キレイな手のひら返し体験〜『さよなら全てのエヴァンゲリオン』を見て、180度変わったこと〜
*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:鳥井春菜(チーム天狼院)
最近、綺麗な「手のひら返し」を体験した。されたのではなく、した方で。
実は、ここ数年ようやく「ドキュメンタリー」というものの面白さがわかってきた。
これまで、「なんか真面目で堅そう= 面白くなさそう」と避けてしまっていたのだけど、実際に見てみると「いや……これがリアルってすごい!!!」という感情が湧き上がるのが醍醐味。自分では考えつかないようなことを他人は考え、生きている。奥深いものだ。
さて、そんな私が最近見たドキュメンタリーが『さよなら全てのエヴァンゲリオン ~庵野秀明の1214日~』である。いわずと知れた人気アニメ「エヴァンゲリオン」の監督、庵野秀明氏の制作現場を4年にわたって独占密着。庵野監督が「プロフェッショナル仕事の流儀」に出演された時にもかなり話題になっていたかと思うが、そこにさらに追加映像を加えて再編集したドキュメンター映像である。
このドキュメンタリーについて語ろうとすると、それはもう本当に各シーンで様々なことを感じざるを得ないというか、テーマが無数にありすぎて一つの記事には到底おさまらないという感じだが、今回はその部分ではなく、ドキュメンタリーの中のわずか数分に満たないワンシーン、私が「手のひら返し」を体験したシーンについて話したい。
それは、酒の席だった。
庵野監督とスタッフたちが、居酒屋で他愛のない話をしている。ざわざわとした騒音の中で酔っ払った庵野監督が言う。
「僕は『むでんちゅうか』は反対なんで」
え? なに??
『むでんちゅうか』 = 『無電柱化』
あぁ、なるほど、景観のために電柱をなくそう、という話か。確かに、京都などの観光地は特にそうだろうし、私自身もたまに空のスマホのカメラを向けてみても、あぁ、電柱が入るなぁと結局シャッターを押さないことがある。無電柱化。わかる話だ。と、音の意味を理解して賛同したところで気がついたが、なんと庵野監督は「反対」と言っている……!
えぇ、どうして!? 電柱なんて青い空を横断して景色の邪魔になるばかりじゃないか。無くせるのなら、無くしてしまった方がいいのではないか。しかし、庵野監督はこう続ける。
「電柱の美しさがわからんとは」
え、えぇ~、美しい……? 電柱が美しい……?
「電柱のいいところ、無駄がないんですよ」
電柱が? 無駄故になくそうとされているのに……?
心から楽しそうに、無電柱論を語る庵野監督。内心、ちょっと無理あるんじゃあ……と首を捻る私。
そして、差し込まれるインサート画像。その絵の中では、エヴァンゲリオンが電柱が何本も続く道を夕日を背に歩いていて……
……え、ほんまや。
本当に電柱が「美しい」。肩を揺らして歩くエヴァンゲリオンの両サイドに軒を連ねる電柱たち。そのシルエットは夕日の中でくっきり浮かび上がり、まるでエヴァの花道のよう……めちゃくちゃかっこいい。
くるりっと、キレイに心の声が手のひら返しをして、自分でも笑ってしった。
それはちょっと言い過ぎじゃない~? と斜めから見ていたのに、物的証拠を突きつけられて、「おしゃる通り!!」 とすぐさま下ったし、180度の回転体験にむしろ心躍った。まさか自分が、たった一枚の画像を見ただけで、数秒前と真逆のことを思っているなんて。自分はなんて考えが凝り固まっていたんだろう。世の中はなんて広いんだろう、面白いんだろう。
なぜ、「無くしたらいいじゃん」とまで思っていた電柱を、「美しい」と感じるのだろう。
自分は、電柱から「人の営み」を感じるからだろうか、と考える。人の生活を向上させるために建てられた電柱。それは今でも人の生活を支えているし、スマートとは言えないその朴訥とした姿は、実は、人間が不器用ながらに日々をよりよくしていこうと努力した結果なのである。
配線は弛み、何本も黒い線が出て、確かにデザインされているとは言い難いのかもしれない。それでも、なんだか電柱は人の歩んだ歴史を匂わせている。いわゆるアナログと言うか、できることを不器用に少しずつやってきた人間の真面目さを醸し出しているし、あまりにも日常的な存在だから目に留まらないけれど、その姿からやっぱり大切な「小さな生活」を感じる気もする。そういう意味で、愛おしく、またその揺るがない立ち姿に美しいと思うのかもしれない。
庵野監督がどんな風に電柱を愛しているのかはわからないが、庵野監督の絵を見て、私はそんな風に電柱に思いを馳せた。
一人で道端を歩いていて、ある日突然電柱の美しさに目覚めることはなかっただろう。
庵野監督の絵を、目を通してだからこそ、その美しさに気がつけたのだ。電柱を美しいと思っている人の電柱の絵はやっぱり美しく、それを見た者は本物の電柱を見たときにもどんな風にそこに「美しさ」を見出せばいいのか自然とわかるようになるということだ。結局、モノをつくると言うのは、制作者の世界を相手に見せる、ということなのだと思う。
電柱を見上げる。これまでは空を見上げていたけれど、今は、電柱も一緒に見上げている。美しいなぁ、と思う。配線の絡まりにも色々なパターンがあることや、電柱といっても意外と形にバリエーションがあることを知る。
知れてよかったなぁ、と思う。
いつだって自分の世界は塗り変わっていくのだなぁ、と思った。
***
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