チーム天狼院

「飲み会に使う無駄な時間」という言葉の意味が変わってきた《川代ノート》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

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「一流になりたければ飲み会に参加するのはやめましょう。時間の無駄です。いいことはひとつもありません」

 先日、YouTubeを見ていたときのことである。若くしてビジネスで成功したらしい人の動画をたまたま見つけて開いてみた。彼の語る仕事術や成功法則はじつにわかりやすく、たしかにそのとおりだなと思うことばかりだった。

 飲み会に参加する時間は無駄。

 おっしゃるとおり。

 飲み会に行ってだらだらと話し、仕事の愚痴を言いあい、酔っ払ったあかつきには記憶をなくして何を話したんだかさっぱり覚えていない。翌日は二日酔いで仕事にならず、ポンコツ化して効率が下がる。ああ、あんなに飲まなきゃよかったと思うのに、なんだかんだで誘われたらまた参加してしまう。

 そんなのバカのすることだろう、と思っていた。やりたいことがたくさんあって、成長意欲の強い人間にはそんなことに費やす時間はない。



 私は有意義なことにだけ時間を使い続けたい。きっと今後もこの考え方は変わらないだろう。

 そう思っていた。

 ……そう思ってた、んだけどなあ。



 バカなのは私だったね。あまりにも考えが短絡的すぎた。



 ほんとうは、ああやって過ごした記憶に支えられて日々、私は生きてたんだなとつくづく実感している。

 この状況になる前、「意味もなく飲み会に参加する」ことは問答無用で「無駄」のカテゴリーにぶちこまれていた。もうほとんど見ることなく「ハイ無駄! 無駄でーす! いらないでーす!」という感じで仕分けしていたのである。それがさあ、いま考えるとどうよ。

 私はもう、あの時間が愛おしくて恋しくてしょうがないよ。

 ああ、もう悔しいよ。ほんとうに寂しい。高田馬場駅前の汚くて安っぽくて衣が死ぬほど硬い唐揚げが出てくるあの居酒屋でもう一回飲みたかったよ。潰れちゃったんだってね、あの店。わちゃわちゃ騒ぎながらみんなで酔っ払って肩組んでさ、サークル仲間と一緒に飲んでたはずが、気がついたらまったく知らない別の人と肩組んでて、でも楽しいからいいやーっていってそのまま飲み続けてさ、気がついたら終電がなくなっててさ。もうしょうがないからこのままオールするか、ってゲーセンいってダーツやって最後にカラオケいって、だんだん冷めてきた頭でラルクのレディステディゴーとか歌ってさ、なんか知らないけど突然号泣するやつとか出てきてさ、気がついたら歌う空気じゃなくなって酔っ払いハイだからなのかわからんけど哲学的な話をしだしてさ、それまでたいして仲良くなかったはずなのにいきなり家族の話とか自分とは何かみたいな話とか、宇宙の真理とか話しだしちゃったりしてさ。うちらが真剣に話してるのに「まあ、みんな大変だよね!」とか適当な相槌うってなんも理解できてないやつとかもいて(というか酔っ払ってて頭ほぼ回ってなくて)ひたすらポテト食ったりトイレで吐いたりしててさ、でもうひとりは酔い潰れてカラオケのソファで爆睡しててさ、明け方近くにカラオケから出てほとんど人がいない街を走り回って遊んで転んで、もういい大人なのに膝すりむいて血出したりして、ようやっと始発の電車で解散して。

 で、寝て起きて、ガンガンする頭で冷静に携帯見直したら知らないやつと撮った写真とか入ってて「誰この人」ってなるんだけどまったく思い出せなくて。酔った勢いで自分のアイデンティティ的なことを熱く語っちゃったのを思い出して死にたくなって家でひとりぐわああああって叫んで……。



 そういう時間のさ!! どこが無駄だったんだよ!! っていまじゃ思うんだよなあ。そうだ。そうなんだよ。無駄じゃなかったんだよ。いや、たしかに短期的に考えれば無駄だったかもしれない。べつにあれがあったからといって私が成長できたわけでもないし、何かメリットがあったかというとまったくなかったと思う。

 でもどう考えてもさ、あの時間があったからこそ、私はいま生きていられるんだよ。ああやってバカやって意味のない時間を過ごして大笑いして、なんでこんな愚痴ばっか言ってんだろ、ほんとダメ人間だなあ、とか落ち込んだりもするけど、でもなんとなく自分と同じ状況にいる仲間がいるから安心できて。

 傷の舐め合いと言われたらそれまでだけどさ、傷の舐め合いがないと生きてけない日もあんだよ。しょうがないんだよ。だって生きる意味が見つからない日もあるじゃん。つまらない日もいっぱいあるじゃん。そういう「生きる意味」みたいな漠然としたイメージにとらわれていること自体ももう嫌になって自己嫌悪で自信が持てなくて、成長したいと強く願ってはいるのに努力はしたくなくて、すぐにサボりたくなる怠惰な自分も嫌で。

 ……そんなふうに、ぐるぐるひとりで考え続けていると、もう何もかもが嫌になるときがある。いっそ消えてしまえたら、と思うこともある。

 でもそういうときに、ふっと思い出すんだよ。でもあのとき楽しかったしな、って思うんだよ。思い出すんだよ。一瞬だけでも。あのとき楽しかったから、もしかしたらまた楽しいことがあるかもしれない、だからもうちょっとがんばってみようとかさ、どんなに疲れ切った日でもなんとかあとちょっとだけ踏ん張ってみようとか、思えるのはあの「無駄な時間」があったからなんだよ。

 

 そういう「無駄な時間」の蓄積で私は出来上がってたんだな、とつくづく思う。そしてまたあの「無駄」を積み重ねたいと強く思う。簡単にできる状況じゃないからこそ、あの時間が愛おしくて恋しくてたまらない。

 

 ねえ。

 ねえ、みんな、元気にしてる? 

 あのとき言ってた悩みは解決した? 

 人間関係しんどいって愚痴ってたけど、その後どう? 

 最近の恋バナ聞かせてよ。

 赤ちゃん生まれたんでしょ? どんなふうに笑うんだろう。

 またさ、スケジュールあわせて台湾とか、旅行いきたいよね。

 湘南とか木更津とか、海沿いをドライブするのもいいね。

 海外いこうね。ライブハウスいこうね。もみくちゃになって大声で叫ぼうね。



「無駄」ってなんなんだろう。

「効率化」って?「生産性」って?「有意義」って? 



 そんなことを最近、よく考える。



 みんなに会いたいなあ。



 

 


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