新海誠の新作「君の名は。」を観てコンテンツにおける満足度とはイコール萌えであると気がついてしまった。《川代ノート》
いやー、ついに見てきましたよ。
みんながあまりにいいだの面白いだの感動するだの泣けるだの、二回見ただの三回見ただの言うので、どうにもこうにも、天邪鬼な私としては、「どうせみんなが言うほど面白くないんでしょ」的なスタンスで、全く期待しないで見に行ってしまったのですが、いやー、よかったわ。マジでよかった。本当によかった。
「君の名は。」マジでよかったです。マジで。本当胸が苦しくなった。キュンキュンが止まらなかったわ。
見に行ったのは仕事を無理やり終わらせた19時くらいの回で、福岡のキャナルシティまで、同じく福岡天狼院で働いている山本海鈴と一緒に行きました。
まあ、そもそも、この「君の名は。」を見に行こうと思ったのも、山本が見たい見たいと何度も言うからだったのです。
正直に言ってしまうと、私はジブリ信者的なところがあります。なので、どんなに世間で評価されているアニメ映画があっても、「そんなこと言ってなんだかんだジブリほどの面白さではないんでしょ」と思ってしまうのです。だから、今回の「君の名は。」も、まあそれほどではないと予想していたというか、もっと正確に言うと、「それほどではないことを期待していた」というか。まあ、そういう部分があったので、あんまり見るつもりはなかったし、全然期待していませんでした。
けれど、山本が一週間前くらいからずっと「君の名は。見たい!」「今日こそ君の名は。見に行く!」「今日も見れなかった」と、ずっと呪文のようにキミノナハ、キミノナハ、と言っているうえに、福岡スタッフの大山(23歳・男子)もめちゃくちゃ面白かったと話していて、この前福岡で開催した映画ラボでも、年間何百本と映画を見るという映画フリークの男性二人が「めちゃくちゃよかった」と言っていたので、これはもう見なければならないと思ったのです。見ないと話題に乗り切れん、ここで行かなかったらきっと、「君の名は。」を一人で見て、興奮気味に帰ってきた山本が、「めっちゃ面白かった!! やばい!! やばい!! 本当面白すぎた!!」と言いながら、すでに映画を見たスタッフ大山と、店舗で大いに盛り上がり、私が置いてけぼり感を味わうことに間違いないのです。私はそういう疎外感を感じるのが死ぬほど嫌いなのです。だから、山本と一緒に観に行くことにしました。作品がつまらないことよりも、仲間から置いてけぼりを食らうことのほうがずっと苦痛です。
なので、映画館について「いや〜めっちゃ楽しみ!!」と言っている山本とは対照的に、私は「いや、期待しないで見たほうがいい」と何度も言っていました。本当に期待していなかったんです。全然。どうしてかはわからないですが、はじまるまで「どうせ面白くないんでしょ」と思いながら席に座ったんです。
が、しかし、ですよ。
「めっっっっっっっっちゃよかった」
もう、なんだか、興奮しすぎて、私は自分の顔面を手で覆ってしまっていました。
「やばいわ、これ、マジで」
言葉を抑えることができない。
本当面白いっていうかなんていうか、もう。本当、もう。なんか、もう、もう!!!!
みたいな。
で、おそらく同じように死ぬほど興奮しているだろう山本と語り合うべく、隣の席を見たわけです。
「もうめっちゃくちゃ面白かったよね!!! やばかったよね!!!!」
そう私以上に興奮気味に言う山本の顔を想像しながら。
「……」
「え?」
けれど、横を向いた瞬間、ちょっとびっくりして、思わず声が出てしまいました。
「微妙」
そう、山本の顔に書いてあったからです。思いっきり。
「あれ?」
びっくりしました。
絶対に山本は面白がるだろうと、私以上に大興奮しているのだろうと思っていたからです。なのに、この表情。「思ってたより面白くなかった」と言わんばかりの顔。
どうしたんだろう、と思いつつも、私は正直に「いや〜、面白かったわ」と言いました。
すると、山本は、
「うん、ハッピーエンドになってよかったね、うん。ヨカッタヨカッタ」と、全く嬉しそうじゃない顔で、棒読みで言いました。
それを聞いて、あ、これは予想外だったんだな、と納得がいきました。
面白かったら素直に面白かったと言うはず。なのに、この感想とは、これいかに?
