昔の自分、殴る代わりに握手をしよう
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:田中麻美(チーム天狼院)
きっかけは友人との会話だった。
「昔の自分を殴りたいってとき、あるよね」
彼女がぽつりとつぶやいたその言葉に、私は「あるある。めっちゃわかる」と同意する。
「なんでそんなことを選んだんだってね。なに考えてんだお前! みたいな」
そう続けると、彼女は苦笑して頷いた。どうやら考えていることは、まるっきり一緒らしい。
ようするに、後悔だ。過去の自分が選んだことを、今になってやめておけばよかったと思う。なんで、昔の私はそんなこと選んじゃったかな。馬鹿だったのかな。普通に考えて、そうじゃないだろうお前! もっとよく考えろ!
1年くらい前、私はとある資格習得のための講座を受けるかどうか悩んでいた。将来その仕事を選ぶなら、絶対に受講しておいたほうがいいもの。しかも大学内で講義が行われるから、どこかの予備校に行く必要がない。手厚いサポートも受けられる。
でも、私はそこで立ち止まった。本当にこの仕事に就くのか? 絶対にこれ、と言えるわけじゃない。迷いがある。そんな状態で始めて、講義についていけるのか? 勉強を続けられるのか? まわりの学生は本気で、この職業を目指して頑張っている中で、私は大丈夫なのか?
そんな問いがぐるぐる頭の中で駆け巡って、不安でいっぱいになって、私は受講しないことを選んだ。やっていける自信がなかった。この仕事に就くという決断も、迷いながらも頑張ってやってみるという決断もできなかった。
受講生の中にも、迷いながら勉強する人も多いとアドバイスされた。だから今、絶対に決める必要はないのだと。講座のスタッフはそう言ってくれたけど、でもやっぱり私には無理な気がした。結局、受講しないまま今に至る。
でも、いざ就活を始めてみて、私は再び立ち止まった。受講しないと決めたあのときの選択は、本当に正しかったのか? 可能性を残しておくべきだったんじゃないか? この仕事を目指す可能性があるなら、受講しておいたほうがよかったのでは? そんな問いが、またしても頭の中をぐるぐると駆け巡った。
もし受講していたら。もし、迷いながらも頑張って勉強していたら。もし、手厚いサポートを受けられていたら。たくさんの『もし』でいっぱいになって、選ばなかった未来を悔やむことしかできなかった。
一度何かに対してそう思ってしまうと、ずぶずぶと深みにはまっていくもので、頭が勝手に過去をさかのぼり始める。ゼミの選択を間違えたのではないか? 専攻はこれでよかったのか? そもそも学部は? 大学は?
そしてとうとう行き着く。私、何がしたかったんだっけ。何がしたかったのかわからない問題。
何を勉強したかったのか。大学で何をしたかったのか。どんな仕事をしたかったのか。すべてがわからなくなる。私、なんで今、ここにいるんだっけ。生まれ育った場所から遠く離れたところで、1人で、こんなこと。
今の自分がよくわからなくなるから、先の見えない将来が不安になる。そこには何が待ち構えているのか。知らない世界に飛び込んでいくことが、怖くて仕方なくなる。
そんなモヤモヤを抱えて家に帰って、部屋に入って電気をつける。そこで、ふと視界に入ったものがあった。
クマのぬいぐるみ。子供のときに誕生日プレゼントでもらって、大学に入って引っ越しするときも連れて来た。もう10年以上の付き合いになる。
もらったときのことは、今でもよく覚えている。大きな包みに入っていて、中に何があるのか予想できなくて、開けるその瞬間までドキドキした。開けてみたら大好きなキャラクターのぬいぐるみで、すごく喜んだのを覚えている。
思えばあのころは、将来はドキドキで溢れていた。先なんて見えなかったはずなのに。何もわからなかったはずなのに。それでもプレゼントの包みを開けるときのように、何があるかわからない将来に対して、私はドキドキしてワクワクしていた。
もしかしたら、今だって同じなのかもしれない。今だって将来に対して、ドキドキワクワクできるのかもしれない。ただ私が少しばかり後ろ向きになってしまっただけで、先の見えない未来というものは、子供のときと何も変わっていないのだから。
過去の自分を殴りたいと思った。それは過去の自分が間違った選択をして、そのせいで今の私の未来には、間違った道しか用意されていないと思い込んだから。でもこれからのことは、誰にもわからないんじゃないのか? プレゼントの包みの中に何が入っていたのかわからなかったように。開けてみるまで、わからない。
今の私は、プレゼントを開ける前の状態だ。何が入っているのかわからないから不安になるのも仕方ないのかもしれないけど、わからないんだから、ワクワクしたっていい。
だから、過去の自分を殴るのはやめよう。もしかしたら、正解だったかもしれない。ドキドキと、ワクワクをありがとう。殴る代わりに握手をしよう。
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