人見知り定期戦
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:村山真子(チーム天狼院)
「今日はどんな感じにしますかぁ」
あんな感じにしたいんです。
「うーん、ちょっとこの辺まで切ろうとは思ってるんですけど」
「結構切りますねぇ」
「そうですねぇ、思いきってみようかなと」
「じゃとりあえずシャンプーしてから、そのくらいまで切ってみますね」
「はい、お願いします」
今の会話でなりたい髪型のイメージをうまく伝えられた気がしない。
「前髪はどうしますかぁ」
「うーん、まゆげくらいで、あ、あと、前髪のこの辺につむじがあるので、ぱっくり割れないように適当に切ってください」
具体的に要望すると、くすぐったい気持ちになるから、適当に、ってごまかしちゃう。
自分の理想の髪型に近い写真を美容師さんに見せればいいというけれど、恥ずかしくてどうしてもできない。昨日の夜あんなに探して、一応カメラロールの一番手前に保存しておいたのに、今日もその写真の出番をつくってあげられなかった。
気まずくて、目の前に置かれた雑誌に目を落とす。
私の外見からスタイルを判断して何気なく美容師さんが置いた。すごい。それはまさに私の好きな雑誌です。
でも、手を伸ばすタイミングがわからない。
シャンプー終わりに、切った髪の毛から私服をガードするためのツルツルのマントを巻かれた。そのマントの前には2つ、穴が開いている。
巻かれるとき、美容師さんに誘導されるがままそこから手を出したはいいが、手の置き場がない。
しかし雑誌に手を伸ばすために一瞬だけ前かがみになるのはいいのだろうか。
一言ことわる勇気がない。
仮に雑誌を読めたとして、ページの間に自分の切った髪の毛が挟まるのはなんとなく嫌だ。
結局、マントから無造作に出ている手に、切った髪の毛がかかる。心の中でため息をつく。
あぁ、やることがない。
切ってもらってる自分を鏡ごしに眺めるのは好きだけど、美容師さんと目が合うのも気まずい。
だから、目のやり場がない。
そんなときの必殺技。寝たフリ。
向こうも技をくりだす。鏡ごしに、
「お疲れなんですねぇ」
の一撃。もろに食らって目を開ける。
「そうですねぇ」
と答えるものの、寝るほど疲れてはない。
私に精神的な100のダメージ。
隣のお客さんは、よくしゃべっている。あの感じだと、この美容院は初めてじゃないのだろう。
私はいつも違う美容院を選ぶから、親しくしてる美容師さんなんてまだこの世に一人もいない。
もし、同じ美容院を選んで、あ、またあの切ってる間なにもしないで寝てる客が来た、と思われたら恥ずかしすぎる。
そんなの考えすぎだよって言われるけど、ああいう接客のプロって、本当に前に来たお客さんを覚えてることがあるから、あなどれない。
「後ろこんな感じですけど大丈夫ですか」
「あ、はい」
なんか思ってた髪型と違う。無理もない。
私に200のダメージ。
本当は、イケイケのベリーショートがいい。
ワックスつけたら髪の毛がツンツンするような、ロックバンドのボーカルみたいな、イキった髪型がいいのに。
「ありがとうございましたぁ、またお待ちしておりまーす」
今日も負けた。髪は軽いが心は重い。
でも、美容院の翌日、友人に会うとたいてい、こう言われる。
「えー、髪切ったの! いいじゃん! ショート似合う人ってほんといいよね! 美容師さんになんてお願いしたらそういうかっこいい髪型になるのー、知りたいなあ」
かっこいいなんて言ってくれて、ありがとう。なんか、切るたびに思うけど、私が納得いってないだけで、もしかしたらそんなに悪くない髪型なのかもしれない。でも、自分のイメージを伝えられなかったせいで、素直に喜べない自分がいるのがいつも悔しい。
できることなら、私も教えたいよ。
だけど、適当に言ったんだ。本当に適当に言ったらこうなるんだ。何度も何度も家でイメトレして臨んだのに、いつもうまく美容師さんに伝えられないんだ。
私も聞きたいよ。
一体みんなは美容師さんになんてお願いして切ってもらってるの、って。
あぁ、いつの日か、私と、ランダムに出現する美容師さんとの定期戦に勝って、自分の理想の髪型になれたら、もうこのまま永遠に髪の毛なんか伸びなくていい、私はきっとそう思うんだろうなぁ。
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