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チーム天狼院

20代を襲うメンタル低迷期「クオーターライフ・クライシス」〜死ぬまで、不安なままでいい。《スタッフ平野の備忘録》



*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:平野謙治(チーム天狼院)

2021年も、もう1/4が終わってしまった。
時の流れは早い。毎年、同じようなことを思っている気がする。

思えばもうすぐ、誕生日が来る。
嬉しくはない。

気づけばもう、26歳。刻一刻と近づいている「30代」を前に、募るのは焦りばかり。
日々擦り減っていく、「若さ」。それに見合うだけの人間的価値を、積むことができているのだろうか。毎日、そんなことばかりを考えている。

 
 

大企業の中で埋もれるのが怖かった俺は、新卒でベンチャー企業に入社した。大学の同期たちが揃って大手に行く中での選択だ。最初は優越感があった。みんなとは違う、特別な選択をしたことで、非凡な人生を歩めると思っていた。

だけど入社して、しばらくして気づいた。特別なことなんて、何もない。それは会社のことじゃない。俺自身のことだ。
特別な環境にいれば、非凡な存在になれると信じていた。それがどれだけ、愚かだったことか。新卒で入ったベンチャー企業で、転職した後の今の環境で、多種多様な才能に触れた。発想に触れた。人材に出会った。

そこで、思い知ったこと。自分が非凡な存在になれるなんて、とんでもない思い違いだった。
むしろ特別な環境は、俺の平凡さを浮き彫りにした。三年前に抱いた劣等感は、今も風化することなくこの胸の中に残っている。

 
 

コロナの影響、それと東京から大阪に異動になったことも手伝って、学生時代の友人と会うことはめっきりなくなった。それでも何ヶ月かに一度は、オンライン通話でお互いの近況報告をしたりする。
学生時代の友人と話すのは、今でも文句なしに楽しい。まるで当時に戻ったかのように、会話も軽快に弾む。だけど淀んでしまう瞬間があるのも、確かだった。

テレビ局に入社した、大学の同期が言っていた。「彼女との同棲を始める」と。それに伴い、家具家電を買い換えたらしい。
ソファにテレビ、冷蔵庫。もともと持っていた物を下取りに出して、より大きく新しいものに。
それから洗濯乾燥機に、ロボット掃除機。「時短になるから」と思い切って買ったという。

「多少無理をした」。そう言って笑う彼に対して、「いいじゃん」と表面上はにこやかに言った僕だったけれど。
心の内では、焦りを抱いていた。果たして俺にそれだけの経済力があるか、と……。

わざわざ、預金口座を確認するまでもない。
答えがNOであることは、明白だった。

 

今日に至るまで、様々な選択をしてきた。選択を続けて、続けて、続けてきた先に、今の自分がある。
すべて自分が、自分の責任のもとに選んできた道。そう考えると、後悔はない。

それなのに一瞬でも、「羨ましい」と思ってしまった自分に嫌気がさす。
置いていかれたくない。みんなと同じものを欠かさずに持っていたい。そう願いながら、みんなとは違う、自分だけの特別なものを欲しがっている俺もいる。ビジョンがあまりに曖昧で、反吐が出る。

 
 

そうだ。後悔はない。それ自体は決して、嘘じゃない。
だけど、不安なんだ。選んできたこの道が正解なのか。そんなことは誰にもわからないから。
愛する人と結婚して、子供を授かって、仕事で十分に稼いで、養っていく。思い描いている「普通の幸せ」が、この道の先にあるのかどうか。毎日毎晩、不安で仕方ないんだ。

家具家電を揃えて、家賃を払って、適切な条件の家に住み、暮らしていく。
普通の生活を普通に送ることは、学生時代に想像していたよりも、遥かに困難だ。

だって社会人になって一人暮らしを始めるまで、知らなかった。
「普通」の牛肉が、ご飯に何気なく乗っていた梅干しが、こんなにも高いだなんて。とてもじゃないけど、買えたものではない。
心の底から、思い知る。今まで「当たり前」だと思っていた日々が、どれだけ恵まれていたものだったのか。

 

