箸にかかりたい-私がスタッフになった理由《スタッフ片倉の世迷言》
私がなぜ天狼院でインターンをやろうと思ったか、もしもそう聞かれたら、一言では言い切れない。
でも、無理矢理一言で言うとすれば、
「店主三浦が何がしたいのか、良く分からなかったから。」
と答える。
2014年2月24日、寒い日だった。
「新しくできた本屋さんがあるんだけど、面白そうだから行ってみない?」
友人に言われるがまま、道に迷いながら、辿り着いた。
店に入って間もなくして、友人がトイレに入った。
ふらふら、ふらふら、本を眺めながら一人で店内を歩いていると、
「当店、初めてですか?」
と、店主らしき人が話しかけてきた。
「はい、初めてです!」(←内心、びっくり。ちょっと、衝撃。)
(本屋さんなのに話しかけられた!
勧誘されて、いっぱい本を買わされるのだろうか…。
しかし、友人は出てこない。仕方ないので、取り敢えず平静を装う。)
「うち、イベントもたくさんやってるので、興味があったら、参加してみると面白いと思いますよ。」
そう言った、その人の視線の先を見ると向こう何週間かのイベント情報がびっしり書いてあるブラックボードがあった。
確かに面白そう。
初めて来たその日は、イベントに出たわけでも、長居したわけでもなく、トイレから出てきた友人と店内に置いてある本を眺めて、最終的に一冊購入し (←買わされたわけじゃないですよ!) 、店を出ただけだった。
友人とは、また行こうねーくらいは、話した気がするが、特にそれ以上、触れることはなかった。
でも、私の中で、ずっと何かが引っかかっていた。
なんだか、変な本屋さんだったなと思った。
“天狼院書店”
明らかに大型の書店ではない。おそらく、個人経営なのだろう。
世間では本離れが囁かれていたり、電子書籍化が進んでいたり、インターネットで本を買うことができるたりする時代。
書店と製本業者の廃業が相次いでいる、書店ゼロの街が増えている、という文字を見る事も多くなった。
私はそのとき、『書店人に告ぐ』『書店人に告ぐ2.0』に書いてあるような、書店の仕組は全く知らなかったが、それでも、傍目に見て、本屋は儲からない。そう思った。
しかも、近くには大きな書店もある。
私だったら、絶っっっっ対に個人経営で本屋さんなんてやらないと思った。
じゃあ、なんで、わざわざ、この時代に書店を経営しようと思ったのだろうか。
やはり、引っかかった。
しかも、髭生やした怪しい人が、イベントやってるとか言ってたけど、本屋なのにフォト部とか書いてあったし…。
もしかして、そこに秘密が隠されているのか?
いやいやいやいや。いくら、イベントって言っても、面白そうだったけれど、そんなに儲かるわけないじゃん。
ということは…営利目的ではない?もしかして、あの髭を生やした怪しげな店主が大金持ちで、趣味で経営しているだけ?
それとも。
何か野望があって、信念があって、書店業界を変えるつもりで、経営しているのだろうか。
最初に感じたその引っかかりは、日増しに膨らんでいった。
怪しげな、その人の話をもっと聞きたいと思った。
その後、何回か天狼院に行ったり、ホームページを見たりして、作家さんやら、編集者さんやら、私が普段、普通に生活していたらなかなか出会えないような方々がお客さんとして出入りしていたり、トークライブをしていることを知った。
そこが面白いと思った。
私は、人の話や考え方を聞くのが好きなのだが、昔から、物事を考えすぎてしまうところがあって、自分の頭の中では整理がつかないなんて日常茶飯事で、そのくせ、考えすぎって言われたり、否定されたりするのが怖くて、自分の考えをほとんど人に話したことがない。だから、本当に悩んでることこそ、誰にも相談しない。できない。ということばかり。
でも、天狼院に来る人達の話を聞いていると自分の頭で考えまくって、ぐしゃぐしゃに絡まって、もやもやしていたことにパッと線を引かれたような気持ちになることがある。
ふっと、整理できる瞬間がある。
そんな瞬間が心地よくて、もっと、いろいろな人の話を聞きたい。考え方を聞いてみたい。と思うようになった。
それから数か月後、スタッフとしてレジに立っている自分がいた。
天狼院スタッフになってみて、天狼院を知れば知る程、分からないことは増えたけど、
天狼院の扉を開けると、そこには、いつも変わらない、
箸にも棒にもかからない私をスタッフにしてくれた三浦さんと、仕事ができなくても嫌な顔をせずに何でも教えてくれる先輩スタッフさんと、天狼院に出会えて良かったなと思える瞬間が、私を待ってくれている。
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