山本と映画や本の感想が食い違うということは今までにあまりなかったので、どういうことだろうと逆に興味が湧きました。
どういうことだ。
どういうことだ。
「え、あんまり面白くなかった?」
あまり友達と映画の趣味が食い違うということは、友情をはぐくむ過程においては、よくないことかもしれませんが、まあ、山本とは長い付き合いです。今更映画の趣味が合わない程度で幻滅したりもしないでしょう。そう予想した私は、正直に感想を聞くことにしました。
「いやあ、なんだろう。私、『言の葉の庭』の方が好きかな」
彼女の言う「言の葉の庭」とは、新海誠の他の作品。それも切ない雰囲気が独特でしたが、私はその言の葉の庭よりも、「君の名は。」の方が、ずっと面白く感じました。
「うーん、なんだろう、この違い」
「いや、わかんない」
「え、でも映像綺麗だったよね?」
「うん、綺麗だった」
「話も面白かったよね?」
「うん、話もすごい引き込まれた」
じゃあ、なんで?
二人の頭の上に、浮かぶクエスチョンマーク。
二人とも、話は面白いし、映像は綺麗、という、映画が面白かった点に関しては同意しているのに、どういうわけか、満足度には差が出る。
私たちは不思議でした。
もはや、その謎を解明したいということに、神経が向かっていました。
探偵になった気分で、この満足度の違いを解明する、私と山本。
他の友人たちのケースを思い浮かべます。
「私のまわりでも、めっちゃよかったっていう人、すごいいた」
「うん、私の周りにもいた」
「何回も見た、っていう子もいたし」
「いたねー、男5人で2回見に行ったっていう友達いたよ」
「ああ、そういえば」
そこで、私と山本は、はたと顔を見合わせました。
「この前、映画ラボで、『君の名は。』めっちゃよかったって言ってた二人も、男性だったよね」
そう。
私たちの周りで、「君の名は。」を絶賛している人の割合でいくと、明らかに、男性が多い。
「あれ?」
映画ラボの男性。
スタッフの大山、23歳、男子。
そういえば、たまたま来ていたお客さんのなかにも、めちゃくちゃよかったと熱弁していた男性がいました。
女性でも、面白かったと熱弁している人はいましたが、そういえば、私ほど興奮した人はあまりいない。
あれ、これって、もしかして。
おそらく、私と山本の頭の中に、同時に同じ考えが浮かびました。
キャナルシティから天神への道を歩きながら、私たちの考察は止まりません。
「あのさ、瀧くん、私めっちゃ好きなんだけど、どう?」
その質問が、この「満足度の違い問題」への答えを示しているような気がしました。
「え、瀧くん、ぜんっぜんだわ」
ああ、やっぱり。
瀧くんというのは、「君の名は。」の主人公の男の子の名前です。
「え、瀧くんめっちゃきゅんきゅんした! あの手のひらのとことかマジ最高で私叫びそうだった! 声も神木キュンだしかっこいいし本当イケメンだった……。あの喧嘩っ早いところも最高」
「えー!? 手のひらのとこ、私全然キュンとしなかったわ。なんか『お、おう』ってなった。全然なんとも思わなかった。私瀧くんよりも『言の葉の庭』の男の子の方が好きだわ」
あ、やっぱり。
ここで、もう答えは出たようなものです。
「ねえ、みすず」
私は、名探偵になった気分で、山本に自分の推理をぶつけます。
「コンテンツにおける満足度って、結局、『萌え』なんじゃないかな?」
「ああ」
納得したような声がきこえました。
「私は、瀧くんに死ぬほど萌えた。なぜなら、喧嘩っ早くて、照れ屋で、声が神木キュンという、私の萌えポイントを的確についていたから。その男の子が、あんなに一生懸命恋に走っているところを見て、死ぬほど興奮した」
話しているうちに、きっとそれが正しいのだろうという確信が芽生えます。
「でも、みすずは、瀧くん、全然タイプじゃないんだよね」
「うん、芯がまっすぐしてて、男らしいキャラの方が好きだな」
「だからさ、ストーリーが面白くなかったのに、『微妙だった』って思っちゃったんだよ。結局、コンテンツの満足度って、ストーリーや技術とかもそうだけど、『満足度』に限って言えば、一番重要なのって、『萌え』なんじゃないかな?」
萌えられるか、どうか。
それは、オタクだけの用語のように聞こえますが、実は、誰の心のなかにも「萌え」の感情はあって。
たとえば、女子に大ブームを起こした「おそ松さん」だって、ストーリーは、オチがなかったり、話の展開が急すぎたりすることもたくさんありましたが、それでも人気だったのは、登場するキャラクターに、視聴者が萌えることができたから。
