チーム天狼院

早起きしたからってちょっと調子に乗ったら思いがけない体験をした話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:村山真子(チーム天狼院)
 
誰か後ろから近づいてきてる…… 
 
振り返って確認したほうがいいだろうか。
振り返らずにそれとなくこのベンチから立ち去るべきだろうか。
 
心拍数が上がるのを感じる。
 
あぁ、早起きすることがなければ、こんなに不安になることもなかったのに……
 
 
 
 
 
 
その日、私はものすごく早起きした。
新聞配達の音が聞こえたくらい、早起きした。
 
もう一度寝ることも考えたが、やめた。
せっかくの早起きを有意義に使おうと考えた。
 
 
ランニングをしよう。
 
意味はない。不意に思い付いただけ。最近運動不足で、とりあえず体を動かしたかったんけど、昼間は暑すぎて走ろうなんて微塵も思わない日々が続いていた。だから、まだ気温が上がる前に走るのは、ナイスアイデアな気がした。
 
こうして、ランニングシューズを履いて、朝食前に玄関の扉を開けたのだった。
 
 
しかしさすが運動不足。およそ3分後のひとつ目の信号待ちで止まったのを機に、走ることをやめてしまった。
 
 
空を見上げる。
 
とてつもなく気持ちのいい晴れた日で、そしてまだ涼しかった。
 
よし、走るのはやめにして、公園に行ってベンチでのほほんとしよう。
 
 
名案だった。
 
 
いや、名案のはずだった。
 
 
 
 
 
 
 
気がついたらなぜか、ベンチの背後からゆっくりと近づく何者かにものすごい不安を覚えていた。
 
のほほんとした時間はほんのわずかだった。
 
なんとなく身の危険を感じて硬直していた。
 
後ろからの気配を感じる。
 
視界の左手に、背後からカートがやってくるのが見えた。
 
は?
 
なんかあの、腰の曲がったお年寄りが押してるやつが視界に入った。
 
カート?
 
ものすごいゆっくりとした歩みで、私が座るベンチの隣のベンチに近づいてきた。
 
そこに座るのか?
 
もしここでベンチに座って話しかけられたらなんか怖いから、その前に去ろうかと私は心の中で揺れ動いていた。しかし結局、恐怖で身動きはとれなかった。
 
おばあさんの表情を間接視する。怖い。
なんかなんとなく不意に怒鳴られそう。
目を合わせたらアウトなような気がした。
 
おばあさんはゆっくりと、歩く。
カートの車輪がくるくると、回る。
 
ん?
 
座らんの?
 
おばあさんはベンチを少し通りすぎ、ベンチの前にあった水飲み場の前で止まった。
 
水飲み場と表現するのが正しいかわからないけど、公園によくある蛇口だ。
 
 
上向きの蛇口は、水分補給ができるタイプの蛇口。蛇口というべきか謎だけど上向きに水が出てくる。
下向きの蛇口は、蛇口。手とか足とか洗える。
 
おばあさんは、上向きの蛇口を見た。
 
なぜか、その上向きの蛇口には、フタのない、お茶のラベルがついたままの、500mlの空のペットボトルが逆さまになって、かぶさっていた。
 
おばあさんは、おもむろに、そのペットボトルに手をかけた。
 
そして、そのペットボトルを蛇口から抜き、上下をひっくり返して、その蛇口の横に置き直した。
 
は?
 
私は今、目の前で起きたことがよくわからなかった。
 
なぜ?
なんのため?
は?
意味がわからなかった。ますますおばあさんが怖くなった。
 
もはやここまで来ると見届けたくなるものである。怖いけどちょっと気になるってやつである。ベンチを去らずに、おばあさんとも目を合わせずに、私はおばあさんを観察していた。
 
おばあさんは、再び、カートに手をかけた。
そしてゆっくりと歩き始めた。
 
小さなカートの車輪がたった5回ほど回ったところで、おばあさんは立ち止まった。
 
そして、よろめいた。
 
ついには、かがんだ。
 
私は、目の前でおばあさんが倒れるんじゃないかと瞬間的に思った。
 
全てがスローモーションになった。
 
頭の中で、保健体育の授業で教わったはずの、心臓マッサージのやり方を必死に検索した。
 
思いだせ私、思いだせ私。
 
 
 
おばあさんは、地面に右手をのばした。
 
私の周りを流れる時がとまった。
 
私は息をのんだ。
 
 
 
 
 
おばあさんは、落ちていたタバコの吸い殻を拾った。
 
 
なんだよ!!!!!!!!!!!!!!
 
 
おばあさんが倒れなくてホッとして思わず心の中でツッコんだ。
 
おばあさんはゆっくりと歩き出し、ベンチから水飲み場の間の距離の2倍ほど離れたところにある吸い殻入れに、拾った吸い殻を入れて、公園から去った。
 
 
 
かっこよすぎか!!!!!!!!!!!!
 
 
恐怖でしかなかったおばあさんに、惚れた。
この早朝に、散歩がてら、ゴミ拾い!
ベンチに座る私に、あんたもやんなさいよとかそんなこと一言も言わず、黙々と、ゴミ拾い!
カートを押すおばあさんの背中がかっこよすぎた。
 
 
私はベンチから立ち上がって、おばあさんが置き直した空のペットボトルを手にした。
 
そして、自販機の横のゴミ箱に、入れておいた。
 
おばあさんとの連携プレー。
 
一言も言葉を交わさなかったけど、二人で成し遂げたゴミ捨てのような気がして、嬉しくなった。
 
 
ランニングは思うようにできなかったし、ベンチでのほほんともできなかった。
朝の公園で、少し怖い思いをした。
 
 
だけど、早起きしてよかった。
 
 
 
 
年を取ったら、おばあさんみたいなカッコいい人になりたい。
 
 
そう思って、公園をあとにしたのだった。
 
***

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