父さん、僕は知りませんでした。あなたの偉大さを。
専業主婦である母親と、それから僕と弟。一人の稼ぎで、四人家族を養っていたこと。
それがどれだけ、困難なことか。恥ずかしながら今まで僕は、知りませんでした。

恵まれているという、自覚がなかった。自分の家は裕福ではないとずっと思っていたし、友達の家が羨ましく見えることもあった。
だけど振り返ってみれば、何不自由ない生活を送らせてくれていた。母さんが作ってくれるご飯はいつだって美味しかったし、成長に応じて身体に合う服を買ってもらっていた。部活だってやりたいことをやらせてもらえたし、塾にだって通わせてくれた。おかげで、目標にしていた私立大学に行くことができた。
それがどれだけ、幸せなことなのか。これっぽっちも理解できていなかったし、感謝がまるで足りていなかった。

それなのに両親は、今だに僕にいろんなものを与えてくれる。
実家から毎月届く、大きな段ボール。開けるとそこには、たくさんの食材が入っていて。
家族の温かさを感じながらも、同時に焦りを募らせる。だって俺はまだ、何も恩返しができていない。気づけばもう26歳になる。30歳なんて、どう考えてもあっという間だ。それまでに成れるのか。家族を安心させることができる、立派な大人に。孫の顔だって、見せてやりたいのに……。

 
 

狭い狭い一人暮らしの部屋に、不安と焦燥が充満していく。俺はこのまま、押しつぶされてしまうのではないか。そんなことを、考えてしまう夜がある。

ふと思い返すのは、就職活動をしていた頃のこと。不確定要素ばかりで、あの頃も不安で仕方なかったけれども。
いろんな可能性を胸に抱いていたのも、事実だった。

今はどうだ。あの時と同じように、自分に期待することはできているのか?
不確定要素は減った。不気味なくらいに、生活は安定している。
だけど、どうだ。時は着々と、過ぎ去っている。若さは確実に、失われていく。
未来が少しずつ閉じていくような、そんな気がしている。

 
 

真っ暗な部屋の中。時計に目をやると、もうすでに午前2時になっていた。
明日も仕事あるから、早く寝た方がいいけど。でもどうせ眠れないなら、眠くなるまでスマホでもいじっていようか。
ただ目をつぶっているより、ましに思えた。この不安が紛れるなら、なんだっていい。いや、むしろ。どうせなら、この不安について調べてみようか。

ふと、そんなことを思い、Safariの検索欄に打ち込んだ。「20代 未来 不安」と……。
そうして出てきたページを、無作為に読んでいくうちにある単語が目についた。

 
 

それは、「クオーターライフ・クライシス」という言葉。
20代後半から30代、要は人生のおよそ1/4が終わる頃に訪れる、人生への焦りや、幸福感の低迷を指すという。まさに自分のことだ。そんな風に、強く思った。同時に、微かな安心が胸に芽生えたのを感じた。

固有名詞になっている。つまりはそれだけ多くの人が、同じような不安や悩みを経験するということだ。

ネットを泳いでみても、具体的な解決法は見つからなかった。目に留まったのは、「クオーターライフ・クライシス」という言葉だけ。
しかしその発見は、確かに自分を楽にさせた。自分ひとりじゃない。みんなが同じように悩んでいる。
そう思うと、勇気づけられるような心地がした。

 

でも、わかっている。
「クオーターライフ・クライシス」という言葉を知ったからといって、
この悩みは自分だけのものではないと知ったからといって、劇的に何かが変わるわけではない。
気休めのようなもので、時間が経てばまた思い悩む夜が来るだろう。将来が不安で仕方なくなる時が来るだろう。

だけど多分、大丈夫。
ネットサーフィンを終え、眠りにつく頃には、そんな風に思えていた。

だって今日この日まで、俺は生きてきた。
25年間、その内の多くの時間を、不安と共に生きてきた。
だから、大丈夫だ。年齢を重ねるごとに不安の中身も大きさも変わっていくけれど、これからだってやっていけるはずだ。

 
 