「ズートピアだって、そうじゃん。あんなに人気出たの、もちろんストーリーがめちゃくちゃ面白いっていうのもあるけど、ニックとか、女子のハートをわしづかみにするキャラが出てくるから、あれだけ流行ったんじゃない?」
女子に大ブームを起こした、ズートピアのキツネの詐欺師、ニック。
彼も、詐欺師ながらも優しいという、女子が大好きなギャップと闇を持ったキャラクターで、私も、ニックに会いたいと強く思ったからこそ、映画館に二度、足を運ぶことになったのです。
「だからさ、今の時代、萌えとか、バカにできなくて」
私は、話しているうちに、だんだん興奮してきます。
「もう、萌えられる映画が、結局、はやる映画なんだよ。たくさんの人に広がるコンテンツを作るには、結局、消費者を興奮させなきゃいけないわけだから。興奮すると、人は誰かにその感情を吐き出したくなる。となると、結局、人を興奮させるコンテンツを作る上で、今一番大事なのは、『萌え』なんだよ」
そう、結論付けました。
萌え。
それは、ある一定の層にしかない、感情だと、思われがちですが。
そんなもん、関係ないよ。ストーリーだろ。メッセージ性だろ、と、言われそうな気もしますが。
案外、そうでもないのかもしれません。
きっと、どんな人の心の中にも、「萌える」スイッチはあって、それをいかにくすぐることができるかが、これからのクリエイターには求められているんじゃないかと、別にマーケターでも一人前のクリエイターでもない素人ながら、あくまでも、消費者の目線で考えて、私は思ったのでした。
そう、だから、山本の満足度は低かったけれど、私の満足度は高かった。
萌えが、すべての答えだったのです。
文章を書いたり、物語を作ったり、映画を撮ったり。
そういうコンテンツを作りたいと、これからコンテンツを作って食っていきたいと思っているような、私のようなクリエイターを目指している人間は、「萌え」を意識していかなければならないのかもしれないと、気がつきました。
しばらくずっと、その話をして夢中になっていましたが、気がつくと、もう天神についていました。
天神のご飯屋さんのネオンが、輝きます。
私たちは、大通り沿いに、福岡天狼院に向かって歩きます。
「あ、でも」
ふと、山本が思い出したように口を開きました。
「男子の方が、満足度が高かったのは、なんでだろう?」
「たしかに」
その疑問がまだ、残っていました。
明らかに、男子の方が興奮している理由。
たしかに、瀧くんと、もう一人の主人公である、三葉は、とてもかわいかった。ヒロインとして、魅力的だった。でも、そこまで興奮を掻き立てるキャラだったのか。
「理由が、思いつかな……」
そう言って、ふと前を見上げると、ピンク色のネオンや、怪しげな文句が、さまざま、目に入ってきます。
「休憩3000円」
「ジャグジー付き」
「コスプレ完備」
そう、天神のラブホ街。
そしてそのラブホ街を見て、ぴんときました。
「あ」
また、山本と顔を見合わせます。
きっと彼女も、私と全く同じことを考えているのでしょう。
「男子の方が、満足度高かった理由」
「うん」
思わず、ふっと、笑い声が出ました。
「おっぱいだな」
「うん、おっぱいだね」
「おっぱいだわ」
「おっぱいに、間違いない」
そう、おっぱいです。
おっぱいなのです。
それが、すべての答えなのです。
まあ、これは、見ていない人は全く意味がわからないでしょうが、見た人には、きっとわかっていただけるでしょう。
結論。
コンテンツにおける満足度とは、イコール、いかに萌えを生み出せるかにかかっている。
そして、男子を満足させるものは、リアルにおいても、コンテンツにおいても。
やはり、おっぱいである。
私は、ふと下を向き、自分についている、とても平面でおだやかな、丘とすら言えないような小山を見つめ、はあとため息をつきました。
どうやら、私がクリエイターとしても、女としても、男子を満足させられる日が来るのは、なかなか遠そうです。
とほほ。
*この記事は、ライティング・ゼミを受講した、スタッフ川代が書いたものです。お客様でも、ライティング・ゼミを受講されている方は記事投稿にチャレンジする権利を得ることができ、店主三浦のOKが出ると、WEB天狼院に記事を掲載することができます。
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