良いのです。
みんなで一つの花を愛でる。そこで共有される時間は、とても満たされた時間になると思うのです。
花束ならば、「ここはまだ咲いていない」「ここはこういう花を咲かせるだろう」とか、鉢植えならば、「もっと水をあげた方がいいかもしれない」などの話が出てくるかもしれません。道端で摘んで来たならば「どこそこで摘んで来たよ」「もうこんな季節だね」などといった会話でしょうか。
とにかく何でも良いのです。一輪の花が家族に会話を提供してくれるはずです。
ただ、月下美人は特徴的な植物で、開花を待つという独特の楽しみがあります。
じっと見ていると、なかなか違いが分かりません。少し、おしゃべりをしながら、思い出したように視線を花に向けて見てください。すると、少しですが、先ほどの姿とは確かに変わっていることが見て取れます。それがとても楽しくてしょうがないのです。
この楽しみはぜひ味わってもらいたいものです。
古来、日本人は習慣的に自然のものを慈しんできました。
何気ないものを大切にできるからこそ、目の前の家族や友人も大切にできますし、何より自分も大切にできるはずです。
花を愛でることは何でもないものや何でもない自分を愛でること、大切に思うことに繋がると思うのです。
ぜひみなさんも、家族や仲間と、花を愛でる時間を作って見てください。
きっと心が穏やかで満たされた時間を過ごせるはずです。
そして機会があれば、ぜひ、月下美人の花を鑑賞してみてください。
その美しさに心奪われること、間違いなしです。
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