あのライブハウスは、無くなった。《スタッフ平野の備忘録》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:平野謙治(チーム天狼院)
あのライブハウスが無くなるというニュースを聞いた。先週のことだった。
コロナ禍による経営難が原因であろうことは、すぐに察しがついた。だけど驚きを隠せなかったのが、正直なところだった。
いつか機会があれば、また行こうと思っていた。いつまでもそこにあるような、そんな気がしていた。
初めて行ったのは、高校生の頃だっただろうか。
友人のバンドが出演すると聞いて、誘われるがままにただ足を運んだ。
昔から、音楽が好きだった。だけど当時の僕にとって「音楽を聴く」というのは、イヤホンをつけて一人で聴くことだったし、ライブは映像で観たことはあっても会場に足を運んだことなんてなかった。
どんなところなのだろうという、期待と不安が入り混じった気持ちで友人について行った。
ライブハウスというのは、不思議な魅力がある場所だと思う。僕が初めて行ったそのライブハウスも、例外ではなかった。
入口は入るのを躊躇うほどに怪しい雰囲気で、手すりの錆びた階段はお世辞にも綺麗とは言えず、カウンターで貰ったジンジャーエールはむせかえるほどに炭酸が強かった。場内はタバコ臭く、照明は薄暗く、とにかくうるさい。嫌な人は、嫌だろう。
だけどその全てが、嫌に感じるどころか、魅力に感じられるくらい、僕はその空間に取り憑かれた。
音楽を好きな人が集まって、音楽を好きな人たちが演奏する曲を、聴く。様々な感情を共有する。ただそれだけのことが、どうしようもなく美しく思えた。
狭いステージで、安っぽい照明を浴びながら、あいつが歌った歌は、上手くも、かっこよくもなかった。
それでも僕には輝いて見えたし、あの狭いライブハウスの、あの狭い狭いステージこそが、僕たちにとっては世界に思えた。
「音楽を聴く」=「イヤホンをつけて一人で聴く」という、方程式が崩れ去ると同時に、僕の日常は変化していった。
ライブに行く予定が、手帳に定期的に現れるようになり、様々なアーティストを観に、様々な会場に足を運んだ。狭く古い会場から、大きくて立派なところまで。それぞれに、それぞれの魅力があることを知った。
そしてライブに関わったのは、「客として」のみならず。スタッフとしても、関わるようになった。
一体どれだけの現場に、関わったのだろう。大学4年間で、とにかく様々な場所に行ったものだ。熱心に働くあまり、月給が20万を超えたこともあった。学生にも関わらず、だ。
それだけのお金を欲していたわけではなく。ただライブに関われる楽しさが故にだった。
そうして僕が、スタッフとして様々な会場に行く中でも、「あのライブハウス」はそこにあり続けた。
バンドを続けていた友人が出演することも時々あったし、予定があれば客として観に行った。そこは相変わらず汚くて、相変わらず美しい空間で。
行くたびに思い出していた。そうだ。僕はあの日、あの場所で、ライブに心を奪われたんだ。
「あのライブハウス」に行けば、いつでも当時に戻れるような気がしていた。
音楽のことが好きで好きでたまらない仲間がいつだってそこにいて、大好きな音楽が鳴っていて。
社会人になり、コロナが拡大し、東京から大阪に異動になり、足は遠のいていたけれども。いつかまた、「あのライブハウス」で集まれるような気がしていた。いつかまた行くことになると、信じて疑わなかった。
だけどその日は、ついに訪れることはなかった。
閉館。コロナ禍による経営難が原因であろうことは、すぐに察しがついたけれども。
信じたくないというのが、偽らざる本音だった。
「今の幸せは決して当たり前じゃない」とか、「永遠なんて存在しない」なんて、ありきたりな言葉は、この世に溢れている。それこそJ-POPの歌詞に何度となく使われているだろうし、何度となく耳にしてきたし、理解できていたつもりだったけれども。どうやらそんなことなかったみたいで、油断すると僕らは、この緩やかな日常がいつまでもだらっと続いていくとすぐ錯覚してしまう。少なくとも僕は、そうだったみたいだ。
今目の前にあるもの。思いつく限りの好きなもの。好きな場所。好きな人。
それらが存在しているのは、存在し続けているのは、決して当たり前なんかじゃない。
いつ失われたって、無くなったって、おかしくなんかない。
だからこそ、今存在している世界を、刻み込むこと。形にすること。書いて、残すこと。
ただそれだけのことに、どれだけの価値があるのか。やりきれない気持ちと共に、確信したんだ。できるときにやらないと、いつか後悔することになると。
あのライブハウスはなくなった。僕らが集まることも、なくなった。
何が、いつまで存在しているかなんて、わからないのだから。
残したいものが、人が、場所が、感情があるなら、先延ばしするべきじゃない。今この瞬間に、書き上げるべきなんだ。
他でもない、自分の手で。
◽︎平野謙治(チーム天狼院)
天狼院書店「パルコ心斎橋店」副店長。
1995年生まれ26歳。千葉県出身。
早稲田大学卒業後、広告会社に入社。2年目に退職し、2019年7月から天狼院スタッフに転身。
入社以来「東京天狼院」を中心に勤務。その後2020年10月に大阪心斎橋へと異動。
2019年2月開講のライティング・ゼミを受講。16週間で15作品がメディアグランプリに掲載される。
メディアグランプリ33rd Season, 34th Season総合優勝。
『この街には、君がいない。』など、累計5作品でメディアグランプリ週間1位を獲得。
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