一刻でも早く、「大丈夫な状態」になりたいと、ずっと思っていた。どうすれば大丈夫になれるのかがわからなくて、ずっと苦しんでいた。
目に見えるものばかりを、追いかけてきた。何かを手に入れれば、この不安が無くなると信じて。

今日という日まで、25年間生きてきた。自分のことはもう、嫌というほど知っているはずだ。
この社会において俺は、「何者」でもない。言うならば、その他大勢。それは多分、これからも変わることはない。

「何者」でもない俺は、何か大きな成功を収めることはないかもしれない。
家や車だって、持てないかもしれない。
子供が持てないかもしれない。
結婚ができないかもしれない。
お金持ちにはなれないかもしれない。
海外旅行だって、もう二度と行けないかもしれない。
そんな風にずっと、思い悩んでいた。劣等感を抱えていた。

 

だけど、だからと言って不幸だなんて、誰が決めたんだ?
お金持ちになれなかったとして、イコール不幸なのか?
結婚は、幸せの絶対条件なのか?

違うだろ。本当は、そうじゃない。
そう思い込んで、自分の首を絞めていたのは、他でもない俺自身だ。
他の誰でもなく、俺が、俺を苦しめていたんだ。

本当はもう既に、大丈夫だったんだ。不安でしょうがないとしても、大丈夫なんだ。
それに気付けるかどうか。大事なことは、ただそれだけだったんだ。

 
 

不安はこれからも、無くなることはない。
何かに夢中になっていれば、その瞬間だけは忘れられる。だけどまた不意に、思い出しては蘇ってくる。途切れ途切れでも、これから先もずっと続いていく。
だからもう、無理に無くそうとはしない。乗りこなしていく。上手く付き合っていく。

時間は、有限だ。今これを書いている瞬間すらも、俺はだんだんと死んでいる。
だから不安なくらいが、ちょうどいい。生き急ぐくらいで、ちょうどいい。
不安を焦りに、焦りをエネルギーに変えて進んでいければいい。「ありたい姿」に少しでも近づいていくために。

だからと言って、常にとらわれる必要はない。
将来に対する漠然とした不安に、今この瞬間の楽しみまで搾取される必要はない。
誰かといるときは楽しんで、向き合うべき時に向き合えばいい。

「ないもの」ばかり、数えるな。「あるもの」に目を向けろ。

雑音に乱されるな。「自己満足」をもっと大切にしろ。

目の前のことに過度に一喜一憂する必要はない。
すべてが経験だと思って、前に進め。

ひとりで閉じこもるな。手を伸ばせ。
お前には助けてくれる人たちがいるだろ。

周りの人たちを大切にしろ。
感謝の気持ちを忘れるな。

 

大丈夫。わかっている。頭で理解していても、すぐにはそう思えない日もある。
だからこそこうして、文章に残す。忘れないように。いつかまた、立ち返れるように。

明日からも、不安なままだ。それは変わることはない。
あるべき努力を続けたとしても、恋人がいても、結婚しても、家や車、大きな財産を持てたとしても、仕事を楽しんでいようとも。不安が完全になくなるわけじゃない。

だけどそれは、お前だけじゃない。誰しもが、不安の中にいる。
恵まれているように見える人だって、何かに悩んでいる。努力している。
自分だけが不幸だなんて、自惚れるな。
それさえ忘れなければ、大丈夫だ。明日も明後日も、生きていける。

 
 
 
 

思えばもうすぐ、誕生日が来る。
嬉しくはない。

 

それでも、祝ってくれるあなたがいるのなら。
笑って「ありがとう」と言える自分でありたい。

 
 

◽︎平野謙治(チーム天狼院)
天狼院書店「パルコ心斎橋店」副店長。
1995年生まれ25歳。千葉県出身。
早稲田大学卒業後、広告会社に入社。2年目に退職し、2019年7月から天狼院スタッフに転身。
入社以来「東京天狼院」を中心に勤務。その後2020年10月に大阪心斎橋へと異動。
2019年2月開講のライティング・ゼミを受講。16週間で15作品がメディアグランプリに掲載される。
メディアグランプリ33rd Season, 34th Season総合優勝。
『この街には、君がいない。』など、累計5作品でメディアグランプリ週間1位を獲得。

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